評価 4.8

率直な言葉で映画監督西川美和がその思いを語ってくれている。
今回は、映画永い言い訳の話が多く、もっくんの話も多かったので、映画を見た者としてはそこもとても楽しめた。
もっくん、こういう人だったのか・・・という驚きも!
まさに衣笠じゃないか・・・

裏話というのではなく、映画はこんなに多くの人を巻き込んで、多くの人の感情を揺さぶって(既に現場で)、多くの人の手を経て、ようやく私たちのもとに届くんだ、というのを実感したのだった。
監督の目、は妥協のない目であり、一点の曇りもない目でもある。
これだけの賞を取っても、実力があっても、まだ自分を探している途中というか、暗中模索のような状態というか、そこにまず驚いた。
でもそこがこの人の映画のいいところなのかも、と思った。
妙に、あがり、といった感じがないのが自然体の皆の演技を引き出しているのかもしれないなあ・・・と勝手に想像したりしたのだった。

子役の選出の大変さもひしひしと感じた。
育ってしまうからなあ・・・撮影中に・・・と思うと、オーディションの難しさ、その子の心のケアなど、作者が言うように子役への気持ちってたくさんのことが溢れているんだなあと感じた。
そして、私はこの映画で、子役の男の子の大ファンなので、この子が泣くシーンで苦悩しているというのを読んで、頑張ったなあ・・・と改めて思ったのだった。
6月の読書メーター
読んだ本の数:13
読んだページ数:3773
ナイス数:380

