評価 4.9

思いがけず最後泣きそうになった。
若林、侮れず・・・

単なるキューバ紀行の話と思っていた、芸人が書いた旅日記のような感じに思っていた。
その部分もあるが、ここには常に
『人見知りで自意識が思い切り高い自分』
をわかっている屈折した作者がいる。
彼は外側から自分をよく見ているので、自分をよくわかっていて、そこがふっと笑いたくなる巧みな文章だ。

キューバで会ったキューバ人だったらまず明るくダンスを踊りそうで多弁でありそうだ、という思い込みはとても分かる。
そしてそう思っていた彼の前に現れたキューバの案内人が無口でしかもシャイな青年だったとは。
もうここで大爆笑していた、なんで、案内される側が気を使わなくちゃいけないんだ!!
たった一人で旅をする。
日本人がほぼいないキューバに行く。
その最初のところから惹きつけられるし、若林が勉強が必要と思って家庭教師にまでわざわざついて日本史とかを勉強している姿にも好感が持てる。
この人、本当に外から自分が見える人なのだ、何が足りない、ので自分がそうなのか、というのが。

・・・・
キューバのクラシックカーの多さとかゲバラの話とかもそれは面白い。
けれど、それよりもたった一人で勇気をもってバスに乗り、しかもどこで降りるかわからないのに水泳の道具を持っていた白人の後からとことこ降りていく、その砂浜でビーチパラソルを交渉する・・・ああ・・素晴らしいではないか!
そしてこのあとのトラブルで、ぶんぶん怒りながら帰ってしまうけれど、このトラブルも含めて旅なので素晴らしいではないか!!

そしてラスト。
なぜ彼はキューバに来たのか。

そこが父親と関係していることがわかって、小さなミステリを読んでいるようだった。
亡くなってしまった父、これを読む限りでは仲がとても良い親子だ。
父が行ってみたかったキューバという国。
こういう思いで若林はキューバを回っていたのか、と思うと胸が熱くなった。
2017年の読書メーター
読んだ本の数:142
読んだページ数:45828
ナイス数:3667



TOKYO海月通信
TOKYO海月通信感想
今回出るのがちょっと早かった?(というような気が)ぎりぎりで買いますが、今回は余裕で買って読めました。これを読まないと一年が終わった気がしないので。一年の中で、小池人気から凋落まであっという間というのがよくわかったなあ。映画の趣味はいつも全く違うと思っていたのですが今年は比較的シンクロしていて・(ベイビードライバーとかとか・・・)嬉しかったです。ラ・ラ・ランドの試写会のスマホ注意の話も天晴れと思いました、注意した女性に。中野さんのイラストページも大好きでそこはかとなく似てるのが笑えます、毎月の俳句も一興。
読了日:12月30日 著者:中野 翠
ソラリス (ハヤカワ文庫SF)ソラリス (ハヤカワ文庫SF)感想
以前の訳で読んでいたのですがどこまでわかっていたのか・・・そして今回も全部把握しているか?と聞かれたらそうではないとは思うのです。でもです、把握しきれていなくても非常に感動しました。最後まで謎は私の中でたくさん残っています、ソラリスの海が見せたものは人間の中のあるものなのですが、それは友好だったのか反発だったのか、無作為なのか。そもそもコンタクトの概念があるのか。また、ケルヴィンの恋愛話も勿論読ませますが、今回改めて読むとソラリスの海の造形が鮮烈でこちらに迫ってくるようで心に残りました。ラスト一行も秀逸。
読了日:12月30日 著者:スタニスワフ・レム
蝶のいた庭 (創元推理文庫)蝶のいた庭 (創元推理文庫)感想
堪能しました。ぎゃあ!読みたくない、でも先が気になる、止められない一冊でした。若い女性の事情聴取から始まり、最初の内はこの女性が一体誰なのか名前も年齢もわからず、ばかりか、被害者なのか加害者なのかも不明です。女性の語りがはぐらかしが多くそこが面白いです。滝も川もある『ガーデン』という場所で『庭師』が何を行っていたかが徐々に紐解かれていくところがおぞましくまた幻想的でした。内容的にジョン・ファウルズのコレクターをどうしても思いますが、この作品の方の庭師の方が愛などは全く求めないので、より怖いと思いました。
読了日:12月30日 著者:ドット・ハチソン
きっとあの人は眠っているんだよ: 穂村弘の読書日記きっとあの人は眠っているんだよ: 穂村弘の読書日記感想
穂村弘の読書日記って、特別な感じがします。彼の独特の視点、独特の言い回しによって(しかもわかりやすい)、自分が読了した本については(こういう見方があったのか!自分も考えていた?もしかして?)と思わせてくれる一文があるし、また知らない本では(ああ・・・読んでみたい!)と思わせる一文が必ずありました。知らない本、読んでいない有名な本をさくっと普通に読んだよ今、と語っているところにも好感を持ったし、古本屋さんで高い本に買うか買わざるか逡巡する姿にも微笑みました。ほむほむ万歳!
読了日:12月28日 著者:穂村弘
狩人の悪夢狩人の悪夢感想
このシリーズの中では好きな方でした。ホラー作家とミステリ作家の対談から始まるのですが、二人とも作家なので、そのスタンスの違い、売れている売れていないの違い、作家としての矜持、とそのあたりも非常に面白く読みました。また有栖川有栖と火村との会話もいつも通りに楽しんでいましたが、火村の夢は・・・一体?このミステリ、夢と弓矢が重要なアイテムとなってきます。犯人がなぜこういう行動をとったのか、というのを追い詰めていく姿は読ませました。
読了日:12月28日 著者:有栖川 有栖
東の果て、夜へ (ハヤカワ・ミステリ文庫)東の果て、夜へ (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
15歳の黒人少年イーストが、組織のボス(叔父)の指令を受け、三人の少年たちと一緒に長い長い旅に出るのです、それもある重要な証人を殺す旅に。ミステリであるけれどロードノヴェルでもありました。足がつくので、車の移動手段なのですが、ここで4人が軋轢を生み、葛藤し、それぞれの個性の主張をしてぶつかりあう青春物でもあります。特にイーストの弟の一種壊れたタイが暴力的であり、手がつけられない人間なのです。最後の驚きとともに一気に読みはしたのですが・・・ともかくもこの小説に必要なのは地図、だと思いました。
読了日:12月28日 著者:ビル ビバリー
粘土の犬 - 仁木悦子傑作短篇集 (中公文庫)粘土の犬 - 仁木悦子傑作短篇集 (中公文庫)感想
仁木兄妹物はぼちぼち既読なのですが、一冊に仁木悦子がまとまるということが嬉しいです。短編集ですが、「おたね」に衝撃を受けました、犯人が誰ということはすぐにわかりますがそれよりも犯人が取った行動にある種の『選択』がある、その描き方が巧いなあと思いました。「罪なきもの~」はシリーズ化してほしかった、特に転がり込んでくる男のキャラが最高でした。「弾丸~」もあれ?という謎から引っ張ってくる楽しさがあります、映像と実際が連動するなんて!と。表題作は目の見えない子を軸に据えた殺人事件の謎解きが光ります。
読了日:12月28日 著者:仁木 悦子
怖い絵のひみつ。 「怖い絵」スペシャルブック怖い絵のひみつ。 「怖い絵」スペシャルブック感想
大盛況(混みすぎ!)の展覧会の前に熟読した本でした。今までの怖い絵シリーズも楽しめましたが、ピンポイントで展覧会出品の絵を語ってくれているので読み込みました。そのあと実際の展覧会へGO!(夜だったので待ち時間がほぼなかったのが嬉しかった、でも中は大混雑)このスペシャルブックは、最後に宮部みゆきとの対談(宮部みゆきもこのシリーズの大ファンだそうです)も良かったです。中野さんの絵の見方というのは、背景を読み解いてくれるので大好きです、ぼんやりと眺めるのも一興、全てを知って見るのもまた一興。
読了日:12月28日 著者:中野 京子

