評価 4.6

面白く読んだ。
私のスタンスとして、村上春樹の新刊が出れば初期から必ず読んでいて春樹ファンではあるけれど、作品によってすごく好きな作品と普通な作品とに分かれている、という感じだ。
だから根本的には読むのが大好きな作家だけれど、熱狂的かと聞かれるとそうなのだろうか?なんでもかんでもいいんだろうか?という自問自答も残る。

こうして面白おかしく書かれること、話し合っていくこと、ある意味おちょくっていくこと、に嫌悪を抱く人もいるだろう、特に生真面目な人に、熱狂的な村上ファンに。
またこういうくすぐりや突っ込みが面白くてたまらない、という人もいるだろう。
これまた私はこの本の中で、面白い部分もある、けれどここはどうなの?という部分もある、という印象も残った。

・・・・・
どういう観点で読んでいくのかなあというのがまずあった。
数々の思いがまたよぎる。

これって、まず騎士団長殺しを読んでいない人が読んだら、どうなのだろう?
あらすじにばしばし触れていって、そこから本を読みたくなるっていいことなのだろうか?
出版界にとってはいいことなのだろうけれども、確実に。
もしこの本を読まずに村上春樹作品にも一生触れなかったわ、だったらまだしも触れるきっかけになったからいいのだろうか?
あと、1Q84などにも言及しているのでそれも読んでなかったらどうなのだろう?

これを読んで読みたい!と思うことは素晴らしいことだとは思うものの、話に触れているので、ゼロの状態で話に向かうことは出来なくなるだろう。
きっとこのおちょくり方を頭の中に入れながら、突っ込みながら読んでいくことになるのだろうか?
人の本を読むスタイル、にもよるのだろうけれど。
少なくとも自分は読んでからこの本を手に取ってよかった、と思ったものだった。

・・・・
内容だけれど、理不尽ではない、と思った。
突っ込んでいるところはいちいちごもっとも!でもある。
ごもっとも、ではあるけれど、説明しすぎと言われてもそれがこの人の持ち味でそこがいいところなんだけれどなあ・・・と思う部分もある。
似たようなキャラクターモチーフが出てくることに対して、いろいろ言っている人がいるけれど(この本ではなくても)、それもまた大森望さんが明快な答えを出していて、ここは、膝を打つくらいに、ごもっとも!と思ったものだった(50ページ)

個人的に思ったのは、作品の内容とか表現がどうこう、矛盾点がどうこう、という前に、その作品が好きかどうかという単純な読み手の思いも、大きくこういう話し合いに関係してくるんだなあということだった。
たとえ表現が稚拙な作品であっても多少の矛盾があっても、好きな人が書いた好きな作品だったら無条件に受け入れてしまう、読書ってそういうところがある。
また好きじゃない作者でも、作品自体が今一つでも矛盾だらけでも、その時の自分の状況によって、ばしっと受容してしまうところがある、読書ってエモーショナルなものだから。
物語ってそもそも虚構なのだから、受け入れる姿勢ができるかどうかというのはひたすらその作品の質とかもそうだが、作品もしくは著者に対する愛情みたいなものもある。
そのあたりの自分の立ち位置が非常に難しいなあと思った次第だ。

騎士団長殺しの時系列表は私も読んでいる最中に軽く作ったけれど、ここできちんと作ってあるのでその部分は面白く読んだ。

・・・・
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年も触れられているが、ここは私も、(そうなの!)と思うところがとても多かった。
最初の謎(なぜ多崎がはじかれたか、仲良しグループに)が、解き明かされても、(なんで!!)という思いが強かったからだ。

というようにいろいろな思いを掻き立ててくれた一冊。
現役の作家だからこそ、そしてファンだからこそ(ゆるいファンとはいえ)こういう様々な思いが様々に錯綜するのだけれど、これが没何年という作家に対してだったら、きっと大爆笑に次ぐ大爆笑で終わったような気もする。
2017.05.08 象と耳鳴り


