評価 4.6

面白く読んだ。
私のスタンスとして、村上春樹の新刊が出れば初期から必ず読んでいて春樹ファンではあるけれど、作品によってすごく好きな作品と普通な作品とに分かれている、という感じだ。
だから根本的には読むのが大好きな作家だけれど、熱狂的かと聞かれるとそうなのだろうか?なんでもかんでもいいんだろうか?という自問自答も残る。

こうして面白おかしく書かれること、話し合っていくこと、ある意味おちょくっていくこと、に嫌悪を抱く人もいるだろう、特に生真面目な人に、熱狂的な村上ファンに。
またこういうくすぐりや突っ込みが面白くてたまらない、という人もいるだろう。
これまた私はこの本の中で、面白い部分もある、けれどここはどうなの?という部分もある、という印象も残った。

・・・・・
どういう観点で読んでいくのかなあというのがまずあった。
数々の思いがまたよぎる。

これって、まず騎士団長殺しを読んでいない人が読んだら、どうなのだろう?
あらすじにばしばし触れていって、そこから本を読みたくなるっていいことなのだろうか?
出版界にとってはいいことなのだろうけれども、確実に。
もしこの本を読まずに村上春樹作品にも一生触れなかったわ、だったらまだしも触れるきっかけになったからいいのだろうか?
あと、1Q84などにも言及しているのでそれも読んでなかったらどうなのだろう?

これを読んで読みたい!と思うことは素晴らしいことだとは思うものの、話に触れているので、ゼロの状態で話に向かうことは出来なくなるだろう。
きっとこのおちょくり方を頭の中に入れながら、突っ込みながら読んでいくことになるのだろうか?
人の本を読むスタイル、にもよるのだろうけれど。
少なくとも自分は読んでからこの本を手に取ってよかった、と思ったものだった。

・・・・
内容だけれど、理不尽ではない、と思った。
突っ込んでいるところはいちいちごもっとも!でもある。
ごもっとも、ではあるけれど、説明しすぎと言われてもそれがこの人の持ち味でそこがいいところなんだけれどなあ・・・と思う部分もある。
似たようなキャラクターモチーフが出てくることに対して、いろいろ言っている人がいるけれど(この本ではなくても)、それもまた大森望さんが明快な答えを出していて、ここは、膝を打つくらいに、ごもっとも!と思ったものだった(50ページ)

個人的に思ったのは、作品の内容とか表現がどうこう、矛盾点がどうこう、という前に、その作品が好きかどうかという単純な読み手の思いも、大きくこういう話し合いに関係してくるんだなあということだった。
たとえ表現が稚拙な作品であっても多少の矛盾があっても、好きな人が書いた好きな作品だったら無条件に受け入れてしまう、読書ってそういうところがある。
また好きじゃない作者でも、作品自体が今一つでも矛盾だらけでも、その時の自分の状況によって、ばしっと受容してしまうところがある、読書ってエモーショナルなものだから。
物語ってそもそも虚構なのだから、受け入れる姿勢ができるかどうかというのはひたすらその作品の質とかもそうだが、作品もしくは著者に対する愛情みたいなものもある。
そのあたりの自分の立ち位置が非常に難しいなあと思った次第だ。

騎士団長殺しの時系列表は私も読んでいる最中に軽く作ったけれど、ここできちんと作ってあるのでその部分は面白く読んだ。

・・・・
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年も触れられているが、ここは私も、(そうなの!)と思うところがとても多かった。
最初の謎(なぜ多崎がはじかれたか、仲良しグループに)が、解き明かされても、(なんで!!)という思いが強かったからだ。

というようにいろいろな思いを掻き立ててくれた一冊。
現役の作家だからこそ、そしてファンだからこそ(ゆるいファンとはいえ)こういう様々な思いが様々に錯綜するのだけれど、これが没何年という作家に対してだったら、きっと大爆笑に次ぐ大爆笑で終わったような気もする。
2017.05.06 運命の絵



評価 5

相変わらずこのシリーズ、とても面白い。
前の本でも書いたと思うけれど、一つの絵について語っているだけではなく、そこから他の本や歴史などに波及していくその語り口が思わず惹きつけられるのだ。
今回はテーマが運命。