13・6713・67感想
香港ミステリというので非常に敷居が高かったのですが。最初の話から意外性の連続で驚きまくりました。最初の話にこのミステリの良さが集約されているかも。現在から過去に至る遡りの方式で描かれているので、主人公達の現在の姿を知りながら過去を徐々に知っていくという面白さがあり、(ここが分水嶺だったんだなあ・・・)とか(ここでもし別の道を歩んでいたら・・・)とか(推理部分も面白いのですが)人間的なところで多々思うことがありました。同時に香港の歴史も遡っているのでそこも非常に読みごたえがありました。そしてラストが!!
読了日:12月23日 著者:陳 浩基

エル ELLE (ハヤカワ文庫NV)エル ELLE (ハヤカワ文庫NV)感想
映画は見損ねたのですが。驚きました、この話、レイプから始まるという話というのは知っていたので、勝手に『そこから立ち直っていく女性の話』だと思っていました。ところが、このレイプされた女性の過去がすさまじく、レイプそのものも異常な状態なのに、あまりに過去が異常でそれが薄れるような、ぞっとする人生だったのです。更に!後半女性が取った行動が思いもよらない行動で、更にその行動をとったことによって、思いもよらない展開が待ち受けている。すさまじい話です。全員が狂気の中、唯一女性の元夫のみが普通の人、に見えました。
読了日:12月23日 著者:フィリップ ジャン,Philippe Djian
雪と毒杯 (創元推理文庫)雪と毒杯 (創元推理文庫)感想
仰々しくないけれど良いミステリを読んだなあというのが印象。雪山に閉じ込められてしまう人達、しかも遺産相続が目の前にある状況の人達なのです。クローズドサークルものでもあるのですが、大雪の中、この村の中だけは行き来できるクローズド具合というのもまたオツです。最後まで読むと最初の死にゆく人の場面をもう一度読み直したくなるし、言葉の伏線もきちんとしています。犯人はこの人だというのが何度も飛びかいますが、真犯人の動機がとてもわかったのと、事件が全て終わってからの真実の開き具合が好きでした。にしても、『彼』可哀想!
読了日:12月23日 著者:エリス・ピーターズ
ダーク・マター (ハヤカワ文庫 NV ク 22-4)ダーク・マター (ハヤカワ文庫 NV ク 22-4)感想
妻と一人息子との幸せなな家庭生活を送っているが学問的にはもうちょい上に行きたかったかも、の物理学の教授が、ある夜突然殴られ目覚めると誰も自分を認識してくれない世界が・・・。もうこのあたりで、どういう展開か、というのは読める気がしたし、その方向に確かに行くのですが。一種のバカSFっぽいところもあります。途中で大いに笑いましたし。が!!!話はここからで後半、私には思いもよらない動きがありました。SF展開でもあるので、好みは分かれるかも。私は最後の顛末のところでとてもとても感動しましたが!
読了日:12月23日 著者:ブレイク・クラウチ
花嫁のさけび (河出文庫)花嫁のさけび (河出文庫)感想
初々しい花嫁と人気映画俳優のロマンスから幕を開け豪華なお屋敷での暮らしが始まる。恩田陸のネタバレ解説にもあるように、某小説(または映画)を見ているかどうかでこのミステリの読み方が違ってくると思います。ある種のバイアスがかかるから、です。そこが非常に巧みなところ。読み終わった後、(あ、真相が私にはわかっていた!)と一瞬思うのですが、それはわかっていたのではなく、違和感を色々なところで感じていただけであって、語りに翻弄されわかっていた気になっていただけでした。時代的にやや古いところもありますが、読ませます。
読了日:11月12日 著者:泡坂 妻夫
屍人荘の殺人屍人荘の殺人感想
読み終わりました・・・
読了日:11月12日 著者:今村 昌弘
ナチの子どもたち:第三帝国指導者の父のもとに生まれてナチの子どもたち:第三帝国指導者の父のもとに生まれて感想
副題からわかるように、名前を言えばあの人!と思うナチの重鎮の子どもたちの物語。いわばその後、なのです。私の勝手な思いで、(きっと自分がナチの娘息子だったことはひた隠しに隠し、名前すらも変えて生きているのだろう、ひっそりと)とぼんやり思っていました。が、実際は、名前を買えずに生きている人の多いこと!その名前のためにたとえ迫害されても拒絶されても生きていく子供たち・・・裕福な暮らしから一転犯罪者の子供たちになる時にその受け止め方が人それぞれ大きく異なるのだなあと思いました。衝撃だった本。
読了日:11月12日 著者:タニア クラスニアンスキ
月明かりの男 (創元推理文庫)月明かりの男 (創元推理文庫)感想
相変わらず掴み抜群であり、大学内に入った警視正が殺人計画の紙を拾うあたりから、奇妙な実験をしているマッドサイエンティストまで、読ませてくれます。ただどうしても古き良き時代のテイストであり、使われる器具なども昔~という感じがするし、月明かりの中で見た全く違った犯人像の真相というのも、頷くというよりほお、ぐらいで。のんびり楽しむミステリだと思いました。それよりなにより(謎ではないのですが)日本の出版が刊行順ではないので、あの人が!んまあ!こういう!という同作者別作品を読んでいたら絶対に驚くことがありました。
読了日:11月12日 著者:ヘレン・マクロイ
金木犀と彼女の時間 (ミステリ・フロンティア)金木犀と彼女の時間 (ミステリ・フロンティア)感想
タイムリープ物。女子高生の菜月がタイムリープできる(でも5回限りで最後の5回目で決定)体質であるという設定で、クラスの中のある人間が死ぬのを何度もタイムリープで阻止しようとするお話でした。誰が犯人なのかというのも興味ありましたが、それとは別に学園生活のあれこれ、友達との摩擦などのエピソードの方が生き生きしていてそこは面白く読みました。ただ・・・タイムリープが自分の意志ではなくいつ起こるかわからないところ、ラストに至る箇所の展開、タイムリープした後の他の時間軸はどこにいったのか、とか色々疑問は残りましたが。
読了日:10月26日 著者:彩坂 美月
日の名残り (ハヤカワepi文庫)日の名残り (ハヤカワepi文庫)感想
ノーベル賞おめでとうで再読。特にラストの海岸場面、忘れ難くその場にいるかのような気持ちになりました。ドラマダウントン・アビーを見た後だと、この感じが更に良くわかるようになった気がします。古き良き時代のイギリスのお屋敷で執事として采配を振るっていたスティーブンスの身の程をわきまえた、今の目で見るとへりくだりすぎている姿が印象的です。でもこれが彼にとっては喜びであり、ダーリントン卿という尊敬できる主人に仕えるというのが彼の矜持であったのだと思いました。そして気づかなかった愛の行方。静謐で素晴らしい話です。
読了日:10月26日 著者:カズオ イシグロ
小川洋子の陶酔短篇箱 (河出文庫)小川洋子の陶酔短篇箱 (河出文庫)感想
楽しいっ。小川洋子がセレクトした短篇がずらっと並んでいるだけでも豪華なのに、それぞれの作品に対しての小川洋子のエッセイとも短篇ともつかぬ一文がプラスされているところまでずずーいと楽しめました。他の本で既読の作品でもこうして新しく読んでみるとまた違った切り口で読むことができました。私は、中井英夫の牧神の春を動物園で必ず思い出すし、梶井基次郎の愛撫の猫話も日和聡子の行方も忘れられないのですが。今回小池真理子の流山寺がめちゃくちゃ怖かったです!木山捷平の逢引きのそこはかとないエロス、葛西善蔵の遊動円木もお見事。
読了日:10月26日 著者:小川 洋子
デンジャラスデンジャラス感想
大変面白く読みました。細雪の雪子のモデルになった谷崎の妻松子の妹の重子の視点から語られていきます。ぼんやりと知識としてあった細君譲渡事件、姉妹への拘泥、老人になってからの嫁への偏愛ぶり、膨大な書簡などが重子の語りで鮮やかに描き出されこちらに伝わってきました。谷崎王国とでもいえる彼の『輪』の中に文字通り取り込まれた人の多いこと多いこと!虚実入り混じった小説が、皮の中に違う中身があることもある、と言い放つ谷崎とか、重子の嫁千萬子への反感とか、最後の最後での谷崎からの言葉の驚きとか。谷崎作品を再読したくなり。
読了日:10月05日 著者:桐野 夏生
Y駅発深夜バス (ミステリ・フロンティア)Y駅発深夜バス (ミステリ・フロンティア)感想