漱石漫談漱石漫談感想
とても面白かったです。読んでない人は読みたくなるだろうし、読んでいる人は再読したくなるだろうし、ともかくも漱石本の敷居をばっと低くしてくれる一冊だと思いました。この対談の重要なところは、お二人から漱石への愛が溢れていて読み込んでいる、というところだと思います。愛があるので時におちょくっても突っ込みを入れてもそこは許される。行人の直の考察と、門のある章からの展開についての語りは読ませました。猫温泉は笑ったし、いとうさんの美禰子嫌いにも笑いました(が、私も好きではありません)。バーナード嬢曰くの漫画も最高。
読了日:06月22日 著者:いとうせいこう,奥泉光
穢れの町 (アイアマンガー三部作2) (アイアマンガー三部作 2)穢れの町 (アイアマンガー三部作2) (アイアマンガー三部作 2)感想
前巻から待っていましたが、期待していた以上の面白さ。が、またここで切れる!また次を待ちます・・・。
前巻でどちらかというと線が細いイメージのあったクロッドがたくましく大人に成長していく姿が読ませました。ルーシーは相変わらず元気いっぱい、いいなあ、この娘。今回はお屋敷を出て町、の物語なのでそこに生きる人たちの姿もまた活写されていました。物から人へ、人から物への流れが一気呵成に読ませます。見開きの町の鳥瞰図も裏表紙裏のポスター図も楽しいし、不気味な挿絵も物語を盛り上げてくれてわくわくしました。
読了日:06月22日 著者:エドワード・ケアリー
かがみの孤城かがみの孤城感想
初期作品、特に冷たい校舎~あたりを強烈に思いました。不登校の女子中学生の部屋の鏡が光ってそこから異世界に行く、という出だしでファンタジーっぽい?と敬遠していましたが、全く思った話と違って堪能しました。中学生の少年少女たちのそれぞれの描写の生き生きとしていることと言ったら!現実世界での母親とのやり取りも胸を打ちました。伏線は巧妙ですが物語全体の構成はわかります、早い内に。けれどラスト二つは私はわからなかったので驚愕。そしてラストと最初が呼応して美しい。願わくはこの物語が闘う全ての子供たちに届きますように!
読了日:06月20日 著者:辻村 深月
劇場劇場感想
恋愛小説。どうしても関西弁と頭の中で物と行動を考えて続けている自意識過剰の男が作者本人に重なってきて、それを振り払うのにまず一苦労。劇作家の永田像が頭で考え続けている男で、昭和の時代の文学系演劇系の男子によく見られた男だと思いました。天真爛漫な笑顔の絶えない沙希の「本当によく生きて来れたよね」という言葉がまさに本質を突いていると思います。後半が辛い。私が違和感を感じたのは、手をつなぐ以外に一切の男女の交渉が描かれていないところです。二人の思いというのがあると思うので、ここは重要なところ、だと思うのですが。
読了日:06月17日 著者:又吉 直樹
まっぷたつの子爵 (岩波文庫)まっぷたつの子爵 (岩波文庫)感想
面白かったです。人間の中の善悪の分離ということでジキルとハイドを思いますが、それとは全くアプローチが違っていて。戦場で真っ二つになった子爵の体の半分側が悪になって戻って、後半でもう半分側の体の善が戻ってくる、という奇想天外な物語。大人のメルヘンであり寓話でもあります。悪子爵の悪辣なことと言ったら!この中で隔離されているらい病患者の村が最初放埓な暮らしをしていて、善の子爵が戻ってきて、一見良さそうなのにそれを疎ましいと思うというところになんとも皮肉を感じました。結婚するつもりになった少女の機知が光ります。
読了日:06月17日 著者:カルヴィーノ
少年Nのいない世界 02 (講談社タイガ)少年Nのいない世界 02 (講談社タイガ)感想
このシリーズ楽しみにしています!1を読んだ時にも次が待たれましたが、今回も!!異世界に飛ばされた小学生たち(しかもその異世界が別々の場所)、その子たちがそれぞれの場所で成長しているのですが、まだ何もわかっていません。なぜ異世界に飛ばされたのか、そもそものきっかけの猫殺しの犯人はどこにいるのか、異世界は一体全体何なのか?長谷川歩巳が今回はメインで彼が過酷な労働の場所に来てそこで居場所を見つけているけなげな姿が読ませました。繋ぎ役の二葉の意図がよく1ではわからなかったのですが、徐々に判明、そしてラストの驚き。
読了日:06月17日 著者:石川 宏千花
私の名前はルーシー・バートン私の名前はルーシー・バートン感想
とても良かったです。小説の作りがまず面白いです。病院に入院しているルーシーとその傍らにいる母の姿があると思えば、そこからルーシーの悲惨な過去が語られ、そしてさらにこれを俯瞰しているルーシーの未来があり、更に更に、入れ子のようにその中に『作家になろうとして自分が入院しているときのことを課題で書いているルーシー』の姿も入っている、という何とも読ませる作りで、これが何の引っかかりもなくつるつる入ってくるというのが巧いと思いました。日常の人への視線、描写もまた読ませ、後半の章が断片になるにつれて魅力が加速。
読了日:06月13日 著者:エリザベス ストラウト,Elizabeth Strout
ご本、出しときますね?ご本、出しときますね?感想
テレビ番組を楽しみに見ていたので、本になるのを心待ちにしていました。全体に楽しく読みましたが、やっぱり特に面白いのは本になっても同じで、加藤知恵と村田沙耶香のところと、西加奈子と角田光代の部分でした。角田光代が何でも引き受けてしまうというのは放映でも笑いましたが、本でも笑いました。作家の人となりは作品に出ている場合もあるし出ていない場合もあるけれど、若林の自然体と人となりが彼らの隠された面を外側に出してきて読ませます。ただ・・・やっぱり映像で面白かった微妙な表情とか話し方とかの部分は消えてるかなあ・・・
読了日:06月13日 著者: 
みみずくは黄昏に飛びたつみみずくは黄昏に飛びたつ感想
ちょっと侮っていたかも、川上未映子。とても刺激的で思った以上に、いや、思った数十倍良いインタビュアーでした。読ませます。ファンではあるけれどそれを前面に出さず必要あらば村上春樹の著作の例をきちんとあげていること、作品に妙な解釈をせずにストレートに疑問を投げかけていること、かなりの下調べをして臨んだことに拍手。村上春樹が率直に物事を語っていて知らないことは知らない、違うことは違うとはっきり答えられるのも聞き手が引き出しているからだと思います。騎士団長殺しを読んだのなら必読だし、他作にも言及して興味深いです。
読了日:06月13日 著者:川上 未映子,村上 春樹
夜の谷を行く夜の谷を行く感想
全編息を詰めるようにして一気に読みました、そしてこのラスト。かつてあさま山荘事件にかかわった一人の女性啓子が刑に服した後、息を潜めるようにして生きる姿、かつての同志と図らずも連絡を取り合うことで『同志のその後』を知ってしまうという構図、など読みどころは沢山ありました。なぜ理不尽ともいえる総括があの場で行われたのか、どういう気持ちで彼らが集ったのか、小説とはいえ一つの答えがあると思いました。ただ、実名の人たちがいる一方で、啓子は架空の人物なのでそのいりまじりがやや気になったのと、未消化部分が残りました。
読了日:06月13日 著者:桐野 夏生
素敵な日本人 東野圭吾短編集素敵な日本人 東野圭吾短編集感想
趣向の違った9編の短編ミステリ。
読了日:06月12日 著者:東野 圭吾
女心についての十篇 - 耳瓔珞 (中公文庫)女心についての十篇 - 耳瓔珞 (中公文庫)感想
表紙の絵、そして挿絵、好みはあると思います、小説から喚起される映像って人それぞれだから。けれど、ここに取り上げられている短編群、チョイスが良いので(そしてマイナーなのが多い)、画が好みであろうとなかろうと、これを機会に手に取るというのは非常に重要なことでした、私にとって。岡本かの子はやっぱりすごいなあ・・・とか、円地文子のおはるさんはいかにも彼女らしいなあ!とか。有吉佐和子の地唄が非常に心に残りました、これまた有吉佐和子らしい芸事の話。芥川龍之介のこれって、今の時代でもあるあるネタ、すっごいわかりました!
読了日:06月12日 著者:安野モヨコ 編
少年時代 (ハルキ文庫)少年時代 (ハルキ文庫)感想
ほこっとした昭和の話、で終わると思いきや、そこはこの作者、最後でああっというものは持ってきてくれます。最初のチンドン屋さんについていった男の子の事件目撃者になった顛末、2番目の笑いが充満している東北のある子どもの物語(ご両親の方言に笑った笑った)、3番目の学生時代のしごきのある柔道部の話、とそれぞれも読ませました。
読了日:06月12日 著者:深水 黎一郎