この中でなんといっても印象的なのは、左目のないブローネルの自画像の話だった。
美男子で知られるブローネルがなぜか左目が溶けているような破損している目を描いた自画像。
その数年後に、喧嘩のとばっちりで本当に眼をなくしてしまう、しかも左目を。
これが運命でなく何であろう。
もしこれが、自分で傷つけてしまった(無意識にせよ意識的にせよ)だったら、まだ何か話が成り立つが、話を読んでいる限りは、ただのとばっちりだから余計に怖い。

ムンクの叫びは有名だが4枚あって、その中の2枚が別々の盗難にあうという運命をたどっているのは知らなかった。

ロミオとジュリエットの話から、教皇派と皇帝派の話に至り、そこから表紙のパオロとフランチェスカの話にたどり着く語りもお見事だ。しかもここにはダンテの神曲についての言及もとてもわかりやすく書かれている。

ホガースの連作の当世風結婚も読み解いていく感じが面白かった。
連作、なので最初の方から見ていくと徐々に状況が変わっていくさまが見て取れる。
2017.04.26 スレーテッド




評価 4.8

楽しい、ただただ読んでいてページをめくる手が止まらないほど楽しい。
最後の解説で大森望さんが、これと同じタイプの小説をずらずら出してくれている。
それを見ながら
(どれだけ自分はこの設定が好きなのか!)
ということに気づいた。
この設定とは、

「ある時に目覚めたら、自分が記憶を消されて別の自分になっている」
設定だ。
しかもこれは、16歳の少女カイラだからさらに不安感が増してたまらない。
少女なので自立できずに、よくわからない家庭に引き取られ、そこにもうすでにいる同じ立場の黒人の女の子といきなり姉妹になる。
父親と母親がいて、これは疑似家族になるわけだけれど、母親が微妙に冷たい(と最初見える)
そして学校に通い始めると、そこには同じようにスレーテッド(過去を清算された)された人たちがいてそこはかとなく差別されている。
犯罪者だったと言われている、スレーテッド。
じゃあ自分は何をしたのか、人殺しなのか、それとも暴力事件か・・・

・なぜ記憶を消されたのか
・フラッシュバックのように思い出される場面とは何か
・なぜカイラだけがこの記憶を保ち続けられているのか
そんな謎が最初の方から爆発している。
簡単な言葉でいえば、誰が味方か誰が敵かということすら見分けがつかない。
誰に本当のことを言ったらいいのかというのがカイラには見えてこない(ここもどきどきする)

だんだんわかってきたことは、
スレーテッドは、記憶と性格を変えて入院生活を経て普通の生活に戻された人間、
ということなのだ。

唯一、学校で出会ったボーイフレンドであり理解者の同じスレーテッドされたベンが頼りになっている。
でも嫌がらせはスレーテッドではない普通の女の子から受けていて、辛い思いをするカイラだけれど、ある日この女の子自体が学校から消え去る。
理解者であった絵画の先生も連れ去られる。
皆ローダーズと名乗る見張りに連れていかれるのだ。
ローダーズとは?
消え去る理由とは?
消え去ってからのちにどうなるのか?


手首にスレーテッドがレボと言われる輪をつけられているのも泣ける。
だから普通の人間か、矯正されたスレーテッドかは一目瞭然なのだ。この輪、のせいで、常に幸福かどうかをチェックされていて、もし幸福度が下がると失神してしまうのだ。(10段階評価になっていて3以下は失神)

カイラが特殊なのは怒りのコントロールができないと、レボの数字が逆に上がってよいことになっていくのだ。
いったいこれは?
フラッシュバックで見る煉瓦を積み上げる作業とは?
カイラがスレーテッドされたのにまだ左利きを覚えているのはなぜ?

謎がまだ謎であり、次巻に続くらしい。
この世界いったいどうなっているのだろう?