短編が5編入っていました。この中でやはり表題作のY駅~は起承転結が素晴らしく、また謎の提示の仕方が冒頭から何とも魅力的でした。特にパーキングエリアの休憩所の灯が消えて、そこにいる人達全員が同じ方向をじいっと見つめていた謎、というのは内情がわかるとああ!と膝を打つ面白さでした。九人病は鄙びた温泉で偶然同じ部屋になった人からの語り、という土着のホラーのような話でこれまた気味が悪く皮膚感覚で嫌さがわかり、好感が持てました。猫矢来、主人公がいい感じで学校内部の話も読ませるので、シリーズで読んでみたいかも。
読了日:09月10日 著者:青木 知己
湖畔荘〈下〉湖畔荘〈下〉感想
二転三転する真相、しかもミステリ部分だけではなく深い人物造形に魅了されました。『同じ出来事を見ても違う人、違う見方、だと全く違った真実がそこにある』という何度も出てくるテーマにも驚愕させられました。偶然と必然についても考えさせられます。また母と子供の絆ということについても思いを馳せています、セイディの現在の事件もセイディの私生活も含めて。ラスト、私はこのラストで非常に満足しました。全てはこの輝くようなお祭りの日に始まったのだなあ・・・と2章を読むとますます感慨深いです。(一点、登場人物表は欲しかったかも)
読了日:09月07日 著者:ケイト・モートン
湖畔荘〈上〉湖畔荘〈上〉感想
傑作。70年前の湖畔荘で起こった迷宮入りの赤ちゃん失踪事件が語られていきます。謎が謎を呼び、時制も現在と過去を行ったり来たりしながら、多視点で語られていきます。同じような母子の話が、謎を追うセイディ女性刑事の私生活と彼女が扱ってる事件と70年前の事件で重層的に語られて行きました。何しろ読ませる、ページをめくる手が止まりません。そして上巻のラストで、ええっという驚きの声が。アリスも驚きましたが、私も驚きました。最後まで読んで1章を読むとなるほど、と思い、2章はこの話の総てを物語っていることに気づきます。
読了日:09月07日 著者:ケイト・モートン
わたしの本当の子どもたち (創元SF文庫)わたしの本当の子どもたち (創元SF文庫)感想
大好きです。ジョー・ウォルトンにはずれなし、と改めて思いました。読み応えがあり、冒頭から惹きつけられ、混沌としている目次を見て(なんだろう?)と思い、そして大団円へ。ラスト数ページの畳みかけるような言葉の数々がまた素晴らしく胸に刺さりまだ考え続けています。いわゆる歴史改変(その側面もありますが)SFではなく、いわゆるタイムスリップSFでもなく、一見普通小説のようなのですが、実に味わい深い一冊だと思いました。文学好きへの喜ぶ話も沢山入っています。主人公のパトリシアの人生に思いを馳せながら読み耽りました。
読了日:09月04日 著者:ジョー・ウォルトン
花のようなひと (岩波現代文庫)花のようなひと (岩波現代文庫)感想
色付きの挿絵と佐藤正午の文章を楽しみました。短編が続いた後、最後に中編が。どちらも短いのであっという間に読めますが、滋味深いです。日常のさりげないことから花を絡めての短編は、何かの予兆に満ち満ちているのです。ちょっとした人の心の揺らめきが光ります。どれも長編の書き出しになりそうで、(このあとこの二人はどうなるのだろう?)とか(このあとこの人はどういう行動をするだろう?)と思いを巡らしました。語り口も、手紙、メール、普通の文章、独白、と多様でした。中編の幼なじみは秘密めいていて美しく切なくて心に残りました。
読了日:08月27日 著者:佐藤 正午
晩夏の墜落 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)晩夏の墜落 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)感想
好きな本でした。プライベートジェットに複数の人がいて墜落、そしてその一人のみが助かって子供を海の中で救うヒーローとなる、という話なのですが。ジェットに乗っていた富豪たちが一癖二癖ある人たちなので、陰謀説、テロ説、と噂が飛び交い・・・。この本、『なぜそれが起こったか、誰か事故を起こした人がいたのか』だけに焦点を当てると真相はそれほどでもと私は思います。ただ、その過程でジェットに乗り込んでいく人たちの人生がどうだったのか、のところが読ませます。ばらばらの人生が一点に集約していく面白さ、があると思いました。
読了日:08月27日 著者:ノア・ホーリー
大雪 (大型絵本 (2))大雪 (大型絵本 (2))感想
多分、ですが、同作者のウルスリのすずをおおいに気に入った私に、両親が買ってくれた本だったと思います、これまた小さい頃の愛読本。今度のウルスリ君はお兄さんで、妹愛に満ちていて、妹を助けるのですが。大雪の場面とカラフルなそり行進場面との対比が素晴らしくて。素朴な感じの絵なんですが、今でもひきつけられます。
読了日:08月27日 著者:ゼリーナ・ヘンツ
ウルスリのすず (大型絵本 (15))ウルスリのすず (大型絵本 (15))感想
小さい頃の愛読本。懐かしくて懐かしくて!すず、が日本のすずと違う形でどういう音色がするんだろうなあ・・・と想像したのも遠い思い出。パレードの先頭を歩くためにちょっとでも大きなすずを持ちたいウルスリ君の気持ち、そして今となると一晩いなかった息子を案じる両親の姿、にも心打たれます。パレードの晴れやかな顔と言ったら!!
読了日:08月27日 著者:ゼリーナ・ヘンツ
ミツハの一族 (創元推理文庫)ミツハの一族 (創元推理文庫)感想
一章の終わりでええっと驚き、そのあと、(もしかしてこれってあれ?あれ?あれ?)とずうっと心で呟きながら読んでいました。(あれは、解説でも伏字で触れられているので、そうでしたやっぱり)。大正時代の北海道、未練がこのようにあると鬼になって生活圏の水を濁してしまう人の、未練が何かを探るという話。探る人が水守と鳥目役。両方ともいわゆる目の障害があるのですが、この描写が美しく思わず読みふけりました。ラストの章、いやあ・・・驚きよりも、あたたた・・・
読了日:07月10日 著者:乾 ルカ
プリズン・ガール (ハーパーBOOKS)プリズン・ガール (ハーパーBOOKS)感想
『実の父親に監禁され半死半生の目にあっている少女がそこから脱出する話』と勝手に私は思っていましたが、全く違います。まず監禁の話、ではなく、どちらかというとロードムービー的な話。一緒に彼女と旅する羽目になるデッカーが魅力的、普通過ぎて魅力的という稀有な存在の青年でした。ベティは彼のおかげで成長できたんじゃないかな。腑に落ちないところは数か所あるのですが、さくさくっと読めました。
読了日:07月10日 著者:LS ホーカー
ささやかな頼み (ハヤカワ・ミステリ文庫)ささやかな頼み (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
多分、だけど、作者はハイスミス大ファンらしく(何度もハイスミス作品の話が本文でも出てくるし、解説にもあった)、そういう心理サスペンスを目指していたのでしょうが・・・うむ。ママ友の話、と思っていたらそうではなく(そうなんだけどそうではない)、どちらかというと、本当のその人の姿とは、みたいな話。シングルマザーのステファニーの隠れた過去の開き方、大親友になったとステファニーが思ったママ友エミリーへの憧れ、とかこのあたり非常にわかります。二転三転があと一歩かなあ。最後の一ひねりがもうちょっとあったらよかったかも。
読了日:07月10日 著者:ダーシー・ベル
映画にまつわるXについて2映画にまつわるXについて2感想
大好きな監督さんのエッセイ集。映画永い言い訳を見ていると、ますます楽しめると思います。もっくん・・・思ってたのと違う人というミーハーな気持ちも出てきて全体に堪能しました。子役の男の子の大ファンだったので裏でこのようなことが・・・。映画って一人だけじゃないというのはわかっていたけど、こんなに多くの人の手を通しているのだなあ・・・。どこまでを妥協点にするか、っていう判断をするのも監督なので大変だなあと思いました。
読了日:07月10日 著者:西川 美和
ご本、出しときますね?ご本、出しときますね?感想