読書メーター
2017.06.22 漱石漫談




評価 5

いやあ・・・楽しい楽しい!
漱石本をいとうせいこうと奥泉光が怠惰なしていくという趣向の本だ。

何よりもいいなあ・・・と思うのは、突っ込みはあるものの、二人が強烈な漱石ファンであるというのが前提になっているところだ。
本を語るということで対談するのであれば、愛がなければもやっと感が残るなあ・・・と他の対談本を読んで思っていたので、この本はなんとも痛快だった。

こころに始まり、坑夫で終わる。
この中で、行人の二人のやり取りをあげている部分がとても面白い考察だったと思った。
こうしてみると、直は割合自分の気持ちを言っている女なんだなあと再認識した。
門の章ごとの組み立て方もなるほどなあと思ったのだった。

奥泉光が小説家の目として、三人称、一人称にこだわって着目していくのも、わかるなあと思ったのだった。
また漱石がコミュニケーション不全による孤独という指摘もあり、ここもまた注目して読んでみるとまた新たな読み方ができるかもしれない。
猫温泉の言葉も忘れ難い。
いとうさんは、美禰子が嫌いと(そしてこれはとてもわかる、私も好きじゃないので)、童貞小説目線があった。

いずれにしても漱石を強烈に再読したくなる一冊だ。

(作品ごとに挟まれる、バーナード嬢曰く漫画も笑える笑える!)
2017.06.22 穢れの町


評価 5

前巻で、うおおー次を早く!!!どうなるこの二人は!!と思っていたが、次のこの穢れの町、でも同じことが起こる。早く次を!!
エドワード・ケアリーの語りの巧さ、凄まじさが怒涛の如くこちらになだれこんできて、物語世界に一気に連れて行ってくれる。

相変わらず不気味な挿絵が素晴らしくこれがこの話を盛り上げていることは間違いない。
表紙を開いた見開きのところの図は、前回はお屋敷の図、今回は町の鳥瞰図になっていてここも楽しめる。
裏表紙を開いたところにはポスターが貼られている(これも見ていくと楽しい)



<以下内容に触れるので一部ネタバレになると思います>

今回は、タイトルにもあるように、町のフィルチングが主役になっている。
前巻は、お屋敷が主体で町はちらっとしか出てこない。
前巻で離ればなれになってしまった、アイアマンガー一族のクロッド。
死んでしまったらしい恋人ルーシー・ペナントを探していく・・・
クロッドが前巻では、おどおどしていて自分の特異な能力(その人が持っている誕生の品物の声が聞こえる、そしてそれによって品物がかつて人間だったことを知る)さえも生かしきれなかった、感じがしたが、この巻では、成長して自分をいわば敵地のようなところでもアイアマンガーと宣言できるし、ルーシーを見つけるのに全力を尽くすことでより強くなっている。

ルーシーは一旦ゴミにのみ込まれて死んだ?と思わせられていたが、実はどっこい生きていた。
いかにもはねっかえりで元気の良いルーシーらしく、最初わけのわからぬゴミの中の物にてきぱきと指示し、ゴミ山から何とか脱出しようとする姿が印象深い。

・・・
この話、町、なので、いわば貴族として君臨してやりたい放題(思ったよりやりたい放題だった)のアイアマンガー一族を、貧民の死町の庶民たちがどう見ているか、というのがよくわかった。
病気がそこら中に蔓延していて、治安の悪い汚い最低の町、フィルチング。
そこに住む人たちと住まざるを得ない人たち。
途中で、物から人へ、人から物へと流動的に話が進んでいくところが一気に読ませる。