評価 5

再読。
いい意味の初期の恩田陸らしさが、ぎゅっと濃色されて入っている短編集だ。
こういう話、好きだなあ・・・と思った。
途中途中出てくる、いつものような薀蓄話ですら光を放っている。
この話、関根多佳雄という元判事が色々な年代でどの話にも登場してくる。
また息子の春(しゅん)も出てくるし、娘の夏も出てくる(二人の子供も法曹界に属している)
恩田陸作品を読んでいくと、この人たち関根一族が色々なところに顔を出している。
たとえば、デビュー作の六番目の小夜子には高校生の関根秋が出てくる。
つまり関根家は、春、夏、秋の三人兄妹であり、父が多佳雄で母が桃代という設定になっている。
多佳雄は、元判事でありながら、ミステリマニアであるので、この話がとても面白いのも魅力の一つになっていると思う。

何かのミステリをある事件で思い出す・・・ハリー・ケメルマンの9マイルでは遠すぎるを非常に巧みに背景に使った、待合室の光景、など、一つの会話の違和感から行われようとしている犯罪を見破る、というのが優れている。
新・D坂の殺人事件は、タイトルからすぐにわかるように乱歩小説からなのだが、新たな時代のD坂が道玄坂であり、そこでの落下事件が何が引き金になったのかというのがきちんと伏線で描かれている→キャンペーンガールでとても騒がしい状況であったというのが描かれていて、だからこそ、携帯を持っている人が一斉に移動して、一斉に移動したからこそ一斉に大量の電波が流れ、心臓に負担のある人に負荷がかかったという因果関係。

給水塔は、不気味な終わり方で締めくくられている、さて真相とは?と思わせられる。
これもまた乱歩のパノラマ島奇談をモチーフにして東京の不思議が語られているのだ。

そして、タイトルの象と耳鳴り。
なんて魅力的なタイトルなんだろう。
このタイトル、を思いついたところでもう価値があり、また老婦人の独り言に近い語り口の怖い話が前半を盛り上げ、後半でコーヒー店店主が真相を明かす。
しかし、ここに一つの疑問が読者にも主人公にも投げかけられるのだ、ではなぜ?なぜここにあれがある→なぜ象に恐怖を持つ夫人が来ることがわかっていながら象の置物が置いてあるのだろうか。
一つの話の裏側というのを考えされる一編だ。

往復書簡も面白く読んだ。
関根多佳雄と新聞社に入った姪との手紙のやり取りだけで、多佳雄が姪の危険を察知する。
文章の端々を読み込んでいくのが魅力的だ。
2017.05.06 運命の絵



評価 5

相変わらずこのシリーズ、とても面白い。
前の本でも書いたと思うけれど、一つの絵について語っているだけではなく、そこから他の本や歴史などに波及していくその語り口が思わず惹きつけられるのだ。
今回はテーマが運命。

この中でなんといっても印象的なのは、左目のないブローネルの自画像の話だった。
美男子で知られるブローネルがなぜか左目が溶けているような破損している目を描いた自画像。
その数年後に、喧嘩のとばっちりで本当に眼をなくしてしまう、しかも左目を。
これが運命でなく何であろう。
もしこれが、自分で傷つけてしまった(無意識にせよ意識的にせよ)だったら、まだ何か話が成り立つが、話を読んでいる限りは、ただのとばっちりだから余計に怖い。

ムンクの叫びは有名だが4枚あって、その中の2枚が別々の盗難にあうという運命をたどっているのは知らなかった。

ロミオとジュリエットの話から、教皇派と皇帝派の話に至り、そこから表紙のパオロとフランチェスカの話にたどり着く語りもお見事だ。しかもここにはダンテの神曲についての言及もとてもわかりやすく書かれている。

ホガースの連作の当世風結婚も読み解いていく感じが面白かった。
連作、なので最初の方から見ていくと徐々に状況が変わっていくさまが見て取れる。


評価 5

読む手が止まらなかった。
口の悪い(と思われる)幻想小説で有名なクリストファー・プリーストが絶賛していた、というのが解説で書いてあるけれど、私もこれで興味を持ったのだ、この小説に。
あのプリーストが!というところに。
そしてその期待は裏切られなかった。