ここまでのネタバレ
・ママ、は最初の印象と違って意外にもいい人側?
どちらかというと、パパが怪しい。

・カイラはルーシーという女の子だったらしい。
ルーシーは行方不明者としてネットに出ていた。

・カイラをいじめていたはずの普通の人間はとらえられ、スレーテッドされた。



評価 4.5

前作の夜の底は柔らかい幻、は読んでいたが、正直に言えば、話に乗り切れなかった。
特に上巻はうわーっと面白かったのに、下巻になって・・・
(前作はミステリというよりホラー系に私は思えてならなかったのだが・・・。)
それで、今回次作が出たというので読んでみたが、これは次作というより前作のスピンオフだった。
前作より状況がわかっているのでそこは入りやすい。
まだ大人になっていない将来残酷な殺人者になる人たち・・・
前作よりこちらの方が好感が持てたのは、戦い部分が少ないからだろうか。

ここでも在色者とかの特別な用語は出てくる。
けれどここは状況がともかくもわかっているので前よりもずうっとわかる。
特殊超能力者がいてその超能力をどのようにコントロールするか。
どのように生かしていくか、また押し込めていくか。
そのあたりのところは読ませると思う。
ゲイの勇司君の部分がとても読みやすかった。
あと一歩、物足りない感じがした。

このタイトルの話、ウィリアム・ブレイクの詩と絡めて(もちろんクリスティも意識しているのは書かれている)語られているところ、このようなどうしようもないさがのようなものを背負った人たちの話はここだけ突出して読ませると思ったのだった。
2017.04.16 月の満ち欠け


『瑠璃も玻璃も照らせば光る』

評価 5

大変面白かった。
途中で読む手が止まらなかった、一体何なのか、どうなるのだろうか、これは一体誰なのか、と。
ミステリだけれど、広義のSFっぽさもある作品だ。
時系列が並んでいないので、あとから、こうだったのか!!!という新たな視点が飛び出してくるのもとても読ませる。
あとから前のところを再読してみると、これはこういうことを言っていたんだ!という伏線らしきものも見えてくる。
どうだろう、この作品、予備知識がゼロの方が更に楽しめるのではないか。
私もほぼゼロだったのでおおいにおおいに楽しめたのだった。
佐藤正午の前作の鳩の撃退法もめちゃくちゃ面白かったが、この月の満ち欠けも私は大好きな作品になった。
このところの佐藤正午、本当に目が離せない!

冒頭では全く状況がわからない。
母子連れがいて、彼女達と話している小山内という中年の男がいる。
彼らは東京ステーションホテルの喫茶店で語り合っている。
母子の娘が「るり」という名前で、奇妙なことをたくさん口走っているのだ。
初めて会うらしい小山内という男に、どら焼きが好きだったよね、とか、コーヒーはブラックで、とか、彼の嗜好を指摘していく。
それに小山内は半信半疑という面持ちで立ち向かっている・・・・

この冒頭がまた秀逸であって、なんだなんだ?と読み手を引き付ける。
一体この三人の関係性は何なのだ?

そこから小山内堅(つよし)のここまでの人生が語られていく。
彼は同郷青森県八出身の梢という女性と大学で「偶然」会って彼女が同じ高校の後輩だということを知る→(このあたり南部藩というサークルの中の班を作って活動した描写とかがあとになって、ああ!と思う箇所)
梢と平凡な結婚をして女の子が生まれた、その名前を瑠璃と名付けた。
瑠璃が7歳の時に発熱して、それ以降彼女の様子が変わっていく・・・・


ここまでで、あ、あの種類の話・・・とおおよその見当はつく。
見当はつくし、それは当たってはいるのだけれど、ここから非常に複雑な経路を物語はたどることになる。
複層的に話が語られて行き、しかも多視点になっていくので、ある人から見た真実とある人から見た真実が異なっていくのだ。

正木瑠璃と三角哲彦(アキヒコ)の青春部分もとても良いと思った。
この当時の風俗が活写されているし(まずビデオ屋自体が懐かしいし、映画館がまだシネコンではないので勝手な席に座るところとか、ゴダール、トリュフォーを語る文学青年とか、懐かしすぎる)、惹かれあっている二人が更に更に惹かれあいお互いに慈しみあう様子が手に取るように伝わってきた。

特にラスト二章の畳みかけがすごかった。
12章のラストの方で、自分の今の状況を自問自答して東京駅で崩れ落ちる堅の姿が忘れ難い。
自問し続けてし続けて、ある一つの答えにたどり着くのだ。
ここは、読み手側のわたしにとっても思ってもみなかった事実だったのでとても驚いた。
最終章13章では、ある時間帯のある人間の行動を出している。
ここは光のある章だ、きらきらとした光に溢れているクライマックスの章だ。
最後の言葉で私はぐっと来た。

人を見分けるのに、名前もだけれど(この場合おなかの中で声を聴いたということになっている)、ある種の癖のようなものが見分ける点になってるのもわかるなあ・・・と思った。
ぺろっと舌を出す癖。
これがキーにもなっている。