感動の再会もあるのだが、そのあと・・・
次巻が待たれる!
2017.06.21 劇場



評価 4.6

恋愛小説だ。
作者が作者なので、ものすごく不利だと思う、なぜならこの主人公にどうしても最初のうちは作者を重ね合わせてしまう。
強烈な印象がある作者(声高に物は言わないが存在感が芸能人であるので半端なくある)の声が聞こえてきてしまうのだ。
さらに不利、だと思うのは、これが関西弁で語られているのでますます作者に重ね合わせてしまって、それを脳内から振り払うのにとても時間がかかった。

劇団で食えない生活をしている永田。
彼がふとしたことで見つけた沙希という女性は、よく笑いよく彼をサポートしてくれた。
一緒に暮らすようになり、永田は自分の劇団のトラブルや他劇団で活躍する人たちへの嫉妬にも苦しむ。
内省的な永田を常に笑いで温かく包んでくれる沙希・・・しかしその恋愛の行く末は・・・


永田が考え始めると、その考えが記されていて、それがとても屈折しているのがわかる。
彼の考えをたどっていくと、常に自分、というのがあり、常に外から見られている自分もあり、とどのつまりは自分でしかないのだ。
とてつもなく文章を頭で紡ぎ、頭だけで考えて、屈折しまくっている男、永田の姿がこちらに伝わってくる。
彼はお金もないこともコンプレックスになっている。
世間から演劇の世界で認められていないこともコンプレックスになっている。
彼独自の世界を誰もわかってくれないということもコンプレックスになっている。
そして強い自我意識のみが存在して、彼をようやくこの世で生かしているのだった。
元劇団員の女性が本を出した時のすさまじい罵倒も、彼の心の本質を描いている。

永田像というのが、昭和の時代の文学系演劇系の男性に多かったなあ・・・と懐かしかった。
今も形を変えているだろうけれど、今はインターネットがあるのでそこで決定的に違うのだ。
昭和の屈折した男永田、というのが私の印象だ。

その中で、奇跡のように現れた沙希。
現れた、というか、彼女との出会いも、普通でいえばかなり気持ち悪い、ストーカーのようなものだから。
ナンパというのでもなく、ただただ彼女を求めている永田の気持ちが薄気味悪い、普通の感覚だったら。
けれど沙希は菩薩のような存在なのだ、永田にとって。
最初のうちは永田を警戒していたのに、あっという間に警戒をほどいて彼のあらゆるところを受け入れようとする沙希がいる。
沙希の永田に対していった
「本当によく生きて来れたよね」
という言葉がわかる。

後半、沙希が壊れていく。
もし、彼女が別の男性と普通の恋愛をしていたら。
もし、彼女が永田が声をかけた時に無視し続けていたら。
いくつものもし、が頭をよぎる。
天真爛漫で誰からも愛された彼女が壊れていくのを読んでいるのがとても辛かった。

・・・・・・・・・・・・
この小説、私が違和感があるのは、性描写が一切ないということだ。
手をつなぐ、というところまではあるけれど、そのあとはない。
同棲していて当然交渉はあるのだろうから、そこに対しての両者の思いというのも絶対にあるはずで、そこが書かれていないというのが奇妙に思ったのだった。
2017.06.20 かがみの孤城


評価 5

読み終わった時に、

(この物語が、今現在学校で、家で闘っている全ての子供に届きますように。
そして闘わなくてもいいんだよ。
放棄してもいいんだよ、とも。
身近で信頼できる大人をだれか見つけられますように!)

と強く強く思ったのだった。
物語はそれだけの力があるとまだ信じている。
この物語はそれだけの力があるとも。

また冒頭の部分と最後の部分が呼応して円環の物語になっている。
冒頭を読んで絶望感に浸った人も、最後の文章で救われる。
非常に巧い構成だと思う。

・・・・・・・・・・・・
辻村作品の初期の作品にとてもテイストが似ている。
たとえば、冷たい校舎~あたりに。
けれど、かがみの孤城は、その作品よりもずうっと問題が根深くなっている。
扱っていることは、学校内のいじめ、に端を発しているのは同じなのだが、かがみの孤城ではこれが複数の人たちが何らかの形で(それはいじめに限らない)学校にいけない状況、になっているのだ。
不登校の子供たちが集結して、そして一つの謎を解いていく。
その謎とは、鏡をそれぞれくぐってきた城の中で会った少年少女が、鍵を見つけることだった。
鍵を見つければ、一つだけ願い事が叶う。
皆それぞれ独自に探していくのだが・・・・