ホテル、普段何気なく泊まっているホテル。
これは完璧なホテルの物語なのだが、ホテルの特質をよく衝いていると思う。
・ホテルの部屋というのは独立していて、扉の向こうでは各々がおのおのの生活をしている。
・扉一つだけで隔てられている空間が広がっている
・普通、自分の指定されたホテルの部屋と必要のある場所(ほぼレストランとロビーと日本だったら温泉場とか)の同じ場所への行き来しかない。
(自分の部屋と逆方向には行かない、そちらに知り合いの部屋などがない限りは)
・壁には装飾の絵が飾ってあることが多い(特に海外)。
・ロビーの無機質な感じがある
・ロビーのところにフロントがあるが、フロントの人もマニュアルがある。
・多くのホテルで、カードキーになっていてそのカードキーはたまに不良になる。
などなど・・・

カードキーの不良とかは、何度かホテルに泊まったことのある人だったら必ずや開かなくなる時があり、それをフロントに持って行って調整してもらうということを経験しているだろう。
これがこの物語の主人公、「ぼく」のあれ?と思うホテルウエイ・インホテルの体験の始まりなのだ。
なんせ、何度も不良になり、しかも歩いているうちにどうも自分が歩いているホテルの道が覚えがない場所というのに気づいていく。
防火扉は何だ?
この219号室(本人が泊まっていた部屋)はもう一つあるのか?
見覚えのない部屋の扉は何だ?
赤毛の女性が言った飾られている絵は特殊な絵なのだろうか。

ホテルウエイ・インはとても現代的でチェーンホテルであり、高級感を漂わせている。
そこに、ある仕事をしに何度も色々なウエイ・インに泊まっている「ぼく」ニールは、大規模見本市とホテルとの往復で3日間を過ごすことが多い。
それは自分がとても好きな仕事であり、向いている仕事と自負している。
時には決まっていない女性との情事を含みながら楽しく仕事は進んでいく・・・はずが・・・


赤毛の女性との出会いが、「ぼく」に不思議な体験を開かせてくれる。
と同時に、彼の仕事自体が危なっかしいものであり、フェイクの人間と出会って騙されれる失態など、が怖かったし、このあとどうしても会場につきたいのにいけない状況、というのはカフカの不条理小説を読んでいるようだった。
時折彼の過去の回想が入っていく、大好きだった父がセールスマンでありある種似た仕事をしていて、幼いころからホテルになじんていた話や、両親の不和に心傷めている少年の様子も如実に描写されている。
また、女性問題で、情事の相手が常に変わっていくので、名前を間違えて飲み物を頭から浴びせられるという失態もある。
ここのあたりは失態の連続だ。

が、この物語の真の面白さは、後半、ホテルの秘密が明らかになっていく場面だった。
そしてここは同時にとても怖い。
シャイニングが解説で挙げられていて、確かにそこも思うのだが、あの怖さとはまた違った怖さがあった。
後半のヒルバートとの対決が凄まじかった・・・・
階段、ロビーへの廊下、部屋番号の上下、エレベーター、特別な人しか行けないビジネスセンター、語り始め点滅するネオン、錯綜する情報・・・・眩暈がするような感覚だった。
ここで走り回って歩き回っている彼の姿は、コニー・ウィリスの航路の中の右往左往を彷彿とさせた。
また、コンベンションセンターになんとか行こうとしているのに行けない悪夢のような不条理は、読んでいてここまたはらはらしたのだが、カフカの迷宮世界に入り込んだようだった。

赤毛の女性ディーの不思議な感じも楽しめたのだった。
彼女が中庭で光を浴びながらいる姿は忘れ難い。
この作品、映像にしても面白い作品だろうなあと思った、巨大なホテルをCGとかで作ってそこで迷走する姿は見てみたいものだ。

(でも何より私が怖かったのは。
これを読んでいた時に、旅先のホテルであって、私の泊まっていた部屋の番号が219号室だったという事実だ。
カードキーは滞在中アウトにならなかったけれど!)