ある話を信じてくれる人、くれない人が錯綜している。
普通の感覚だと信じてもらえない状況というのは痛いほどわかる。
その中で瑠璃の言うことを信じた人たちがいるのだ。

・最初の小山内瑠璃の母親、梢。
・正木瑠璃の夫。
・緑坂るりの母親緑坂ゆい。
・当の見つけられる本人の三角アキヒコ。
そして最後に納得したのが
小山内堅だった。


<以下ネタバレではないけれど内容にかなり触れるので一切のことを遮断したい人はあとで読んだ方がいいと思います。
多分ここは書かなければこの話を語れないと思うので。>


この話、転生の物語だ。
誰かが誰かに生まれ変わる、これを君は信じられるかというたぐいの話だ。
何度も生まれ変わっている一人の女性正木瑠璃が、元々は人妻であってそこで愛のない生活を夫としていて、たまたま高田馬場で貸ビデオ屋(まだビデオの時代だった)で、一人の青年、三角哲彦(あきひこ)と愛し合うということに始まっている。
心打たれるのは、道半ばで死んでしまった瑠璃が転生して、またアキヒコと会おうとするところだ、愛の物語であるのだ。

しかしタイムリープではないので、誰かの子供として生まれるしかないという設定になっている。
その間にどんどんどんどん相手側が年を取ってしまうのが悲しい。
子供と大人どころか、下手をしたらお爺さんと子供の出会いということになってしまう。
最初に正木瑠璃が生まれなおしたのは、小山内堅の子供として、だった。
何度も家出を繰り返し、当時のアキヒコ(こちらは年を順当にとっている)に会おうとするが小学生なので補導されたり止められたりする。
これを生まれ変わりと信じたのが、彼女の母親梢のみだった、父の堅は一切信じようとしないばかりか、梢の精神状態まで疑ったのだった。
そして高校生になったら行ってもいいという許可をもらった母子は、三角が当時いた場所に行こうとするところで自動車事故であえなく死んでしまう。

・1.正木瑠璃(電車で轢死)→2.転生して小山内瑠璃(自動車事故で母親とともに死亡)

一方で、最初に死んだ正木瑠璃の夫竜之介は妻が亡くなったことで衝撃を受け、仕事も失い全てに自暴自棄になっているがそのうちに小さな工務店に雇われ、そこで人生を立て直そうとする。
工務店の孫が希美(のぞみ)、希美は異常に竜之介になつくのだが、ある時を境目に彼を疎ましくする、という経緯をたどっている。
しかも彼女はもともとは瑠璃という名前を付けられるはずだったが(これも胎内にいる時に母親が聞いた言葉)、事故が起こった時だったので、祖父と父の反対にあってやめたという過去がある(これが第三の瑠璃)。
彼女はある時を境に、ここにいるのがかつての冷たい夫だということに気づくのだった。
そして彼に自分がかつての妻瑠璃だということを信じさせ、彼とともにアキヒコのところに行こうとするのだが・・・
飛び出しで、希美は死んでしまう。
そして一般的な目で見られた竜之介は、少女の誘拐という罪にさらされてしまう。
(竜之介が工事で行った小学校で既に小山内瑠璃に会っているというエピソードも秀逸、その時に年齢にそぐわない黛じゅんの歌を歌っていた。また竜之介が元々は有能な男で非常に記憶力に優れているという点も重要で、だからこそ、小山内瑠璃が自動車事故で死んだという時に反応できる)

・1.正木瑠璃(電車で轢死)→2.転生して小山内瑠璃(自動車事故で母親とともに死亡)→3.転生して小沼希美(瑠璃の名前が付けられなかったのは、2の事故が当時あったから)

そして冒頭の東京駅ステーションホテルの場面に移る。
小山内はかつての自分の娘瑠璃が描いた三角の肖像画を持ってきている。
ここにいるのは、
女優の緑坂ゆいとその娘「るり」だ。
るりは4番目の瑠璃であり、彼女も記憶を取り戻していた。
だからこそ、2番目の時に父親だった小山内の嗜好を知っていた。
更に、驚くべきことを彼女が言う。
転生は自分だけではないと。
今、小山内堅が結婚しようとしている子連れの女性がいるが、その子供がかつての妻と同じような呼び方で彼を読んでいるということを小山内は自覚する、そして諸々を考え合わせ、義理の娘がかつての梢だったということに気づき、東京駅で崩れ落ちる。
(緑坂ゆいは、かつての娘瑠璃のの同級生で親友である。るいの口から、娘瑠璃が『母親梢が語ったこと』として教えてもらったのは、彼女が小山内を高校の時から後輩として愛していて、追って東京に来たのだ、ということだった。小山内堅は初めてここで知る。)

