2017.06.20 かがみの孤城


評価 5

読み終わった時に、

(この物語が、今現在学校で、家で闘っている全ての子供に届きますように。
そして闘わなくてもいいんだよ。
放棄してもいいんだよ、とも。
身近で信頼できる大人をだれか見つけられますように!)

と強く強く思ったのだった。
物語はそれだけの力があるとまだ信じている。
この物語はそれだけの力があるとも。

また冒頭の部分と最後の部分が呼応して円環の物語になっている。
冒頭を読んで絶望感に浸った人も、最後の文章で救われる。
非常に巧い構成だと思う。

・・・・・・・・・・・・
辻村作品の初期の作品にとてもテイストが似ている。
たとえば、冷たい校舎~あたりに。
けれど、かがみの孤城は、その作品よりもずうっと問題が根深くなっている。
扱っていることは、学校内のいじめ、に端を発しているのは同じなのだが、かがみの孤城ではこれが複数の人たちが何らかの形で(それはいじめに限らない)学校にいけない状況、になっているのだ。
不登校の子供たちが集結して、そして一つの謎を解いていく。
その謎とは、鏡をそれぞれくぐってきた城の中で会った少年少女が、鍵を見つけることだった。
鍵を見つければ、一つだけ願い事が叶う。
皆それぞれ独自に探していくのだが・・・・

自宅の部屋の光り始めた鏡の中を通って別世界に女子中学生こころが行く、そこには狼のお面を付けた女の子が待っている・・・
彼女はお面の中から、3月までに鍵を見つけろそうすれば願い事が一つだけ叶う、と教える。
でも願いがかなった瞬間に孤城は終わってしまう。
そして彼らの記憶も消えてしまう。
いずれにしてもこの孤城が3月までの期間限定のものだとも。
そこには自分と同じような境遇の同世代の7人の少年少女がいた・・・


これだけだとファンタジーだ。
子供向け?ここにも出てくるナルニア?
けれど、これは私が思った『そういう傾向』のファンタジーとは一線を画していた。
最初のところで挫折しかけた人はあともうちょっと読んで欲しい。
ファンタジーではない、というのがよくわかってくるだろう。

集まったものの、少年少女はお互いが何となく学校に行っていないということだけは知っているが、それぞれの事情を面と向かって聞きはしない。
本名も知らず、ただ名前のみ(または苗字のみ)を知っている少年少女。
ゲームをしまくっている男子二人マサムネとスバルの中に入れてもらえるこころの姿がまぶしい、ここでは入れてもらえた・・・でも周りを見てまた仲間外れにされるのではないかとおどおどしているこころの姿もまたあるし彼女の中の疑心暗鬼は消えていない。
最後までなぜ?というのがわからない子がいる、それは部屋にこもっていることが多かったアキ、だ。
また3人のうちの女の子の一人フウカもなかなかその本当の姿が見えない。


登場人物
・マサムネ・中学二年生。学校に行かなくてもいいと言っている独自の考えの両親がいる。ゲームマニア。言動がストレートな男子中学生。学校になぜ行けなくなったのか、学校で何と呼ばれたのかが途中でわかる。
・スバル・マサムネと最初からゲームをしている不良っぽい男の子。お兄さんがいて途中で髪を染めてくる。彼は祖父母と暮らしている。こころがハリポタのロンに似ている、と評している。
・アキ・中学三年生。大人っぽく極端に学校のことに触れられるのを嫌がる。
・こころ・中学一年生。
・リオン・中学一年生のイケメン。なんで誰からも好かれそうな爽やかなリオンがここにいるのかが皆の疑問だったが途中で意外な彼の立場が半分だけわかる(残り半分は最後の方でわかる)。
・フウカ・中学二年生。眼鏡の女の子。とっつきは悪い。部屋にいることが多かった、途中まで厳しいことを言うことが多い。
・ウレシノ・中学一年生。苗字で呼んでいるちょっとぽっちゃりめの男子中学生、最初の内疑似恋愛ごっこで全ての女の子に好きだというアプローチをして気味悪がられる。なぜ彼が不登校かは、途中で明らかになる。

主人公にあたる、こころ、の事情だけはっきりと最初の方からわかっている。
入学したばかりのマンモス校の中学校で一人の同級生から激しいいじめと仲間はずれにあっていた。
家を取り囲まれるまでに至って彼女は不登校になるのだ。

ずうっと孤城にいられるわけではなく5時と決まっていて、そこを出たら狼に食べられてしまうという掟があるので、家にいるという時間もあってそこでは日常を送っているこころ。
スクールという不登校の子供たちの学校すら行けなくて苦しむこころ。
そのスクールで唯一心が開けそうだ、とこころが認めたのが、女性の喜多嶋先生だった・・・


・・・・・・・・・・・・・
こころとお母さんのやり取りの中で、引きこもりになって初めてお母さんに全てを話した部分に泣けた。
ここは親と初めて本当のことが話せた、しかも現実というので泣けたし、そこまでこころが学校にいけないというのを問題視扱いしていた母親が、実はこころの一番の味方だったというのをこころが理解した瞬間だったから。
母親が学級担任に立ち向かってくれる姿にも泣けたのだった。
(にしてもこの担任!!!と言ったら!!!)