以下ネタバレ
・見本市に行ってたいした情報もないのに3日間を過ごすのは無駄。
なので、そこに代わりの人を派遣して、必要な情報を取ってくる仕事、それが「ぼく」の仕事だった。
それを主催者が見抜き、彼を排除しようとして通行証を停止する、このことによって、バスに乗れなくなり会場に行けなくなる主人公が、あらゆる手を使ってそこに行こうとする姿が情けなくも面白く読んだ箇所だった。


・ホテル自体が生きていて、全てのホテルが空間で繋がっていて、空間を自由にしている。
つまりあらゆるところに歩いて行ける、ウエイインホテルがある場所だったら、というところがとても面白かった。
歩いて歩いて走って走ってホテルを駆け抜けていく・・・

早く次を~~~~!!

誰が敵で誰が味方なのか、というのが全く読めないのです。
敵でも利用するところは利用できるのか、味方だと思っていたのに敵だったのか、それとも敵だと思わせているのか。
そのあたりも読めません。
非常に面白いです。
3になって加速しました、面白さが。

今まで信頼していた人がくるっと寝返る怖さ、みたいのもあります。
あとまだ根幹のところがわかりません。
一体全体脱出できるのでしょうか、小さな子供たちも含めて。

これ、アニメにしても面白そう。
もっと言えば、小説にしても面白そう。
映画にしても面白そう。
あ、映画というよりドラマかな、続き物で。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・







先月、途中まで読んだのを今月今出てる分をすべて読んだという・・・
後半になってようやくこのキャラ設定(荒々しさ)に慣れて
そして周りの子たちにも慣れて
面白くなってきました。
才能が満ち溢れている者に対する嫉妬が渦巻く中、
当の本人の響だけが、堂々としているのです、高校生離れした才能を持った文章を書きながらも。
賞を取っているので、これからの展開にさらに期待。

・・・

今月はまずこれ。
ありがち、なんです、ミステリとしては。
ありがち、というか、もしかしたら、ある線を越えたらバカミスになってしまうのではないか(バカミスを馬鹿にしているのではありません)と思うくらいの設定であります。
けれど!
佐藤正午の手にかかるとこれが鮮やかな巧みなミステリになるわけです。
語り口が非常に巧いし、ともかくも読ませるのです。
冒頭の東京駅の喫茶店の全く分からない会話から、最後の愛溢れる光刺すシーンまで、が読む手を止まらせませんでした。

佐藤正午万歳!

・・・・

一瞬の邂逅ということを思いました。
一瞬ではないけれど、長い人生から見れば、ほんの一瞬の邂逅。
それがとても印象に残る本でした。

目の見えない女の子と、孤児の男の子の一瞬の邂逅の物語。
ラジオとか小道具がとても良い効果を上げていて、しかもそれが伏線になっていることに後半気づきます。
鮮やかな物語。

・・・・・・・・・・・・・・

ふと気づきましたが、もうすぐ?
この続きが出るのは!!!

