2017.06.21 劇場



評価 4.6

恋愛小説だ。
作者が作者なので、ものすごく不利だと思う、なぜならこの主人公にどうしても最初のうちは作者を重ね合わせてしまう。
強烈な印象がある作者(声高に物は言わないが存在感が芸能人であるので半端なくある)の声が聞こえてきてしまうのだ。
さらに不利、だと思うのは、これが関西弁で語られているのでますます作者に重ね合わせてしまって、それを脳内から振り払うのにとても時間がかかった。

劇団で食えない生活をしている永田。
彼がふとしたことで見つけた沙希という女性は、よく笑いよく彼をサポートしてくれた。
一緒に暮らすようになり、永田は自分の劇団のトラブルや他劇団で活躍する人たちへの嫉妬にも苦しむ。
内省的な永田を常に笑いで温かく包んでくれる沙希・・・しかしその恋愛の行く末は・・・


永田が考え始めると、その考えが記されていて、それがとても屈折しているのがわかる。
彼の考えをたどっていくと、常に自分、というのがあり、常に外から見られている自分もあり、とどのつまりは自分でしかないのだ。
とてつもなく文章を頭で紡ぎ、頭だけで考えて、屈折しまくっている男、永田の姿がこちらに伝わってくる。
彼はお金もないこともコンプレックスになっている。
世間から演劇の世界で認められていないこともコンプレックスになっている。
彼独自の世界を誰もわかってくれないということもコンプレックスになっている。
そして強い自我意識のみが存在して、彼をようやくこの世で生かしているのだった。
元劇団員の女性が本を出した時のすさまじい罵倒も、彼の心の本質を描いている。

永田像というのが、昭和の時代の文学系演劇系の男性に多かったなあ・・・と懐かしかった。
今も形を変えているだろうけれど、今はインターネットがあるのでそこで決定的に違うのだ。
昭和の屈折した男永田、というのが私の印象だ。

その中で、奇跡のように現れた沙希。
現れた、というか、彼女との出会いも、普通でいえばかなり気持ち悪い、ストーカーのようなものだから。
ナンパというのでもなく、ただただ彼女を求めている永田の気持ちが薄気味悪い、普通の感覚だったら。
けれど沙希は菩薩のような存在なのだ、永田にとって。
最初のうちは永田を警戒していたのに、あっという間に警戒をほどいて彼のあらゆるところを受け入れようとする沙希がいる。
沙希の永田に対していった
「本当によく生きて来れたよね」
という言葉がわかる。

後半、沙希が壊れていく。
もし、彼女が別の男性と普通の恋愛をしていたら。
もし、彼女が永田が声をかけた時に無視し続けていたら。
いくつものもし、が頭をよぎる。
天真爛漫で誰からも愛された彼女が壊れていくのを読んでいるのがとても辛かった。

・・・・・・・・・・・・
この小説、私が違和感があるのは、性描写が一切ないということだ。
手をつなぐ、というところまではあるけれど、そのあとはない。
同棲していて当然交渉はあるのだろうから、そこに対しての両者の思いというのも絶対にあるはずで、そこが書かれていないというのが奇妙に思ったのだった。