この物語は
・そもそもこの孤城とは何だったのか
・ここに集められた中学生は何だったのか
・狼の面をつけた少女は何者なのか
・リオンはなぜここにいるのか
・最後に探すカギは何を意味しているのか
とたくさんの謎に満ちている。

ミステリとしては、伏線がたくさんの場面に潜んでいる。
正直、こうじゃないか、という大きなこの物語の構成はその伏線を読んでいればわかる人が多いのだと思う。
わかっても尚且つ読ませる力があるとも思った。
またラストの二つ、つるべ打ちの様に衝撃だった、これはどちらも予測していなかったから。

最後まで読んだら必ずや最初に戻ると思った。
そして最初からもう一度読んでみると、新たな目で読み直すことができるのだ。


以下ネタバレ
・この物語が時制の違った子供たちが集められた、というのは話のずれで割合初期でわかる。
スーパーの有無、同じ喜多嶋先生の描写、マック、ゲームの感じ、休日の受け止め方(特に1月15日の話)・・・
そして途中で同じ学校ということも、アキがたまたま着ていた制服でわかる(制服は時を経ても変わらないものの一つだなあとは思った)
それがわかるのが、スバルが三学期のある日登校するので、皆に来て欲しいと言った時に、皆が行っても会えなかったというところも大きい。
けれど途中でマサムネがゲームに見立て、これが並行世界だと言い始めたのでそうなのかなあ・・・とそこで一旦考え直したのだが・・・でもやっぱり最終的には時制が違っていた。

最後5時過ぎまでいたアキのせいで、皆が狼に食べられてしまう。
それを救うべくこころが立ち向かう、この物語は、七匹の子ヤギの物語だと気づいて子ヤギが隠れた場所に行って、印の×印に手をやるとそれぞれの人の生い立ちが脳内に出てくるのだった。
(この×印の意味がわからなかったので、なるほど!)

・スバル1985年
親と離れ祖父母と暮らし、不良の兄の影響でそちら方向に走ろうとしている。
ゲームをするマサムネと親友になりつつあった。
だから、彼は「ゲームクリエーターの有名な人と知り合い」と言ってしまってそれが嘘とわかって学校に行けなくなってしまったマサムネのために
『自分がゲームクリエーターになる』
と宣言してくれる。ここは泣けた。
彼とマサムネは時が離れているので、実際にその可能性はあるのだ(本人たちが覚えていないにしろ)

・アキ1992年
彼女の姿が一番わからなかった、何に悩んでいるのか最後の最後までわからなかった。
彼女は義父によって家庭内の虐待になりそうなのを必死に耐えていた。
その過程でテレクラなどにも救いを求めていたが何もそこからは生まれなかったので絶望していた。
彼女を救うために全員が協力して引っ張るのだ、特にこころの活躍がある。

そして時を隔てて、彼女が実は喜多嶋晶子だということがわかる(驚いた!!)
そう、彼女は喜多嶋先生で、不登校になったこころを救うことになるのだ。
そればかりか、年老いた喜多嶋先生とその後の子供たちの出会いもある。
(リオンの姉をみとったことからこの道に進もうと決意していた)
子供たちに狼の口から救ってもらったアキはその救いの手を今度は救ってくれた子供たちに返したのだった。

・こころ・リオン2006年
リオンはハワイの学校から通っていた。
だから彼だけが不登校ではないのだ。
けれど、小さい時に姉を病気で亡くしていて、母親がその気持ちから抜けきれない。
ハワイに追いやられたと思っていた。

そしてリオンは地元の学校に強烈に行きたかった。
最後リオンはこころの学校にさっそうと現れる。
覚えていなくても、こころを見つける、このエピローグが最初の部分に繋がってい行く・・・
奇跡は起きるのだった。

さらに狼の面をつけて皆をここに招集した少女は、亡くなった彼の姉だった。

・マサムネ2013年
ゲームが大好きなマサムネ。
嘘が口からついて出てしまい、ホラマサと言われている、学校では。
仲の良い友達にまで見捨てられ学校に行けなくなる。

マサムネは、苗字であるというのがラストでわかる。
ウレシノに続いて二人目。

・フウカ2020年
ピアノの天才児と騒がれて母親もその気になり、全てを犠牲にして練習しまくるが・・・
結局それほどの人にはなれず、学校での勉強を取り戻すべく孤城で部屋で学校の勉強をしていた。
こころからの贈り物を宝物のようにしている姿が可愛い。

ウレシノからの好意をしっかりと受け止められる少女で、覚えていないというのは承知で、
年齢の違うウレシノと未来での出会いを約束する。

・ウレシノ2027年
学校で友達の名のもとにお金を奪われたり、暴力を振るわれたりする。
途中で一回戻るのだが、その時にも壮絶な暴力を受けている。


・こころをいじめていた女の子からの手紙の話(2回ある)は、

<<以下冷たい校舎の時は止まるのネタバレになりますので注意!>>




冷たい~で、角田春子という女の子がいじめをした深月にそのお詫びの手紙を出したのだが受け入れられない、

というのに通じていると思った。
このことによる悲劇的結果が、冷たい校舎ではあるのだが、かがみの孤城ではまた別の展開が用意されている。