これまたファンタジー好きではない私にすらとても面白く、この奇妙な絵とともに楽しめました。
ボーイミーツガール(不思議な場所で不思議な人たちですが)の話であると同時に、『物』そのものの話でもありました。
物の声が聞こえるってどういう感じなのでしょう?
すごくいいところで終わっているので、次が次がともどかしくてたまりません。
4月の読書メーター読んだ本の数:12読んだページ数:3896ナイス数:385村上春樹 翻訳(ほとんど)全仕事村上春樹 翻訳(ほとんど)全仕事感想村上春樹が訳した本、全体像を見るとこんなになってるんだ!というのがまず驚きでした。私もサリンジャーのライ麦畑は、野崎訳が染み込んでいるので村上春樹が訳した時にどうだろう?と思いましたが、とても良かったのを覚えています(現代的になりました)。間に柴田元幸との対談が入っていてここも非常に読みどころでした。翻訳にまつわる話、彼との翻訳のスタイルが微妙に違って微妙に同じで、とそのあたりなるほどなあと読みました。しかしこうしてみると村上春樹自身も言及していますが安原顕の存在は大きいなあと改めて思いました。読了日:04月27日 著者:村上 春樹
双蛇密室 (講談社ノベルス)双蛇密室 (講談社ノベルス)感想ぶ・・・ぶっとび。ずうっとこのシリーズ(というか作者)読み続けていますが、誰にも勧められないし誰とも話も出来ません。それほどエロ。口に出すのがはばかれるほどエロ。援助交際をしている女子高生らいちとそこに通ってくる警部補藍川(もう~ここで既に大違反だし!)のミステリ。しかし、です。非常に伏線がよくできていてミステリとして読ませるのです。この本で蛇、詳しくなった気がしますが・・・藍川の蛇嫌いのトラウマの真相が何だったのか、にもぶっとび&大爆笑!「普通」の本格、いつか読みたいです、それもすごく面白いと思う。読了日:04月27日 著者:早坂 吝
旅人よ どの街で死ぬか。 男の美眺旅人よ どの街で死ぬか。 男の美眺感想大ファンなので旅にまつわる話を非常に興味深く読み終えました。単なる旅行記ではなく、世界のあらゆる場所で、旅をするとは何なのか、その場所で何を思ったのか、そこから喚起されるイメージは何なのか、自分の近しい者の死を思い、ギャンブルで身を持ち崩す寸前になる放蕩さから生まれてくるものは何か、などが読みどころでした。ジョイス、ナポレオン、ゴッホなどへの言及も堪能。また作者の別の本でも読んだので知ってはいたのですがゲルニカの話は改めて読むと非常に地方の一本の木の重さと合わせて考えさせられました。読了日:04月27日 著者:伊集院 静
スレーテッド 消された記憶 (祥伝社文庫)スレーテッド 消された記憶 (祥伝社文庫)感想最後の大森望さんの解説に、これと同じ類の話とか映画がたくさん出ていて、それを見ながら(私はこの手の小説、どれだけ好きなんだろう!)と思いました。この手の話とは、「過去の記憶を消され新しい人間として生まれ変わる」という話です。ここでは犯罪者が矯正されたらしい、それがスレーテッドされた人間ということしかわかっていません。でも時折蘇る過去の記憶、過去の癖があり、語り手の16歳の少女カイラは誰が敵なのか味方なのかこの状況で掴まなければならないのです。手首のリング設定、ローダーズも面白いし社会情勢も読ませます。読了日:04月26日 著者:テリ ・ テリー
終りなき夜に生れつく終りなき夜に生れつく感想夜の底は柔らかな幻を読んでいるので、この世界観にすぐ入ることができました。前作は入り込むのに特別な言葉がざくざくいきなり出てきて非常に苦労しましたから。この物語、将来的に残酷な人たちになっていく青年時代を描くスピンオフで、どのようにして彼らが形成されていったのか、というのを読む楽しみがありました。勇司部分が好感持てました。ただ、ちょっと全体には物足りないかなあ・・・タイトルのウィリアム・ブレイクの詩(クリスティにももちろん触れていますが)の話のところはとても良かったです。読了日:04月26日 著者:恩田 陸
すべての見えない光 (新潮クレスト・ブックス)すべての見えない光 (新潮クレスト・ブックス)感想非常に美しくいとおしい小説。大作ですが比較的短い文章が並んでいるので読みやすく何かの詩を読んでいるような心持にもなりました。一方でミステリの趣も確かにあり、最初の方で孤児の兄妹が必死に聞いているラジオから流れてくる話や宝石の行方など、後半開いていきます。フランスに住む盲目の少女とドイツに住むある種の天才の孤児の少年ヴェルナーのほんの少しの邂逅の部分に心打たれました。また特にヴェルナーのナチスドイツの訓練での心の逡巡、友達への溢れる思い、成長に読む手が止まりませんでした。ラジオ、本、ミニチュアセット、宝石。読了日:04月20日 著者:アンソニー ドーア