テレビ番組を楽しみに見ていたので、本になるのを心待ちにしていました。全体に楽しく読みましたが、やっぱり特に面白いのは本になっても同じで、加藤知恵と村田沙耶香のところと、西加奈子と角田光代の部分でした。角田光代が何でも引き受けてしまうというのは放映でも笑いましたが、本でも笑いました。作家の人となりは作品に出ている場合もあるし出ていない場合もあるけれど、若林の自然体と人となりが彼らの隠された面を外側に出してきて読ませます。ただ・・・やっぱり映像で面白かった微妙な表情とか話し方とかの部分は消えてるかなあ・・・
読了日:06月13日 著者: 
素敵な日本人 東野圭吾短編集素敵な日本人 東野圭吾短編集感想
趣向の違った9編の短編ミステリ。
読了日:06月12日 著者:東野 圭吾
女心についての十篇 - 耳瓔珞 (中公文庫)女心についての十篇 - 耳瓔珞 (中公文庫)感想
表紙の絵、そして挿絵、好みはあると思います、小説から喚起される映像って人それぞれだから。けれど、ここに取り上げられている短編群、チョイスが良いので(そしてマイナーなのが多い)、画が好みであろうとなかろうと、これを機会に手に取るというのは非常に重要なことでした、私にとって。岡本かの子はやっぱりすごいなあ・・・とか、円地文子のおはるさんはいかにも彼女らしいなあ!とか。有吉佐和子の地唄が非常に心に残りました、これまた有吉佐和子らしい芸事の話。芥川龍之介のこれって、今の時代でもあるあるネタ、すっごいわかりました!
読了日:06月12日 著者:安野モヨコ 編
少年時代 (ハルキ文庫)少年時代 (ハルキ文庫)感想
ほこっとした昭和の話、で終わると思いきや、そこはこの作者、最後でああっというものは持ってきてくれます。最初のチンドン屋さんについていった男の子の事件目撃者になった顛末、2番目の笑いが充満している東北のある子どもの物語(ご両親の方言に笑った笑った)、3番目の学生時代のしごきのある柔道部の話、とそれぞれも読ませました。
読了日:06月12日 著者:深水 黎一郎
村上春樹「騎士団長殺し」メッタ斬り!村上春樹「騎士団長殺し」メッタ斬り!感想
騎士団長殺しだけではなく、多崎つくる~とか1Q84とか、他の本への言及もありました。騎士団長殺しの時系列は軽く私も作ったのですが、細かくここで作られているのでそこは面白く見ました。そうなのかなあ?という感想(説明しすぎと言われてもそこが読みたいところと思う読者が多いのでは?)と、そうなのよ!!(多埼つくるがなぜはぶかれたかという謎への答え)という感想が私の中で入り乱れた本。似たようなモチーフ、似たような主人公が出てくることに対して、50ページで大森望さんが言っていることは非常に正論だと思いましたが。
読了日:05月11日 著者:大森望,豊崎由美
愚者の毒 (祥伝社文庫)愚者の毒 (祥伝社文庫)感想
最後のある一点(私はこれはわからなかった)を除けば、すれた読者ならこの構造は見抜けると思います。でもわかっていてもなお読ませるし、吸引する力があるミステリだと思いました。幸せそうな老後を送っている老人ホームの女性の述懐と、職安で偶然出会った二人の不幸な女性の友情と恋との物語が鮮やかに描かれていました。この中でタイトルにもなる愚者の毒を言葉にする元中学校教師難波先生の気高さと言ったら!この人の存在がある意味かなり暗いこの話の一条の光となります。2章は一転して過去の話。ここから全てが始まるのです・・・
読了日:05月11日 著者:宇佐美 まこと
象と耳鳴り―推理小説 (祥伝社文庫)象と耳鳴り―推理小説 (祥伝社文庫)感想
とてもとても久しぶりに再読。やっぱりいいなあと思いました。恩田陸不思議ワールドがぎゅっと入っている連作集です。元判事の関根多佳雄が出てきて、この人が古典ミステリ好きという設定なので、過去のミステリ作品もよく引き合いに出されています、いわく乱歩のD坂~とか、いわくケメルマンの9マイルでは遠すぎるとか。その使い方も絶妙で、ここにこういう具合に物語として入れ込むのかというのが改めて目を見張りました。関根一族も出てきて息子の春、娘の夏とそこも楽しく、更に他作品に出てくる関根一族を思うと、とても感慨深いです。
読了日:05月11日 著者:恩田 陸
時間のないホテル (創元海外SF叢書)時間のないホテル (創元海外SF叢書)感想
とても面白く読みました。ある特殊な仕事をするためにホテルに泊まるビジネスマンのホテルでの話なのですが、読んでいて冒頭の謎の赤毛の女から引き込まれくらくらしました。ハイ・ライズより好みでした。シャイニングは必ず思いますが、怖さの質が違うような気がしました。謎の壁の絵、何度もきかなくなる219号室のカードキー、行けども行けども着かないコンベンションセンター(カフカ的)、壁の絵、そして後半のホテル内での走り回り方、どれをとっても質の高いエンタメ作品。偶然私はこの作品を旅先のホテルの219号室で読んでいました(怖
読了日:05月11日 著者:ウィル・ワイルズ
処刑の丘処刑の丘感想
まず、このミステリの重要なポイントになるこの時代のフィンランドの内戦状況を知りませんでした。最初のところに日本人向けに赤衛隊白衛隊(いきなりロシアドイツと言われても)の簡単な説明と、この町がどういう状況下にあったかという説明がほしいと強烈に思いました。上司に阻まれながらも正義を貫こうとするケッキ、でもヴェーラに強烈に惹かれてしまう人間らしい部分も持っているケッキ、そしてあらゆる人が来るサウナでマッサージ係として働くヒルダの逞しさなど、読むべきところもありました。ヒルダの夫の心の傷もまた痛々しかったです。
読了日:04月14日 著者:ティモ・サンドベリ
魂でもいいから、そばにいて ─3・11後の霊体験を聞く─魂でもいいから、そばにいて ─3・11後の霊体験を聞く─感想
泣けました、大切なご家族を亡くした方々の絶望の姿に。311の東北地方の津波で肉親を亡くした遺族の方たちに現れた「死者からのしるし」。科学で割り切れないことを扱っているのできっとその部分でフィクションノンフィクションの論議もあるのでしょうが、確実にこれが遺族の救いになっていると思いました。ただ死者からの現象だけではなく家族がどうかつてあったのか、これからどうあるのかというところまで踏み込んで丹念に描かれていてそこに胸打たれました。いつも傍にいるよという気持ちが救ってくれるのですね。そして私は信じます。
読了日:04月07日 著者:奥野 修司
堆塵館 (アイアマンガー三部作1) (アイアマンガー三部作 1)堆塵館 (アイアマンガー三部作1) (アイアマンガー三部作 1)感想
楽しい!!奇妙なモノクロの挿絵も魅力の一つだし、両表紙の裏にある上の階下の階の断面図もまた楽しくて!話は、ごみの館に暮らしているアイアマンガー一族のクロッドという男の子と外からやってきた元気のいい女の子ルーシーという女の子の、ボーイミーツガールの話でもありますが、『物』の物語でもあるのです。全てのアイアマンガーには生まれた時に物が与えられていてそれはいっしょにいることが必須であり、なぜかその物の声が聞こえるのが体の弱いクロッド。後半凄まじい勢いで話が展開していくところが次巻への期待を膨らませます。
読了日:04月05日 著者:エドワード・ケアリー
痛みかたみ妬み - 小泉喜美子傑作短篇集 (中公文庫)痛みかたみ妬み - 小泉喜美子傑作短篇集 (中公文庫)感想
昭和、をあらゆるところに意識させられますが、古さは感じずそこがまた味になっていました。どの最後も予想範囲内ではあるものの、語り口が巧みなので思わず引き込まれます。幻影譚と思えるかたみ、の皮肉なラストがとても良かったと思いました(これまたヴェトナム戦争とか時代を感じさせます、重要なキーになってるし)。兄は復讐するは、大切にしていた妹が都会の地である出来事に巻き込まれ・・・というのに兄が復讐する文字通りの物語ですが。これまた語りが巧妙で兄の妹への執着のようなところまで描かれているところに好感を持ちました。
読了日:04月05日 著者:小泉 喜美子
青鉛筆の女 (創元推理文庫)青鉛筆の女 (創元推理文庫)感想
青鉛筆の女!(彼我の違いを再認識)話は3つの分野にくっきり分かれています、パルプフィクションと編集者からの手紙と改訂版と称する小説の3つに。編集者からの手紙で、どんどん書き替えさせられるフィクション。3つの中で改訂版の自分がいわゆるタイムスリップ&自分の存在自体が危うい世界に行くという部分が非常に面白く読ませました。それとパルプフィクション部分が重なり合い最後の方で思わぬ展開がありました。史実を知らないと面白くないと思うので、ウィキペディアを横に日付と用語を読むと更になるほど!と思う部分があると思います。