・1.正木瑠璃(電車で轢死)→2.転生して小山内瑠璃(自動車事故で母親とともに死亡)→3.転生して小沼希美(瑠璃の名前が付けられなかったのは、2の事故が当時あったから。彼女も事故で死亡。) →4.転生して緑坂るり

最後の緑坂るりが最終章で、三角とようやく出会うというところにようやく、という気持ちで涙が出た。
2017.04.05 堆塵館



評価 4.9


ご・・・ご無体な・・・
殺生な・・・・
ここで終わりか!
次を早く!!!(もうすぐ出るらしい)

久々のエドワード・ケアリーだったけれど、とても面白かった。
独特な奇妙な挿絵がまたいい。
振り仮名がふってあるので、子供向けでもあるだろうか。
これを子供の時に読んだら、楽しいだろうなあと羨ましくなった。

読みながら、何かを思い出す・・・と思ったら
テレビドラマのダウントン・アビーとハリーポッターだった。
ダウントンアビーの場合、召使たち(執事なども入る)と上流階級の人たち、なのだが、くっきり上下階に分かれている。
(ちなみに表表紙と裏表紙にその家の断面図?が載っていて、これまたじっくり見ると面白い!)
堆塵館でも、
上の階と下の階(というか地下)はくっきり分かれていて、下の階の人たちは上の階の人たちが寝静まった後いろいろなことをこなさなければならない。

ただ違うのは、これが巨大なゴミ屋敷であり、外側もゴミであるということだ。
屋敷の上の階にいるのは、アイアマンガーという純血の一族なのだ(ここがハリーポッターを想起させる、純血というのがとても重視される魔法世界ではここがマルフォイとかそのあたり)。
下の階にいるのは、そうではない人達で、両親のどちらかがアイアマンガーで、その二世三世の子供たち、が召使になっている。(ハリーポッターだったらここが

まず上の階のアイアマンガーの人たちは、生まれた時に『何かの物』をもらう習慣がある。
これは、把手だったり、暖炉だったり、お風呂の栓だったり、人それぞれだ。
自分の命と同じようにその『物』を大切にしなければならない決まりがある。
この『物』が叫んでいる声が聞こえる一人のアイアマンガーがいる、それが体の弱いクロッドという少年だ。
物は何を叫んでいるかというと、自分の名前(これも後半で意味が分かってくる、なぜ名前を叫んでいるかという意味が)

またもう一人の主人公は、普通の世界からここに召使としてやってきたルーシー・ペナント。
なんせ元気がいい、そして彼女の視点で不思議に思う質問は、読者が思う質問なのだ。
ルーシーは普通の人間の視点というのを代弁している女の子なのだ。

このクロッドとルーシーの出会いから、クロッドの親友の思いがけない出来事や、ルーシーの窮地など何しろ話はあちこちに行き、楽しませてくれる。

・・・・
後半、なぜ、物が名前を持っていたのか。
なぜ物が名前以外を語り始めたのか。
その謎が解けていくところもまた読ませる、あああ!そういうことだったのか!と。
クロッドが物のの名前を聞けるということはとても意味があったことだった。
また、堆塵館がどうやって出来上がっていったかという語りもまた読ませる部分だった。
外に投げ出された(つまりごみの上に投げ出された)ルーシーの描写もまた迫力がある。

次巻が待たれる。

・・・・
以下内容のことではないのだけれど。
(最後の解説で
クロッドやロザマッドの意味(確かにカタカナじゃわからない・・・)
名前のずれでハリエットがホリエットとか(確かにカタカナじゃわからない)
とあるので、これを一覧にしてほしい。
あと、登場人物表がぜひ欲しいと思った。これはつけてないのに何か意図があるのだろうか?
英語と日本語で登場人物表をつけて、そこに名前とともに、クロッドの英語の意味、ロザマッドのマッドの意味をつけてくれたらこんなにありがたいことはない。)