自宅の部屋の光り始めた鏡の中を通って別世界に女子中学生こころが行く、そこには狼のお面を付けた女の子が待っている・・・
彼女はお面の中から、3月までに鍵を見つけろそうすれば願い事が一つだけ叶う、と教える。
でも願いがかなった瞬間に孤城は終わってしまう。
そして彼らの記憶も消えてしまう。
いずれにしてもこの孤城が3月までの期間限定のものだとも。
そこには自分と同じような境遇の同世代の7人の少年少女がいた・・・


これだけだとファンタジーだ。
子供向け?ここにも出てくるナルニア?
けれど、これは私が思った『そういう傾向』のファンタジーとは一線を画していた。
最初のところで挫折しかけた人はあともうちょっと読んで欲しい。
ファンタジーではない、というのがよくわかってくるだろう。

集まったものの、少年少女はお互いが何となく学校に行っていないということだけは知っているが、それぞれの事情を面と向かって聞きはしない。
本名も知らず、ただ名前のみ(または苗字のみ)を知っている少年少女。
ゲームをしまくっている男子二人マサムネとスバルの中に入れてもらえるこころの姿がまぶしい、ここでは入れてもらえた・・・でも周りを見てまた仲間外れにされるのではないかとおどおどしているこころの姿もまたあるし彼女の中の疑心暗鬼は消えていない。
最後までなぜ?というのがわからない子がいる、それは部屋にこもっていることが多かったアキ、だ。
また3人のうちの女の子の一人フウカもなかなかその本当の姿が見えない。


登場人物
・マサムネ・中学二年生。学校に行かなくてもいいと言っている独自の考えの両親がいる。ゲームマニア。言動がストレートな男子中学生。学校になぜ行けなくなったのか、学校で何と呼ばれたのかが途中でわかる。
・スバル・マサムネと最初からゲームをしている不良っぽい男の子。お兄さんがいて途中で髪を染めてくる。彼は祖父母と暮らしている。こころがハリポタのロンに似ている、と評している。
・アキ・中学三年生。大人っぽく極端に学校のことに触れられるのを嫌がる。
・こころ・中学一年生。
・リオン・中学一年生のイケメン。なんで誰からも好かれそうな爽やかなリオンがここにいるのかが皆の疑問だったが途中で意外な彼の立場が半分だけわかる(残り半分は最後の方でわかる)。
・フウカ・中学二年生。眼鏡の女の子。とっつきは悪い。部屋にいることが多かった、途中まで厳しいことを言うことが多い。
・ウレシノ・中学一年生。苗字で呼んでいるちょっとぽっちゃりめの男子中学生、最初の内疑似恋愛ごっこで全ての女の子に好きだというアプローチをして気味悪がられる。なぜ彼が不登校かは、途中で明らかになる。

主人公にあたる、こころ、の事情だけはっきりと最初の方からわかっている。
入学したばかりのマンモス校の中学校で一人の同級生から激しいいじめと仲間はずれにあっていた。
家を取り囲まれるまでに至って彼女は不登校になるのだ。

ずうっと孤城にいられるわけではなく5時と決まっていて、そこを出たら狼に食べられてしまうという掟があるので、家にいるという時間もあってそこでは日常を送っているこころ。
スクールという不登校の子供たちの学校すら行けなくて苦しむこころ。
そのスクールで唯一心が開けそうだ、とこころが認めたのが、女性の喜多嶋先生だった・・・


・・・・・・・・・・・・・
こころとお母さんのやり取りの中で、引きこもりになって初めてお母さんに全てを話した部分に泣けた。
ここは親と初めて本当のことが話せた、しかも現実というので泣けたし、そこまでこころが学校にいけないというのを問題視扱いしていた母親が、実はこころの一番の味方だったというのをこころが理解した瞬間だったから。
母親が学級担任に立ち向かってくれる姿にも泣けたのだった。
(にしてもこの担任!!!と言ったら!!!)

この物語は
・そもそもこの孤城とは何だったのか
・ここに集められた中学生は何だったのか
・狼の面をつけた少女は何者なのか
・リオンはなぜここにいるのか
・最後に探すカギは何を意味しているのか
とたくさんの謎に満ちている。

ミステリとしては、伏線がたくさんの場面に潜んでいる。
正直、こうじゃないか、という大きなこの物語の構成はその伏線を読んでいればわかる人が多いのだと思う。
わかっても尚且つ読ませる力があるとも思った。
またラストの二つ、つるべ打ちの様に衝撃だった、これはどちらも予測していなかったから。