月の満ち欠け月の満ち欠け感想読む手が止まりませんでした、大好きですこの本。ミステリでもあり広義のSFでもあり、特に最後の美しく光溢れる章にぐっときました。愛の物語でもあります。冒頭、母子連れと一人の男性が東京駅のホテルの喫茶店で意味の分からない会話をしていますがこれがあとになって・・・。巧みなのです、語られ方が。ここはこうだったんだ!という、後から読み直す快感がありました。12章で自問自答していきついには崩れ落ちる別の真実にも私は驚きました。佐藤正午だから成り立つ本でもあるとも思いました。鳩撃以来、目の離せない作家さんです。読了日:04月16日 著者:佐藤 正午
コンビニ人間コンビニ人間感想とても面白かったです。この本を読んで、現代の若者の持っている時代の閉塞感、と感じる人もいるだろうし、人と自分が違っている違和感、に共感する人もいるだろうし、なんとか普通であろうともがいている人間に対する作品と思う人もいるでしょう。読み方がいろいろできる、ということにおいても、たくさんの人が読むのがわかるという作品でした。無機質なコンビニを舞台にしたというのも秀逸でした。後半の「私」と白羽さんとの関係性も非常に現代の常識を指摘していました。一種強烈な気持ち悪さも残るけれど(←誉め言葉です)
読了日:04月14日 著者:村田 沙耶香
処刑の丘処刑の丘感想まず、このミステリの重要なポイントになるこの時代のフィンランドの内戦状況を知りませんでした。最初のところに日本人向けに赤衛隊白衛隊(いきなりロシアドイツと言われても)の簡単な説明と、この町がどういう状況下にあったかという説明がほしいと強烈に思いました。上司に阻まれながらも正義を貫こうとするケッキ、でもヴェーラに強烈に惹かれてしまう人間らしい部分も持っているケッキ、そしてあらゆる人が来るサウナでマッサージ係として働くヒルダの逞しさなど、読むべきところもありました。ヒルダの夫の心の傷もまた痛々しかったです。読了日:04月14日 著者:ティモ・サンドベリ
魂でもいいから、そばにいて ─3・11後の霊体験を聞く─魂でもいいから、そばにいて ─3・11後の霊体験を聞く─感想泣けました、大切なご家族を亡くした方々の絶望の姿に。311の東北地方の津波で肉親を亡くした遺族の方たちに現れた「死者からのしるし」。科学で割り切れないことを扱っているのできっとその部分でフィクションノンフィクションの論議もあるのでしょうが、確実にこれが遺族の救いになっていると思いました。ただ死者からの現象だけではなく家族がどうかつてあったのか、これからどうあるのかというところまで踏み込んで丹念に描かれていてそこに胸打たれました。いつも傍にいるよという気持ちが救ってくれるのですね。そして私は信じます。読了日:04月07日 著者:奥野 修司
堆塵館 (アイアマンガー三部作1) (アイアマンガー三部作 1)堆塵館 (アイアマンガー三部作1) (アイアマンガー三部作 1)感想楽しい!!奇妙なモノクロの挿絵も魅力の一つだし、両表紙の裏にある上の階下の階の断面図もまた楽しくて!話は、ごみの館に暮らしているアイアマンガー一族のクロッドという男の子と外からやってきた元気のいい女の子ルーシーという女の子の、ボーイミーツガールの話でもありますが、『物』の物語でもあるのです。全てのアイアマンガーには生まれた時に物が与えられていてそれはいっしょにいることが必須であり、なぜかその物の声が聞こえるのが体の弱いクロッド。後半凄まじい勢いで話が展開していくところが次巻への期待を膨らませます。読了日:04月05日 著者:エドワード・ケアリー
痛みかたみ妬み - 小泉喜美子傑作短篇集 (中公文庫)痛みかたみ妬み - 小泉喜美子傑作短篇集 (中公文庫)感想昭和、をあらゆるところに意識させられますが、古さは感じずそこがまた味になっていました。どの最後も予想範囲内ではあるものの、語り口が巧みなので思わず引き込まれます。幻影譚と思えるかたみ、の皮肉なラストがとても良かったと思いました(これまたヴェトナム戦争とか時代を感じさせます、重要なキーになってるし)。兄は復讐するは、大切にしていた妹が都会の地である出来事に巻き込まれ・・・というのに兄が復讐する文字通りの物語ですが。これまた語りが巧妙で兄の妹への執着のようなところまで描かれているところに好感を持ちました。読了日:04月05日 著者:小泉 喜美子
読書メーター



