2017.07.26 ジャンプ


評価 5

祝直木賞受賞!佐藤正午!

ということで、過去作を再読してみた。
全くのゼロの目ではなく、最後を知っている(途中の展開も知っている)目で見てみると別のところが前回とは違って際立ってくる。
基本は失踪の物語だ。
それもリンゴ一つのための失踪・・・明らかに松本清張の失踪物語とは違う展開だ(途中で主人公が松本清張を読んでいるという場面も何度か出てくる)
非常によくできている話だと思う。
失踪、をめぐる男女の心の機微の話でもあるのだが、ミステリとしてもとてもよくできている。
どちらに比重を置いて読むかは読者の好みなのだろう。
徐々に徐々に明らかになっていく失踪の謎・・・が読んでいてわくわくする。

しかも。
この話が人の心を掴むのは、誰にもあり得ること、だからだ。
「ある日突然失踪する」という心は普通の人の心のどこにもちょっぴりだけ存在している。
この話の場合、きっかけはリンゴだったけれど、ふとした時に芽生えた失踪の衝動というのが誰にもぐっとくる掴みの一手だ。

その失踪が、誘拐などされたものなのか(他者によって)、自らの意志なのか(自分によって)、またどちらでもなく単なる事故なのか(神の手によって)、ここは全く冒頭の方ではわからない。
しかも一晩明けて戻ってきました、やあすみません、という場合だって沢山転がっている。
だからこそ、最初の方の警察とのやり取りもとてもわかるし(まだこの段階では事件扱いできないだろう)、また主人公の男性が出張先にそのまま行っちゃったというのもわかるのだ。
なぜなら、翌日にやあやあがあるかもしれないから。

・・・・・

前半で、さっそくみはるの姉との会話のやり取り(この物語、会話が非常に良い)が生き生きとしていて、情景が見えてくるようだ。姉の佇まいもわかる、そして姉はふっとフェイドアウトしてしまう、「僕」の人生から(理由はあるのだが)
最初の方で必死な捜索状況というのも実にこちらに迫ってくるものがある、警察に届けたり、来た手紙を見てみたり・・・
しかしいったん戻ってきたのではないかということがわかると、じゃあ一体今はどこで何をしているのだろう?その前になぜ突然戻ってこなくなったのだろう?という疑問が次から次へと湧いてくる。
コンビニから突き止めるということをようやく思いつきそこから探っていくと、妙なことに巻き込まれたみはるの姿も浮かび上がってくる。
と同時に、彼女の大学時代、そしてそこから更に深酔いしたバートはいったい何というバーだったのか、というのがわかってくるあたりもまた読ませる。

「僕」は強烈なカクテルを知らない店でガールフレンドと飲んだ。
前後不覚となった「僕」は、ガールフレンドの南雲みはるのアパートに転がり込む。
朝リンゴを食べる習慣がある「僕」のために、みはるはコンビニにリンゴを買いに行った・・・
5分で帰ると言い残して。
ところがそのまま姿を消してしまったみはる・・・
行方を探すのだが、さっぱり見つからない・・・


<以下ネタバレになる部分があります。>



まずこの主人公に最初読んだ時には、(なんて男だ!!)と嫌悪感を抱いたのだった。
なぜなら、ガールフレンドの失踪の翌朝、心配しながらも出張に行ってしまう奴なのだ。
普通ここで何か交通事故にあったのではないかとか、コンビニに行くとか、考えるだろう。
バカなの?と思ったものだった。
また、もっとなんて男だ!と思った部分は、失踪したみはるを探しているので、てっきりこの男はふがいないながらもみはるオンリーの男と思っていたら、途中で年上の女が突然ショールームで馴れ馴れしく出てくる。
なんだなんだ?と思っていると、なんと生意気にもこの男は両天秤してた?は???
もうここで、なんて男だ!!というのが決定的になったものだった。

が。今読み返してみると、この「僕」は、典型的なサラリーマンの悲哀を背負ってもいるのだ。
会社の穴をあけちゃいけない、会社の用事が最優先だ、という普通の男であるということに気づくのだ。
なぜなら、この後半の方でも会社を優先している、どんなことがあってもやっぱり会社優先の典型的なサラリーマンだ。
両天秤、と思ったが、これは優柔不断の男だからだ。
しかも年上の女性、とは別に結婚の約束をしたわけでもなく、実に軽い気持ちで付き合っている。
一方、みはるは新しいガールフレンド(本人もガールフレンドとしているだけあって)であり、まだ未知の存在だ。
だから、振り子がどちらに揺れるか、のような感じでふらふらしている状態だったと思う。

この物語、最初の方からとても凝った作りになっている。
最初のところで自分が道を外したのは一杯のカクテルだったが、その前の段階で別の年上の男性が自分が道をずらしたのは一足の靴だった、と語っているのは、失踪したみはるの別れていた父の話、であったからだ。
これが後半みはるの失踪を探っていくうちに、沖縄のみはるの父のところで彼が聞いた事実である。

・また最初にいなくなった時に、テーブルの上にあった差出人のない水色の封筒。
・さらに、みはるが言っていた「誰からかわからない無言電話」がこの頃多い。
・ある日曜日に自分が新宿のフルーツパーラーで女性と会っていたという事実。
これらは全て後に「僕」の妻になる年上の女性の仕業だった。彼女は「僕」と結婚したかったのだ。
このことを結婚して子供もできた後で知った驚愕というのは「僕」を打ちのめしただろう、その策略を巡らした彼女と結婚しているわけだから。

●みはるの流れ
・コンビニにリンゴを買いに行く

・具合の悪くなった大学生がいて、救急車を呼んで同乗することになる

・病院で大学生は落ち着いたのだが、そこで偶然大学時代の親友の一人と出会うことになる
親友は夫の病気で来ていた、そして夫は亡くなった

次の朝、自分のアパートに戻る➡ここ重要。
しかし「僕」は出張中。
テーブルの上の手紙を持って再び家を出る。

葬儀まで彼女は付き合う。
そこで親友の夫の隠し子らしき子供と出会う。
祖父母に家に暮らしたくないので家出してきた子だ。
みはるは自分も父の顔を知らないのでその少女に同情する。
彼女を静岡まで送り届けようとしてホームで水色の手紙を読む(ここには自分が結婚したいと書いてあった)

子どもは自分の生みの母親がいる高松に行くという。
それにみはるはついていく。

東京に戻る。➡ここ重要。
ここで「僕」が新宿のフルーツパーラーにいることを目撃し確認。
「僕」の将来の妻が書いた手紙は本当だと確認する。

沖縄で実の父親と出会う。
モデルになる。

有田に行く。
陶器のデザインをしている。