最後まで読んだら必ずや最初に戻ると思った。
そして最初からもう一度読んでみると、新たな目で読み直すことができるのだ。


以下ネタバレ
・この物語が時制の違った子供たちが集められた、というのは話のずれで割合初期でわかる。
スーパーの有無、同じ喜多嶋先生の描写、マック、ゲームの感じ、休日の受け止め方(特に1月15日の話)・・・
そして途中で同じ学校ということも、アキがたまたま着ていた制服でわかる(制服は時を経ても変わらないものの一つだなあとは思った)
それがわかるのが、スバルが三学期のある日登校するので、皆に来て欲しいと言った時に、皆が行っても会えなかったというところも大きい。
けれど途中でマサムネがゲームに見立て、これが並行世界だと言い始めたのでそうなのかなあ・・・とそこで一旦考え直したのだが・・・でもやっぱり最終的には時制が違っていた。

最後5時過ぎまでいたアキのせいで、皆が狼に食べられてしまう。
それを救うべくこころが立ち向かう、この物語は、七匹の子ヤギの物語だと気づいて子ヤギが隠れた場所に行って、印の×印に手をやるとそれぞれの人の生い立ちが脳内に出てくるのだった。
(この×印の意味がわからなかったので、なるほど!)

・スバル1985年
親と離れ祖父母と暮らし、不良の兄の影響でそちら方向に走ろうとしている。
ゲームをするマサムネと親友になりつつあった。
だから、彼は「ゲームクリエーターの有名な人と知り合い」と言ってしまってそれが嘘とわかって学校に行けなくなってしまったマサムネのために
『自分がゲームクリエーターになる』
と宣言してくれる。ここは泣けた。
彼とマサムネは時が離れているので、実際にその可能性はあるのだ(本人たちが覚えていないにしろ)

・アキ1992年
彼女の姿が一番わからなかった、何に悩んでいるのか最後の最後までわからなかった。
彼女は義父によって家庭内の虐待になりそうなのを必死に耐えていた。
その過程でテレクラなどにも救いを求めていたが何もそこからは生まれなかったので絶望していた。
彼女を救うために全員が協力して引っ張るのだ、特にこころの活躍がある。

そして時を隔てて、彼女が実は喜多嶋晶子だということがわかる(驚いた!!)
そう、彼女は喜多嶋先生で、不登校になったこころを救うことになるのだ。
そればかりか、年老いた喜多嶋先生とその後の子供たちの出会いもある。
(リオンの姉をみとったことからこの道に進もうと決意していた)
子供たちに狼の口から救ってもらったアキはその救いの手を今度は救ってくれた子供たちに返したのだった。

・こころ・リオン2006年
リオンはハワイの学校から通っていた。
だから彼だけが不登校ではないのだ。
けれど、小さい時に姉を病気で亡くしていて、母親がその気持ちから抜けきれない。
ハワイに追いやられたと思っていた。

そしてリオンは地元の学校に強烈に行きたかった。
最後リオンはこころの学校にさっそうと現れる。
覚えていなくても、こころを見つける、このエピローグが最初の部分に繋がってい行く・・・
奇跡は起きるのだった。

さらに狼の面をつけて皆をここに招集した少女は、亡くなった彼の姉だった。

・マサムネ2013年
ゲームが大好きなマサムネ。
嘘が口からついて出てしまい、ホラマサと言われている、学校では。
仲の良い友達にまで見捨てられ学校に行けなくなる。

マサムネは、苗字であるというのがラストでわかる。
ウレシノに続いて二人目。

・フウカ2020年
ピアノの天才児と騒がれて母親もその気になり、全てを犠牲にして練習しまくるが・・・
結局それほどの人にはなれず、学校での勉強を取り戻すべく孤城で部屋で学校の勉強をしていた。
こころからの贈り物を宝物のようにしている姿が可愛い。

ウレシノからの好意をしっかりと受け止められる少女で、覚えていないというのは承知で、
年齢の違うウレシノと未来での出会いを約束する。

・ウレシノ2027年
学校で友達の名のもとにお金を奪われたり、暴力を振るわれたりする。
途中で一回戻るのだが、その時にも壮絶な暴力を受けている。


・こころをいじめていた女の子からの手紙の話(2回ある)は、

<<以下冷たい校舎の時は止まるのネタバレになりますので注意!>>




冷たい~で、角田春子という女の子がいじめをした深月にそのお詫びの手紙を出したのだが受け入れられない、

というのに通じていると思った。
このことによる悲劇的結果が、冷たい校舎ではあるのだが、かがみの孤城ではまた別の展開が用意されている。



評価 5

とても面白かった。
童話?ちょっと苦いところのあるメルヘン?
いわゆる寓話、だと思うけれど、難しく考えなくても話として面白い。
人間の二面性ということですぐにジキルとハイド氏を思ったが、全くアプローチは違っている。