評価 4.8

村上春樹の翻訳がこんなになったんだなあ・・・とまずそこに驚いた。
ぽつぽつぽつぽつ見ている気がしていたが、まとまるとこんなに膨大な数になるんだと改めて茫然とした。

この中で、チャンドラーとか、サリンジャーとか、人が訳したものを新たに訳すというのはとても勇気がいったことだと思う。
私も野崎孝世代なので、ライ麦畑でつかまえてをなぜ訳すかと思ったのだが・・・
実際に村上春樹訳を読んでみるとこれはこれでとてもいい!現代に会ってる!と思ったものだった。
この本を読んでチャンドラーも新しいのは読んでいないのだが、読んでみたいものだ、と強く感じた。

途中で柴田元幸さんとの対談が入っていて、そこで翻訳のあれこれが語られる。
ここがとても面白かったし、二人の違いと同じようなところが垣間見えたような気がした。
また、それぞれの訳した作品にたいしての村上春樹の思い入れのような文章もたくさんあってそこも読ませた。

それにしても、翻訳を楽しんでやれるというのは素晴らしいことだ。
あと・・・この本を読むと、安原顕さんの存在がとても村上春樹にとって大きかったことがわかる。
自由にほぼやらせてくれた感があるし、最初に翻訳をする時教えてくれた翻訳集団の人たちのセレクトなど、こういうことになっていたのか、と驚きだった。



評価 4.7

伊集院静の旅にまつわる話。
旅に出るとはそもそもどういうことなのか。
世界に出ていろいろなところを旅しているその旅行記ではなく、そこであったこと思索したことが淡々と語られている。
ある時には親しい者の死を思い出し、またある時には娼婦の佇まいからその街を知り、またある時にはギャンブルをすることで自分を持ち崩す寸前まで行く。
とはいえ、思わず居住まいを正されるような大人の言葉も多い。

人が旅をするということ。
それが孤をどうしても意識していくことに繋がるということ、だからこそ若い人に旅をすることを勧めるという意味が分かる。
また、ナポレオンの話、ゴッホの話、、ジョイスの話、と偉人や芸術家の話も折々に含まれていて、その考察もまた楽しめた。
私が一番読んで、おお!と思ったのはゲルニカの一本の木の話だった。
他の伊集院静の本でもこれに触れられていたので既に知ってはいたが、バスク地方の人たちの矜持とまたここを爆撃した意味というのがとても伝わってくるエピソードだった、ピカソのゲルニカの絵とともに。
2017.04.27 双蛇密室



評価 4.8

いやはやいやはや・・・
エロ炸裂、どう考えたって男性向け(男子向け?)だ。
もう最初の方からずうっとそれが出てきて、何しろ探偵さんその人が援助交際している女子高生『らいち』であり(この設定、シリーズ最初の方で読んだ時に、(もしや何かのフェイク?)と思ったがそれはないみたいで本当にこの商売をしているようだ)、この女子高生の元に通ってきちゃってるのが、警視庁捜査一課の現役の警部補の藍川という、もうどこから見ても違反中の違反だろう!と突っ込みたくなる設定だ。

なのだが・・・
このシリーズも含めて、早坂吝、読ませる。
何しろ強烈なエロもあるのだが、ちゃんと伏線が生きているしそれが落ちている。
途中途中の小さなことへの言及もちゃんとしているし、ミステリとしても面白い。
この本で蛇の生態の色々を知ったが・・・
そういうことではなく!

警部補、藍川の幼少時のトラウマで蛇が超苦手になった。
このトラウマになった過去の家の記憶の矛盾を、まず、らいちが変だと指摘する。
これによって藍川は実家に行くのだが・・・
というのを解き明かす過程で、二つの密室事件があったということを知る。
そこで思わぬ真相にぶち当たり・・・・


アナコンダが出てきたときには驚いたし、また、らいちが体を張って(文字通りに)情報を引き出そうとするその姿にただただ感服した。
また、藍川の夢の開き方・・・誰も考えつかないだろう、これって。
ここを笑えるかどうかで、こういう話、好きか嫌いかが分かれると思う。

・・・・・・・・・・・・・・
エロというかもうぎりぎりラインの作風が続くけれど。
これで名を成した(というのも変だけど)ので、作者に一度でいいから普通の本格物を書いてほしい。
エロなしで。
十分十分それでも面白いと思うのだけれど。
そしてそうしたら人に気軽に勧められるのだけれど。