読了日:03月15日 著者:ゴードン・マカルパイン
最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常感想
藝大の中が音楽系と美術系がまったく違っているというのになるほどなあ・・・と思いました。音楽系の話では、ちょっと前に読んだ小説恩田陸の蜜蜂と遠雷を強く思い出しました。やっぱりコンテストとの戦いなのですね、あと先生とは師匠と弟子の関係。これが美術になると、自分よりもその作品だし、一過性のものでもないし、全く違う藝術なんだと改めて思いました。面白く読んだのですが・・・・続編を出してほしいです、掘り下げるために。藝大の数名の人たちだけではなく、先生とか両親とか(出ていましたが間接的が多い)へのインタビューとか。
読了日:03月10日 著者:二宮 敦人
騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編感想
騎士団長が出てくるところは言葉遣いにユーモラスさを感じました。一方で禍々しい鈴の音が鳴っていた土の中、これが最後になってまたきいてきます、ここは村上春樹の某小説の井戸の底に行く感じでした。免色さんの娘への思いの形がギャツビーの行動と同じだなあというのも強く思いました。父と子のモチーフが形を変えて現れています。夢での交わり、一人称、おしゃれな料理、音楽、文学への造詣とそこも楽しめました。一方で私には謎が残っています、免色さんの心の奥の闇とは何か。なぜ彼は最初の段階で穴を強烈に掘ったのかなど。エピローグは?
読了日:03月10日 著者:村上 春樹
騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編感想
楽しめました。今までの村上春樹を読んでいるとそこに使われていることがたくさん出てきますが、私は焼き直し、ではないと思います。一人称で書かれていて、今回は主人公は画家で、肖像画で糊口をしのいでいたのですが、妻との別居を機にある画家の別荘に住むことになるのです。最初にプロローグがあり、そこに顔なしが出てくるので、これはいったい?と思っているとラストまで読むとこの話だったのか!と膝を打ちました。広義のミステリでもあり、肖像画依頼してくる免色さんは一体何の意図が?とか、鈴の音は?とか引っ張っていってくれました。
読了日:03月10日 著者:村上 春樹
文庫解説ワンダーランド (岩波新書)文庫解説ワンダーランド (岩波新書)感想
時に大爆笑しながら読み進めました。こばひでって!(最大級に笑ったところ。重鎮小林秀雄)。いわゆる文庫の解説の解説、のような本です(過去の名作が多い)。文庫についている解説がこれほどまで出版社によって違っているとは!坊ちゃん一つにしても悲劇喜劇とこれだけあるとは!個人的には伊豆の踊子のラストがどうにも昔から解せなかったのですがすっきりしました。実は生真面目に分析しています。またわけのわからない解説をわからないと言ってしまうあたり、男気があると思いました(女性ですが)。切り口が非常に斬新でありました。
読了日:02月05日 著者:斎藤 美奈子
映画と本の意外な関係! (インターナショナル新書)映画と本の意外な関係! (インターナショナル新書)感想
大変面白く読みました。映画好き本好きだったら楽しめる本。最初のベルリン天使の詩のくだりも驚きました。インセプションのキルケゴールとの関係もそそられたし、leap of faithというのはこういうことなのか!!! という驚きもありました。ここからマトリックス続いてポセイドンアドベンチャーに行くところもお見事。20章のキャロルからハイスミスへの言及の中で、かたつむり小説はこういうことだったのか・・・というようにそうだったのか!という驚きが多かったです。見た映画も見ていない映画ももう一度見てみたくなりました。
読了日:02月05日 著者:町山 智浩
三人目のわたし (ハヤカワ・ミステリ文庫)三人目のわたし (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
全てを捨てて新しい人生を歩もうとしている主婦エミリー。過去からの思いを断ち切って名前まで変えて新生活に飛び込むエミリー。でも断ち切ろうとしても断ち切れない過去がずうっと彼女に付きまとっています。詳細な生い立ちから現在に至るまでが視点を変え、細かな心理描写を交えて描かれています。それにしてもなぜ出奔?それが大きな大きな謎になっています。ラストで確かに驚きはあるのですが・・・ちょっと私には腑に落ちないことが色々とありました、すみません。
読了日:02月05日 著者:ティナ セスキス
聖エセルドレダ女学院の殺人 (創元推理文庫)聖エセルドレダ女学院の殺人 (創元推理文庫)感想
極上のミステリ!犯人が誰かというのはもう最後どうでもよくなっていました、すみません。それよりも寮にいる7人の少女の生き生きしていることと言ったら!それぞれが得意分野があり持ち味があるのです、共通項は、「家で疎んじられているので家に帰りたくない少女たち」なのです。彼女たちの性格が実に鮮やかに描かれていて、読んでいて何度笑ったことやら。絶妙なのは、どんどん人がやってきて少女たちを混乱させその混乱が新たなる才能を開花させる(演技だったり、メイク技術だったり)ところでした。あり得ない箇所というのもまたご愛敬。
読了日:02月02日 著者:ジュリー・ベリー
幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)感想
新訳が出たので読んでみました。前のが読みにくいというわけではないけれど、圧倒的な読みやすさ。哲学小説とも言われますが、話そのものもどきどきするくらいに超絶に面白いです、今の時代でも尚且つ。巨大な宇宙船がある日やってきてオーヴァーロードと言われる異星人は決して姿を見せない。なぜ?何の目的で?こういうミステリでもあるのです、壮大なSFでもちろんありますが。第二部で、異星人の姿が出る時、うわーーーっとのけぞります。また真の目的が第三部で語られますが、そこでまたまたうわーーーー。一度読んだら忘れ難い話です。
読了日:01月24日 著者:クラーク
とりつくしま (ちくま文庫)とりつくしま (ちくま文庫)感想
単行本で既読だけど再読。この話の肝は、死んだ人が何らかの思いを持って、人にとりつく、のではなく、物にしかとりつけない、ということだと思います。だから勢い、未練のある人もしくは傍にいたい人の傍らにある何か、にとりつく。それは、愛する息子の野球の時に使う粉であったり( この話泣けた)、家族で使っていたマッサージチェアだったり、日記帳だったり。そこにとりつくことによって、自分がいない世界で皆がどうやって暮らしているだろう、というのを死んだ自分がまざまざと突きつけられるのです。自分だったら?と考えさせられました。
読了日:01月24日 著者:東 直子
楽天道 (文春文庫)楽天道 (文春文庫)感想
年代別っぽくなってるので、若い時の佐藤愛子が懐かしすぎて!まだお嬢さんの響子さんが結婚していなくて、遠藤周作の息子と結婚させよう話、は有名ですがここのくだり、何度読んでも笑えました。しかしぶれてない、佐藤愛子。ずうっとずうっと愛読者ですがぶれてない姿が素晴らしすぎます!
読了日:01月24日 著者:佐藤 愛子
本バスめぐりん。本バスめぐりん。感想
私自身、リアルな移動図書館利用者でした。過去形なのは、もうやっていないから。だからこの感じと雰囲気がとても分かりました。近所の人たちとの濃密な付き合い、図書館では巡り合えないような人たちとの出会いが。それに加えてこの物語ちょっとした謎、が入ってほのぼのとしています。が。私の違和感は、図書館員が借りた人の本をこういう傾向だと話し合っていること・・・あり?なんでしょうか、これは。借りる側にとってみれば嫌だな~~。主人公二人があともう一歩魅力的だったらもっともっと惹かれる話だと思いました。
読了日:01月24日 著者:大崎 梢