ぼく、が語り手であって、ぼくの叔父さんメダルド子爵がトルコ軍との戦争に行く。
そこで砲弾にあたり、左右まっぷたつに吹き飛ばされる。
そのうち、奇跡的に助かった部分が右半分。
右半分は悪の部分であった・・・


奇想天外なストーリーと言っていいだろう。
くっきり悪と善が分かれていて、しかも体が割れてしまっているのだから。
体半分が悪で満たされていて、それが前半は悪の限りを尽くす・・・
面白くない物語になるかもしれないスレスレのところを書き込んでいる。
とりあえず半分でも子爵は子爵なので、彼の言うことは絶対であり、しかも彼の言うことはどうも戦争以後理不尽で残虐なことが多い。
それに領民たちは気づいているものの、どうしようもない、手をこまねいているだけだ、何しろ子爵なのだから。
とりあえずは偉い人なのだから。

また、らい病患者の村というのが描かれている。
ここは隔離されていて、皆が半狂乱のような放埓な生活を送っている彼らであり、そしてそれはそれで成り立っている村でもある。
悪の子爵は自分の乳母を病でもないのにここに送り込む、という蛮行まで行っている。
この村も話の中で一つの重要な場所になっている。
なぜなら、後半で・・・

村の中にも、おかしい、悪いことばかりやってるじゃないかと思っている人もいる。
甥である「ぼく」もびくつきながらも、彼に見つからないように見つからないようにと腰をかがめている。
悪の右部分は、半分の癖に、ある少女を自分の妻にしたいと思った。
この少女、なかなか馬鹿じゃないのだ、読んでいて、ここがとても重要なところだと思った。
両親が、悪の方でも子爵なのだから!結婚した方がいい!!と乗り気なのだが、少女は彼の悪の部分を懸念している。
そこはしっかりわかっている少女、なのだ。

・・・
この話、後半になって、今度は左半分が実は生きていて、善になって戻ってきているというのがわかる。
ここで右半分悪と、左半分善が勢ぞろいするわけだ。
善はそれこそ善をしようとしている、ありがたい、と思っている人たちの姿もあるのだが、らい病患者の村に行ってその放埓さを改めようと呼びかけるに至って、彼は疎まれる(ここが非常に面白い)
善は善を成しているだけなのに、と、納得がいかないだろう。
ここに、複雑な普通の人間の感情が見えてくるのだ、善のみでは物事の本質は見えず物事ははかどらず、また悪のみでは悪政になるという真実があるのだ。

最後、両方と結婚を受け入れる約束をした少女が大きなことを成し遂げる。
無垢の少女の勝利、ともいえよう。


評価 4.9

前の続き・・・・を待っていたが、期待以上に面白い。
またまた次が待たれる!

前巻で、小学校の同級生たちが、ある都市伝説を信じたばかりに、ぽーんと違う世界に行ってしまった、そこは異世界だったというのが語られている。
これが普通のタイムトラベルとかではない物語になっているのは

・飛ばされた世界がそれぞれ違うところになっている。
ある者は過酷な場所で働いている、ある者はそこで芸術の第一人者になっている、ある者はスポーツで秀でている・・・
・プラス、『今』ではないのだ。
飛ばされた時点では小学生、でも今は、もう成長して脳内で忘れさせられているもしくは忘れようとしている過去・・・
・ここに同じ同級生二葉(ふたば)が再会することによって、皆の記憶が開いていく

というところだ。
成長しているのである、彼らは、それぞれに名前を変えながらも。

・・・・
今回、二葉がこの世界の秘密を紐解く人間の存在を明らかにした・・・
途中まで二葉とこの人物の関係性が、男と女かと思う、読者も本の中の人たちも。
しかし・・・・

今回は、それなりにきつい職場とはいえそこに同僚も出来てなじんでいる長谷川歩巳の葛藤と覚醒が描かれている。
これもまた二葉が触媒になってのこと・・・
さて次はどうなるのだろう?

以下ネタバレ
・カギを握っているらしい社長は『12,3歳の少年』であった。


評価 5

良かった!
どこをとっても鮮やかな人間への描写と尽きせぬ探求が光る作品だ。
日常にある人間の心の襞(ひだ)のようなものを描き出している。


(作りもとても面白い。
・30代のルーシーBは、来てくれた母とともに過ごした入院の5日間がある。
まだ夫と幼い娘二人と(離れているので娘も心痛めているが、ルーシーBも心痛めている)