評価 4.9

私が解釈していたイヤミスとこれは違うように思ったのがまず最初だった(帯に元祖イヤミスとある)
嫌な話というよりも、人間が生きていく上での裏側の真実の話、といった印象だ。
だからいやーな気持ちには私はならなかった、こういう苦いことも人生にあるだろうと思って読んでいた。

・・・・・・・・・・・・・
ともかくも読ませる、導入部分から途中からラストまで、面白い昔話をお爺さんから聞いている子供、のような気持ちにさせてくれる。

どんでん返し的なものもある。
『的』」と書いたのは、どんでんにはなっていなくて、すれからしの読者だったら途中で(もしかして・・・)と気づくつくりになっているからだ。たとえば、切り裂きジャックがやってくる、なんかまさにそうだ。
最初の方から多分こうだろう・・・という予感がしていて、その予感を裏切ることのない結末だ。
冒頭の痛み、の作品もそうだ。
それにもかかわらず読んでしまう、読ませてしまうというのは、やはり巧いからだ、語り口が。
思わずずるずると、切り裂きジャックの話に引き込まれてしまう。
痛みの話も、病院にいる人間の半生が先生ごめんなさいという語り口とともに強烈にこちらに迫ってくる。

幻想の趣のある、影とのあいびきは、歌舞伎という日本特有の文化を語りながらも、アラビアンナイトのような不思議な世界観を作り上げている。
日本文化の歌舞伎に入れあげるナディン氏!
ちなみに、この作品、今の目で読むと差別があるとは思うものの、昭和の時代こうだったなあというのがよくわかる作品でもある。
(差別に関しては最後に断り書きがあります、この作品のみ、に対してなのかどうかはわからないけれど)

兄は復讐する、も妹の無念を晴らそうとする兄の話なのだが、これがただの小説にならないのは、
『兄の妹への執着』
が強烈だからだ。この強烈さにまず目を奪われる。
これが恋人ならわかる、また夫婦ならまだわかる、でも妹。
背徳的なにおいが遠くで醸し出されていながらも、一体妹がこうなったのは誰のせいかというのを突き止めようとした兄。
これまたラストが予想できるのだが、それでも必死の兄の様子が手に取るようにわかっていく。

妬み、も大変面白かった。
幼い頃からずうっと舞踊家を見つめてきた一人の女性がいる。
彼女が行きついた先の天才舞踊家という地位。
そしてそれを見つめてきたいわば影役の女性の鮮やかな台頭。
この二つが強烈に脳裏に焼き付く。

一番好きだったのが、かたみ、だった。
何不自由ないと見える裕福な人妻がホテルで命を絶った。
これはなぜか。
幻想的に見えて、これはラスト、あああっと唸る作品だった。
なんとも皮肉な結末だ。
かつて自分が愛していた男が出征してそのあとやむなく生きるために、年上の男性と愛のない結婚をした女性。
ひたすら虚しさを噛みしめていた女性。
彼女のもとに、軍服姿の昔の男性が戻ってきて歓喜の情を交わす・・・
幽霊譚、または幻想譚、または女性の妄想、と思わせておいて、最後の最後でベトナム戦争のことがクローズアップされてくる。ここまでの描写で、ホテルの中に多くの日本から出兵するアメリカ兵がいた、という事実も描かれている。
つまり、女性のもとに訪れたのは、アメリカ兵であってかつての恋人の幻影ではなかったというのが最後の女性の爪に入っていた金髪でわかる(その前に膣の精液でもわかるのだが、実際に交渉があったということは)
2017.04.02 漫画ベスト



久々にどはまりした漫画。

これってそもそも内容を語ってもいいのでしょうか。
これがどういう漫画かというのを知らないほうがずうっと楽しい。
でも知らないと、なんだかわからないで読めないかもしれない。

可愛い絵です。
こちゃこちゃっとした絵です。
ふわふわっと書いてあって、最初はほのぼのとした孤児院(でもなんだか幸せそう・・・)で優しいお母さん代わりの人に見守られながらすくすく元気に子供たちと暮らしている少年少女が描かれています。
ほわほわ可愛い系癒し系かなあと思って手に取った人が一番ひっくり返るほど驚くと思います。