読書メーター
2017.12.18 13・67


評価 5

香港を舞台にしたこの連作短篇小説を大変面白く読んだ。
最初から最後までが一本の道筋があり、最後になって最初をもう一度読むと実に感慨深い。
驚き、も随所に隠されていて、一つの解決がついてそこまでですらなるほど、と思うのに、贅沢なことにそこからのひっくり返しも何度かある。

面白さは推理部分以外にもある。
この本は、時間の流れが逆順になっている、そのことが推理部分をおおいに盛り上げているけれど、一方でとりもなおさず香港の歴史、香港警察の歴史、にも触れていて、推理小説を読みながら同時に香港の歴史も読んでいる側が体感できるのだ。
最初は2013年の香港でありそこでは香港マフィアが暗躍し芸能界汚染があるがとりあえず民主化されている話であり、ラストは1967年の反英暴動の話で締めくくられる。
複雑な英国への感情、更に屈折した中国への感情が庶民の目、警察の目から描かれている。
勿論小説なので虚実混合だろう、けれど、よほど興味のある人以外は香港のこの雰囲気を知っている人って少ないのではないか、日本では。
遡りの普通の小説としても、社会派小説としても、またもちろん推理小説としても、屈指の出来だと思う。

1.黒與白之間的真實 (黒と白のあいだの真実)
2.囚徒道義 (任侠のジレンマ)
3.最長的一日 The Longest Day (クワンのいちばん長い日)
4.泰美斯的天秤 The Balance of Themis (テミスの天秤)
5.Borrowed Place (借りた場所に)
6.Borrowed Time (借りた時間に)



・・・・・・・・・・・
まず最初の話で度肝抜かされる。
第一話ほどの驚きは他の話にはなく、他の話もそれなりに緻密にできているけれど、全てはこの第一話の衝撃に集約されている。
なぜならこれは(探偵ではなく優れた刑事ではあるものの)究極の安楽椅子探偵の分野であり、かつての名刑事クアンが
『昏睡状態の末期癌患者になり寝たきりになって言葉すら発さないのに、ある意思の疎通方法でイエスノーを部下が判断していくと』
いう前代未聞の事件の解決方法なのだ。

これがまたクアンからシャーロック・ホームズのように鋭い推理が飛び出してくる。
それを読み解いているのが、部下のローなのだが・・・そしてそのまま話が進むと・・・・

大きなひっくり返しがある。
でもそれだけに眼を奪われていると、最後の更なる驚きが釣瓶打ちにやってくる。
どうやって犯人を捕まえたのか、証拠がこれだけ少ない中、というのがこの話の最大の肝のような気すらした。
まず、クアンは、実際には全く意思疎通ができなかった、出来るように思わせたところこそがフェイク。
部下のローが意思疎通があるように機械を操っていた(更に横に女性まで配置されパソコンを操っている)顛末だが、クアンが語っていると信じていたので驚いた。信じさせるというのをこの小説内の病室の人へもだが、読者にも信じさせる語りがあったということだ。
また、この犯人のしっぽを捕まえるため、『あえて』クアンの命を狙わせる、これはクアンの意志でもあった。つまりクアンは役に立ちたかったのだ人間として機会に繋がれて生きるよりも。その意志を尊重したのが、ローのやった『犯人がクアンを殺すのを捕まえる』という手段だった。


このあと、1997年(香港返還直前)には、凶悪犯人の脱獄と硫酸の話(ここで初めて凶悪な石兄弟の話が登場)。
どうやらこの兄弟の一人をクアンはかつて殺して、そして一人を捕まえたらしい。
一見何も関係のないように見える上から硫酸が降ってくる、という話と、凶悪犯忍の脱獄の話が見事にリンクしていて、その手腕はお見事だ。
後半で三人の人間が市井の商売人たちの女性(いわゆるおばちゃん)の口から語られるところなど、読んでいて非常にスリリングだ。どこを読み解くかというのがクアン刑事の腕の見せ所だ。

1989年に犯人のアジトに行く直前に起こった惨劇、これも衝撃的な話だった。
多くの警察の死傷者が出た惨劇、それはなぜ起こったのか。
一人の警察官の功名にはやる気持ちが生まれさせたのか。

1977年、英国人調査官(本国で食い詰めて香港に来て生活を立て直そうとしている英国人が香港警察の腐敗を暴く仕事をしている。この人がお金がない状況というのも重要だし、腐敗を暴く職業というのも重要)の息子が誘拐された!
一体誰が?
そしてプールに入ってコインを探せとか犯人の要求に引っ張りまわされる英国人は、水着になりわざわざ潜ってまでコインを探して息子を救出しようと努力するのだが・・・・

これは、犯人は意外に読んでいる側の心に浮かぶだろう。
けれど、なぜ水着にしたのか、そのあたりのことが後からわかった時に驚きが流れる。
鍵の型を取ろうとした、犯人側は。

1967年の反英暴動が起こっている中での、爆弾テロ事件。
若き日のクアンがここにいる、そして『彼ら』もまた。
この章は語り手が『私』であり、彼には兄貴分がいる、ということしか最初の方でわからない。
だから私が何者かというのは曖昧模糊としているし、相手としている人達も誰だかというのがよくわからない。

もしかしてクアンが私?
それとも・・・
だからこそ、ラストの一ページが非常に深い感銘を与えるのだ。

最初の話とここが結びつく。
語り手は王冠棠、であり、兄貴分はげん文彬であるのだ、そしてここで二人豊海プラスチックに入ることになる夢を語るのだ(そして一章で、その後の二人がどうなったかが語られることを思うとさらに感慨深い)
そしてさらにここで、アチャと呼ばれていて王と知り合いだったのは、若き日のクアンであった。
彼はここで王からある問いを投げかけられる、あなたが忠誠を尽くすのはイギリス植民地政府なのか、それとも香港市民なのかと。(子供が爆弾で死んだことを受けて)

げん、乾は、豊海プラスチックの入り婿になる。子供は三人。
そして殺される。
かつての弟分の王に。
更に王は、クアンを殺す。


話は非常に堪能したのだが・・・

(ただ・・・漢字のフリガナを全体につけて欲しかった。
一回だけ名前を振り仮名にされても次回出てきたときに、忘れてしまうから。
またそれができないのなら登場人物表がせめて欲しい。)
2017.12.07 エルELLE


評価 4.6

とても驚いたのは、これがレイプされた人の話というのは知っていたので、その女性がどうなっていくかという話、と思っていたら全く裏切られたことだ。
レイプされた女性が最初の方で動揺はしながらも、強烈なダメージを受けているかというとそうでもない。
とりあえずびくびくはしているし、防犯を怠らずにいるようにはなるし、防護のスプレーを買ったりはしているが・・・
警察に届けるわけでもない。
病院に行くわけでもない。
最初の頃は一人で抱えていたし、別居中とはいえ夫に相談するわけでもないし、親友に相談するわけでもない。
結局両者に話すことにはなるのだが・・・
いったいこれは・・・?