・ルーシーBは振り返る、惨めな学校生活を送り、お金もなく、食べ物もなかったし寒さすらしのげなかった過去の自分ルーシーAを。

・一方で、未来のルーシーCは入院していたルーシーAを振り返って考えている。
この時点で、夫とも別れ、子供たちとも別れ新しいパートナーと暮らしている初老の女性だ。
あの入院していた時の母は亡く、そして父もすでに亡い。
そして、ルーシーCとは作家になったルーシー・バートンだ。
彼女は作家になるべく、別の女流作家の講座に出たり研鑽を積んでいた。
(この研鑽の中で、課題で過去の自分の惨めさなどを書いているので、この作品全体がそれだ、というのがわかる)

・・・・・・・・・・・・・・・
私、は作家であり、もしかしたらこれがエリザベス・ストラウト?と錯覚させるつくりになっている。
私小説っぽい書き方なので余計にそうだ。さらに途中で作家の講座にルーシーが出てアドバイスをもらうという二重底のような作りになっていた、一体ルーシーが作者なのか、この作家が作者なのか・・・

後半で畳みかけるように、私の名前はルーシー・バートンというところが印象深い。
そして後半になると章立ての短さが加速していく。
ぐいぐいぐいぐいこちらに迫ってくるような書き方になっている。

私、は、白人だがいわゆる貧困層に入っている。
住んでいるのは親子5人で親戚のガレージであり、学校では汚い臭いといじめられている。
父も母も子供たちには手が回らない状態で、そこで生きていく私がいる。
姉も兄もさして成績は良くなかったのだが、「私」のみは、家に帰っても寒いので学校で宿題をこなしているうちに成績優秀で大学まで進学できることになる・・・


この物語は、『大人になって幼い子供二人がいるルーシー・バートンが入院して家族と離れ離れになる』ところに母が介護に来てくれる、というところから始まる。
母との久々の会話は、昔の人たちがどうしていたか、またいまはどうしたのかという話に発展して否応なくルーシーを過去に連れ戻す。
家族、そして村にいた人たち、その後(おおむね幸せではない)
そこには貧困と惨めな子供時代と、兄がゲイだったかも知れないことに対しての父の虐待などが潜んでいた。
母との会話は久しぶりであり、夜中の突然の検査でどきどきしていたらそのあとにそこに母が待っていたという事実がルーシーをなごませる。
けれど、母とルーシーの間には見えない川があるようだ。
一見和やかに話している二人だけれど。

そしてルーシーが入院していたのは子供が小さい30代の出来事だったけれど、その後、もまた描かれているのだ。
これ以降彼女は母と親しくやり取りをするわけでもない。
また、当時の夫とは別れお互いに違うパートナー(しかも夫のパートナーはこの入院の時に子供たちを連れてきた友人!)と一緒になって別の人生を歩んでいるのだ。

人生って・・・
そんなことを改めて考えさせてくれる小説だった。



評価 4.8

番組を楽しく見ていただけにこの本を心待ちにしていた。
こうしてまとまると、やっぱりこの番組面白かったんだなあ・・・と改めて思う。
トークバラエティとあるけれど、本好きの若林が聞き手になっていて、彼は作家たちと飲むこともあるらしく距離が近いので、素顔に近い作家たちの生の声が聞こえる。

この中で、私が一番面白いなあと思ったのは、やっぱり活字になっても同じで角田光代と西加奈子の回、加藤知恵と村田沙耶香の回だった。
どちらもちょっとずれている感じ(角田光代と村田沙耶香)の人がいて、どちらかというとノーマルな人がいて(西加奈子と加藤知恵)、という背反する二人の組み合わせが楽しい。
角田光代がこんな人で、何でもかんでも注文を引き受ける、それは小説以外にも、というのに驚いていた。
あれだけの才能を持っていてあれだけに作品を生み出している重鎮、と思っていたからなおさらだ。
村田沙耶香は、おかしいんだけど下手すると危ない不思議ちゃん枠にいられられるところをかろうじて踏みとどまっている、そこがとても好ましい。

全くその人となりを知らなかったダブル中村の好対照の話も面白かった。
こういう人たちなんだなあ・・・・!と驚いたりしたものだ。

若林の突っ込みもさえわたっていてそこも番組を大いに盛り上げてくれる。
受け答えがぱぱっと出てくるところ、別の同じような何かに置き換えるところの機転が素晴らしい。
妙に気を使うことなく、それは変だね、と素直に言える感性が、この場を盛り上げているのだろう。

・・・・・・・・・・・・
惜しい、と思ったのは、やっぱりこれ、映像で見たほうが圧倒的に面白いのだ。
角田光代が、ぼけっとしている感じ、のんびりとしている感じが伝わってくるし、村田沙耶香のおっとりとしていながら平然と怖いことを言う感じとかが文字では伝わりにくい(だからこれだけを読むと村田沙耶香は不思議ちゃんに見える)。

またこの番組再開してほしい。