ある映画も思うし、ある小説も思います。
それもネタバレになるし(双方ともに)・・・・
話の骨格がとてもよくできているのです。
ああ・・こうなのだろうなあ・・・と思うような方向にはいかないし、人も全く想像と違った動きをするし。
身体能力の高いエマ(女)とダントツの頭脳を持つノーマン(男)と知恵者でいつも本を読んでいるレイ(男)、この子たち三人が主人公で、三人が三人とも天才児でもあるのです。

騙す騙され、部分も面白いし、根本の話も面白いし、やろうとしていることも破天荒で面白い。
何拍子も揃った漫画だと思いました。

サスペンスというかホラーに近いところもありますが、何しろこの絵なので救われる部分もあります。
2の後半で予想を裏切るまたしても驚きがあったので(ここ驚いた驚いた!!)、これからどう展開するかものすごく楽しみです。
4月4日が待ち遠しい!!(3の出る日)

・・・・・・・・・・・・・・・・・


ぼちぼち読んでるので、まだ2までしか追いついていないのですが、続刊出ています。

これは、天才的な小説の才能を持っている女子高生、がいて
彼女の所属する文芸部があって、という高校生活部分と、
出版不況と闘いながらもなんとか一世一代の作家を見出したいと思っている編集者側部分と
二つが並行して描かれいています。

1より2の方が話が動いていて面白いです(1は導入なので説明が・・・)
何しろ、暴れん坊の一見おとなしそうな女子高生が、最初からヤンキーの指を折るという暴挙に出るとか、すごいのです。
このはちゃめちゃ具合と、内省を必要とする小説とがからんで面白い漫画になっています。

これからの展開が楽しみです。
2017.03.29 ゼロ・アワー


評価 4.3

タンゴと猫を据えてのハードボイルド小説だ。
途中で何度も(中山可穂?)と表紙を見直した、今までの作風と違うから。
とても彼女らしい場面も見られるし、タンゴの描写とかいかにも彼女らしいし、ふてぶてしい猫の話とか通称ハムレットが猫に振り回されている様子など、惨劇のさなかなのにくすっと笑えるところとか。
要は巧いのだ。

通称ハムレットという凄腕の殺し屋。
彼はタンゴをこよなく愛しているのだが、ある一家の皆殺しを依頼される。
皆殺しをした後に、自分のDNAがあるかもしれない爪を持った猫アストルを持って帰ってなぜか引き取ることになる、そしてこれが運命の幕開けだ。
ハムレットに両親と幼い弟を殺された少女広海は偶然家にいなかったのだ。
彼女は復讐を誓い、疎遠だった祖父の住むブエノスアイレスに旅立った・・・・


タンゴへの愛、そして猫への執着が段々殺し屋のハムレットに芽生えていく場面が読ませた。
また祖父の過去も、こういうものだったのか、と予想の範囲内ではあるもののここもまた読ませたのだった。
が。
全体には、私はlこの作者にこういうもの(ストーリー的に)を求めていないのだなあ・・・とつくづく思ったのだった。
中山可穂にしか書けないものを書いてほしい。
2017.03.29 失われた地図


評価 4.5

グンカはなんだろう?
軍靴?
悪意の塊か。

日本の各地にある、軍部の跡地。
そこには、かつての記憶が眠っている。
更に、もっと以前の記憶も増幅し暴れまわる。
『裂け目』から噴き出してくるグンカとそれを閉じようとする風の一族・・・・


女性の鮎観(あゆか)、彼女と息子をもうけながらも離婚した遼平、言葉少ない浩平、の三人が特殊能力を持っていて、他の人には見えないが確実にそこにいる巨大悪(悪意といってもいい)に立ち向かう話だ。
グンカが見えていく様子などは大変面白いし、小出しに情報が出てくるところも良いと思った。
それぞれの土地の昔の記憶のようなところも読ませる。
また、『裂け目』から悪が飛び出てきてそこを『縫う』という作業も非常に面白かった。

が、これ、まだ途中だろう(と思いたい)。
いくらなんでもここで終わりというのはないだろう。
あと・・・全体にちょっと薄い、ストーリーとして。
薀蓄が語られるが(色々なところで)、それがそこだけ話に溶け込んでいないで、浮き上がってくる感じもとても気になった。
次、が出たら読むけれど、ぜひ次に期待したい、鮎観の再婚相手の素性も含めて、おそらく超巨大な能力を持っている子供登場も含めて。