読み進めていくうちに、レイプされた彼女が、レイプどころではない心の傷を負っているということがわかった。
しかも彼女自身もまた周りも一種異様な状態にある。

最後まで読んで、どういう風にこの物語をとらえたらいいのか、しばし茫然とした。
今も尚、茫然としっぱなしだ。

(以下話に触れます)

ミシェルは番組制作会社を作っていて、そこでばりばり働いているキャリアウーマンだ。

しかしその私生活と言えば・・・
・酒浸りで、70歳過ぎてもとっかえひっかえ男を漁る母
・脚本家のリシェールは元夫で脚本を認めてもらえないことにいら立ちを感じている。そして若い彼女を作る。
・リシェールとの間の息子ヴァンサンは、おなかに子供がいる太った女性と同棲し始める、しかもミシェルのお金をあてにしている。おなかにいる子供は自分の子ですらないのに。仕事が続かず危機感もない30過ぎた男だ。

・友人アンナは唯一この中で普通の人間だが、彼女はミシェルの親友なのに、ミシェルはアンナの夫と寝ている。
・アンナの夫ロベールはミシェルが寝てくれないのを不満に思い、脅迫し始める。
・隣人のパトリックはミシェルが心惹かれる銀行員だが、彼の奥さんのレベッカは宗教にはまって巡礼などをし始めている。

・・・・・
病んだ人たち、が次々と出てくるけれど、ミシェルが途中で出してくる驚愕の彼女の生い立ち、というのが胸に響く。
彼女の父親はまだ刑務所に収監されていて、死ぬ間際らしく母にミシェルは慰問に行くように言われているが断固として拒絶している。
それは。


父親の罪は、かつてキャンプ場の子供達70人を殺した、

という罪だったのだ。
世に知られたこの事件により、ミシェルも母親も社会から孤立して糾弾された。
それは非常に激しいもので、ミシェルも母親も心のダメージをかなり受けた。
その思いがいまだにミシェルの心の中をよぎるのだった。
ミシェルがいささか壊れていてもおかしくないし、逆にいえばよくぞここまで立ち直ったと思った。

後半に行くにつれ、これでいいのか?これ?というのがどんどん出てきた。
そして衝撃のラスト。

以下ネタバレ
・レイプ犯人は隣人の銀行員のパトリックだった。
たちまちある種二重人格のようになり、レイプ犯になるパトリック。
しかしミシェルの行動は、彼と自ら接近し彼を警察に突き出すわけでもなく、パーティーに呼んだり自宅に行ったり、と彼との距離を縮め、最終的には彼との情事を始めるのだ、それは倒錯した彼から犯される、という愛の形に変化していく。
そして
ある日、その様子を見た息子のヴァンサンは、パトリックの頭をぶち割って、母親をレイプ犯から救った(と彼は思う)
ここまでのことは、ミシェル一人の秘密である。


2017.11.12 アナログ




評価 4.2

恋愛小説・・・という触れ込みで確かに恋愛小説だが・・・

よくわからないのだが、作者が照れながら書いているのだろうか?
文章のそこここにそれが伺える気がしてならない。
でもそれは本人を知っているからそう思ってしまう自分がいるのか(というのがよくわからない)

文章は失礼ながらそこそこは読ませる。
が・・・

幼いころからの親友が二人いて、独身で、仕事もバリバリやっているデザイン事務所に働くサラリーマンの悟。
彼が偶然出会ったみゆきという女性に強烈に心惹かれるのだった。
彼女は文学音楽映画に造詣が深く、悟の生きてきた世界とは違った世界に生きているようだ。
木曜日ごとの逢瀬を楽しみにする悟。
一方で悟は余命いくばくもない母が施設におり、苦労を掛けた母のことを思うと胸が詰まるのだ。


が・・・
途中で入る、友達との会話があまりに下品だ。
ここが照れているのかなあ・・・恋愛小説を書いているということに、と思った箇所だ。
もし照れていないのなら、面白くもない下品な会話を延々と続けていくどういう意味があるのか?
下ネタ全開の会話をしているので、この親友たちがどんなにそのあと言い働きをしてみゆき捜索に向かってくれても、なんだかなあ・・・という気持ちが拭えない。

あと後半いろいろわかってくるのが、唐突、としか思えなかった。
更にそのあとの展開もまた。

以下ネタバレ
最後みゆきが意外な過去の持ち主で、結婚歴もありしかもかつて海外在住の有名なバイオリニストだったということまでわかる。
木曜日の逢瀬に間に合わせるために交通事故って!
いきなり事故でいきなり意識がなくいきなりこの人の介護・・・
これって映画のめぐり逢い?

ううむ・・・
2017.10.25 ANK:


評価 4.8

サブタイトルに、a mirroring apeとあるように猿の物語だ。
この作者の前作も私は大好きだったので、これもおおいに楽しみながら読んだ。
猿と人間の違い、地球上のDNAの歴史、どこで今のホモサピエンスが分かれてきたのか、人類の進化とは一体何か。
一種衒学的な装いもあり、ちょっとした実験の話とかも含め、非常に面白いし読ませる(が、ここが好みの分かれるところでもあるとは思う)
やや体言止めが多いので最初の内はこの文章になじめないところもあった。
が、猿が暴走し始めるところから、なぜ特定の3人だけがこの争いに巻き込まれないのかという謎も含めて、一気に読み進むことができた。
途中で主人公とでもいうべき鈴木望の幼少期の出来事がフラッシュバックされてくる。
これが何か?と思っていたら、とても重要なフラッシュバックでもあった→鏡、があるのだ、この話、鏡の物語、と言ってもいいだろう。
もう一人の暴動に巻き込まれないケイティは科学雑誌のライターで、ダニエルキュイと鈴木望に興味を持って、偶然この時期に京都を訪問して、また鈴木望にも面会していたのだった。彼女もまたある過去がありそれを体に刻み付けている→鏡文字で言葉を胸にタトゥーで入れている、そしてここでもまた暴動の最中彼女も翻弄され自己破壊をしそうになるが、鏡、で正気に戻り助かったのだった。

京都で、人間同士の殺戮がいきなり始まった。
それは、ゾンビ同士の戦いのようだが、生きている人間同士の死闘でもあった。
今まで普通に過ごしていた人達が力の限り相手を殺そうとするその行動は一体どこから来たのか。
パンデミックではない、ということはわかったのだが・・・


31歳の鈴木望という男性がKMWP(京都ムーンウォッチャーズ・プロジェクト)のセンター長となった、彼は霊長類の研究を続けていた。
なぜKMWPが発足したかというのは、物語の中で徐々に徐々に明かされていくのだが、ダニエル・キュイというAI用言語プログラム開発した男、巨万の富を持ち、鈴木とタグを組んでKMWPを設立の資金源である。

この物語、構造的には割合単純な構造だ。
・意味なく京都の普通の人たちが殺し合いを始めた、それは当初パンデミックと考えられあらゆる調査が行われるがそうではないらしい。なぜ突然死闘を演じ始めたのか、彼らは。
・ここに京都のセンターにウガンダ共和国からやってきた非常に知能の高い7才のオスのチンパンジーAnkがやってくる。
どうやらそのことが影響しているらしい(というのが冒頭の方でわかる)
・それが何の理由なのか、突き止めようとする鈴木望とたまたま京都にいたライターのケイティ。

原因ということだけを考えると、そこは比較的単純なのだが、そこに行きつくまでの出来事、思考の回路、類人猿とはるかな人間の歴史、などが語られているところがとても面白い。
一方で、逃げているAnkがたまに消えている、思考はないのだろうか。彼の方の側、みたいのが描かれていたらもっともっと深くなった気がしたのだがそれはない物ねだりか。

以下ネタバレ
原因は、Ankの鳴き声。これが人々を狂気に駆り立てたのだった。
そして彼を封じるために鈴木望は溺れるのだった、Ankとともに。
皮肉なことに、幼い時に無理心中を海でさせられそうになった母親(鈴木はそこから抜け出した)と同じことを自分がしたのだった。





評価 5

なんて贅沢な本なんだろう。
短編が集まっていてそれぞれに小川洋子の解説がついている、それも独特の解説が。
その解説は時としてエッセイであり、時としてこちらが小説?と思われるような極上の一品だ。
短編は動物や生き物たち、河童などが意図も自然に右往左往している。

・・・・・・・・・・・・・・・

印象的なのをいくつか・・・

川上弘美の河童玉、はもう彼女の真骨頂だ。
人を喰った話、というのを彼女に書かせたら右に出る者はいないと思った。一瞬本当にある?と思ってしまう手並みの鮮やかさがここにある。
梶井基次郎の愛撫は大好きなのだが、なぜか猫耳を切符切りでパッチン、は覚えているけれど、後半の猫の手を化粧道具にする、というのはいつも忘れるのだ。多分私の中で忘れようとしているに違いない、あり得そうだから、ああ・・・と自分の中で納得している部分があるからだろう。しかもこの部分、は夢とあからさまに書いてあるのに、なぜこれだけ現実味があるのだろう。

泉鏡花の外科室は映画にもなり、非常に有名な話だけれど、この話を読んだ後に自分が手術ということになった時には、どうなるんだろう?あらぬことを口走るものなのだろうか、と誰でも考えるに違いない。

中井英夫の牧神の春の不思議なことと言ったらどうだろう。
これを読んだら動物園に行った時に必ずや思い出す話だろう、牧神とニンフの場所を探してしまうだろう、この不思議な呪文とともに。
木山捷平の逢引きも面白い、小川洋子の解説にあるズロースとは何ぞや問題も勿論あるけれど、ここにあるのは、ほんのりとした昔のエロスだ。(エロではなくエロス)
途中のモンペを脱ぐ、というところにも時代を感じたけれど、それよりなにより、そのあとの蓋という言葉に恐れ入った。男女の行為を蓋をするようにとは!なんと!
同じ感じでエロスはあるのだが、ここは健康的なエロスが満載の葛西善蔵の短い短い話、遊動円木もまた忘れ難い。高らかにこれを漕いでいるこの時代の女性の元気な姿が眩しい。

魚住陽子の雨の中で最初に溺れるも不思議な味わいを持っている。
この短編の中のカタカナの光っていること!
動物や木の種類のカタカナもそうなのだが、最後の方に出てくるカタカナ、クサナギとレイエンのひたひたと迫るような怖さもある。
これがもし霊園だったらさほど怖くないだろう。

日和聡子の行方も実に不思議な話だ。
影にくっついていったら不思議な場所に連れていかれた・・・夢の中の話のようでもあり、もしこれが夢であったらかなりの悪夢なんだろうなあと思う。ついていってはいけないものについていくという掟破りの話でもあるけれど、じゃあなぜ影についていっちゃいけないのかというのはよくわからない。

小池真理子の流山寺はとても怖い話だ。
なんせ死んだ自分の夫が戻ってきた、働きに行っているように夜戻ってきて食事もビールも一緒に飲んで二人はまた夫婦として過ごしている、のだが・・・後半瞼が黒ずんでくるあたりからめちゃくちゃ怖くなってくる。そして寺の場面の壮絶な怖さがひたひたと迫ってきた。おかしい、と思っている妻がいて彼女が夫が帰宅することを喜びながらも心の奥底でなんだかおかしいと思っているのがじわじわと伝わってくるから怖いのだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
河童玉(川上弘美)/遊動円木(葛西善蔵)/外科室(泉鏡花)/愛撫(梶井基次郎)/牧神の春(中井英夫)/逢びき(木山捷平)/雨の中で最初に濡れる(魚住陽子)/鯉(井伏鱒二)/いりみだれた散歩(武田泰淳)/雀(色川武大)/犯された兎(平岡篤頼)/流山寺(小池真理子)/五人の男(庄野潤三)/空想(武者小路実篤)/行方(日和聡子)/ラプンツェル未遂事件(岸本佐知子)
2017.09.10 Y駅発深夜バス


評価 4.5

Y駅発深夜バス・猫矢来・ミッシング・リング・九人病・特急富士の5編が入っている短編集だ。

この中で、表題作のY駅発深夜バスが飛びぬけて素晴らしい。
アンソロジーにもとられていたようだが、私は読むのがこれが初めてなので、読めてよかった!と思った作品だった。
深夜バスに乗る男の気持ちに沿って、何とも魅力的な謎の提示で始まっている。
何やら、怪しい気配のバス、もしこのまま普通に読んでいたら、(もしかして怪談?)と思わせてくれるような不気味なバスだ。何しろ、必死の思いで乗ったバスは、車掌は無口だし、運転手は目深に帽子をかぶってあさっての方向を向いているのだ。
しかも乗っている乗客全員が黙ったままだ。

更にこの話が最大限に面白いところは休憩のために、パーキングエリアに止まる。
その時に、トイレに急いでいった主人公が見たものは、『灯りを消していた店舗』であり、その中をのぞくと全員が同じ方向をじいっと見ていた・・・』というまさにホラーの様相が呈されている。
これってキングのホラー作品のあれこれを思い出す場面だ。
いったいこれは何だ?
主人公とともに私もここでは戦慄した。

帰宅しても妻から、帰宅した時刻が自分が思っていた時刻と違っていたと言われる。
しかも土日は自分が載ったと思った便がなかったという事実・・・
一体あのバスは何だったのだ?
酔った自分の記憶違いだったのか。
夢だったのか。
(かなり酔っぱらっていた主人公で、しかも深夜という設定がまた記憶の曖昧さを助長している)

と思う間もなく、今度は同じマンションで起こった仲の良い夫婦の悲劇の話に移行する。
そして・・・謎解きをする人物が・・・

この話、起承転結がとてもうまい具合に働いていて、謎がぺろっとめくれる謎解きが素晴らしかった。

・・・・
九人病も一種のホラーミステリのように見える。
見えていたのだが、ラストの方で、ミステリ?と思ったそのあとで、また一枚違ったカードが切られる。
そこがすごいと思った。
冒頭の全く関係なさそうな刑事が重要な位置を占めている作品ともいえよう。
偶然鄙びた温泉宿で同室になった男とのやり取りが、これは乱歩の世界を体現しているようで不気味だ。

語りの面白さ、というのが存分に発揮されている。

・・・
猫矢来は、なぜ新品のペットボトルを隣人は塀の上に置いたのか、という謎が中心になっている。
この話、学校内部の話が中心で、主人公たちにも好感が持てるので、シリーズ化したら楽しいだろうなあ・・・と思った。

以下ネタバレ

・Y駅発深夜バスでは
最大の謎、パーキングエリアで灯りの消えた休憩所で人々が同じ方向を向いていた、のは、
全員がしし座流星群を見ようとする集まり、だった。
深夜バスを運転していたのは、マンションの知り合いだった。
しかもそれは深夜バスではなく、夜行バスだった。

家族ぐるみで交際していたマンションの知り合いのある一家の夫と、主人公の妻はダブル不倫をしていた。
そして、主人公の妻は、相手の妻をマンションベランダから落とした。
最後にわかるが、主人公の妻は不倫の果てで彼の子供を妊娠していたのでこの蛮行に及んだのが一番大きな理由だろう。

2017.08.26 大雪


評価 5

これまた小さい頃の愛読本。
ウルスリのすずを目にした方が早いという記憶なので、あまりに気に入っている私を見て両親が買ってくれたのだろうか?(これまた記憶では本が小さかったような記憶が・・・)

こちらはお兄さんになったウルスリ君。
フルリーナが妹でお兄さんのそりにつける毛糸を手に入れようとする。
ところがフルリーナが大雪に埋もれてしまい・・・

これは大雪が主体であるので、大雪場面がすさまじく、そしてその対比で明るい場面(特にラスト)が美しさが際立つ。
カラフルな絵本であり、ウルスリのフルリーナへの家族愛が滲み出ている一冊だと思う。
23ページの誇らしげな二人の姿が大好き!



評価 5

小さい頃の愛読本(判型がもう少し小さかったような気がするが・・・)だ。
絵が好きで好きでずうっと眺めていた。
この二人(絵と文)に興味が出て読み返しているところだ。

ウルスリのすず、はすずが日本の鈴とはだいぶ違う。
牛の首につける鈴、これはスイスの鈴、だ。
そして形状も違ってここが異国情緒たっぷりのように子供のころには思ったものだ。
外にパッと開いていないで内にこもっているような形の鍵のようにも見える鈴。
これが大きいのやら小さいのやらたくさんあるのだが、小さなウルスリが大きな鈴をもってパレードの先頭を歩きたい!!という気持ちだけで、山小屋まで冒険しそこで眠ってしまって・・・という展開が子供らしくて微笑ましい。
そして今読むと、それを死ぬほど心配している両親の姿もまた胸を打つ。
自然描写も素晴らしく、雪、とか、山小屋、とか、橋、とか、見ているだけで楽しい。

最後、大きな鈴、をもって得意げに歩くウルスリの姿が可愛らしくも眩しい。