2018.02.07 この世の春




評価 4.9

時代小説音痴とでもいう私が読めたので、時代小説としてのハードルは低いんだと思う。
どちらかというと、ミステリの世界が色濃い。そこにプラス重要な要素が加わっている・・・
よくこの世界観を時代小説に取り込もうと思ったものだ、とそこにも感心した。

とは言いながらも、最初の方で誰が誰の関係者なのか、この用語は何なのかとか(時代小説特有の用語)戸惑いもあった。
しかしそこは親切にも、フリガナが必ず章の最初の方には振ってあり(全ての小説こうして欲しい。名前の特殊な読み方とか忘れるし)、人々の人間模様は最初の扉の裏に人物相関図があるのでそこを参考にし、用語はすぐに解説がある。
最初、押込(おしこめ)????と思っていたのが、後半、うん、あのことね、とすぐにわかるようになる、なんといっても目の前の世界に押込の当主がいるのだから。
本当に巧いと思う、達者に書いているというのが読んでいて頭を何度もよぎったのだった。

江戸時代半ばの六代将軍徳川家宣の時代。
下野北見藩二万石に起きた政変からこの物語は始まる。
北見藩藩主の若き北見重興(しげおき)は、新参の伊東成孝に藩政を任せ切りにしていた。
「病重篤」を理由に代々の家老衆によって強制的に隠居させられる(いわゆる「押込(おしこめ)」)。
重興は藩主の別邸・五香苑の座敷牢に幽閉され、憎まれていた成孝は切腹した。


冒頭にこの成孝の幼児の息子が必死に助けようと連れて走ってきた女人とともに多紀の目の前に現れる。
まずここで各務多紀という若い女性が父親とともに登場する。
彼女はなぜここにいるのか、というのは徐々に紐解かれていき、よんどころのない事情で嫁ぎ先から戻ってきた出戻りだったということがすぐにわかってくる(けれど彼女がそれではなぜそこから戻ってきたかというのは後半までわからない)
多紀の疑問は、なぜ父が成孝失脚の時に頼りにされたのかということだった。
そもそも成孝という人物は本当に権力を笠に着て藩主を操っていたのだろうか。

・・・・・
このあと五香苑という当主が幽閉された館に勤めることになった多紀。
常に多紀を見守ってくれる従兄半十郎、医者、藩主を幼い時から見守る元家老石野織部らとともに、藩主重興を見守っているうちに、重大な重興の秘密に触れるのだった・・・

この禁忌の重興の心の襞に触れていく多紀の姿が徐々に歩み寄っていくという感じで好ましい。
気丈ではあるけれど、決して芯がぶれない女性多紀の姿は男以上に凛々しくてそして頼もしい。
一方でこの禁忌の心の動きは非常に現代的なテーマでもあるので、医者がなんでこんなに現代医学的なことを言えるのかなあ・・・優秀な医者なのかなあ・・・という違和感は確かにあった。


以下ネタバレです。


重興は多重人格になっていた。
ある時には強い男性になり、ある時には幼子の女性名の男子になっている。
その分裂ぶりが凄まじい。
目の前にこの豹変ぶりを見て、徐々に多紀はこの分裂が何で起こったのか、というのを重興の言葉をもとにして、解き明かそうとするのだ、そこにはもちろん医師の診断も入っているし、幼いころから見守ってきた石部の話も入ってくる。
重興の父を殺したのもほかならぬ重興であった(違う人格に支配され)

そこにプラス城下で幼い男の子が神隠しに何年にもわたってあっている、多紀の母方の実家が先をを見るみたまくり〉なる魂を操る技を持つ一族であることもわかってくる。
更には、死んだと思っていた成孝は洞窟のようなところで生きていたのを助け出し、彼の口から、母方の実家の出土村が全員死亡の出火があったいきさつを聞き、成孝がその真相を探るべく重興に近づいたことを知るのだ・・・(が、このあと成孝はすぐに行方不明になる)、成孝と多紀は血のつながりがあった。

(この話、幼児虐待の話だ、しかも性虐待。それによってダメージを受け、多重人格になる重興の姿が痛々しい。
プラス、操られていたとはいえ、父親から息子への性虐待だ。
ここが、多紀以上に私は読んでいて辛かった。
性虐待だけでも辛いのに、ここに肉親が加わるとは・・・
しかも殺された子供達が、この息子への性虐待をするための前座のようなもの、というのが更に更に辛かった。)


前半から中盤までは謎が多かったので、何?なんで?(特に死んだと思った成孝が生きていたのには驚いた)と思って読み進めていたのだが、後半はもう多重人格がほぼ決定で、しかも性虐待も決定というところで、これが操られていた父親であってもなんでも、読み進めるのがかなり苦しかった。

救いは、五香苑の使用人であるおごうやお鈴(この顔にやけどをした女の子の造形も非常に良かった)や寒吉、のすがすがしい姿と、多紀の必死に生きる姿だ。あと不器用に生きているように見える半十郎、そしてなんといっても重興のことをずうっと見守ってくれる石部織部の姿が忘れ難い)
1月の読書メーター
読んだ本の数:3
読んだページ数:745
ナイス数:145

偏愛読書トライアングル偏愛読書トライアングル感想
特に海外本で読んでいる本がかぶっているので、連載から読んでいました(というか今も連載中)。一冊になったので改めて読んでみましたが。感想が違うものもあるし、同じものもあるし。全体にもっと尖ったところがあっても良い気がしました、正直なところ。偏愛ではあるけれど、テーマごとに分かれているのでそこはテーマくくりということで。あと・・・すごくすごくお気持ちはわかるのですが、エッセイ集ではなく書評集なので、いきなりペットロスを語られてもと私はそこに戸惑いを覚えました。
読了日:01月18日 著者:瀧井 朝世
米澤穂信と古典部米澤穂信と古典部感想
楽しい!古典部15年もたつのかあ・・・と感慨深かったです。古典部のミニ短編も読めて大満足(まさかあの作品をこういう風に扱うとは!面白い)。作家さんとの対談もいくつか入っていて、特に恩田陸さんとの対談で、どの海外本にインスパイアされていたかという話が面白かったです。架空の折木奉太郎の本棚、千反田えるの本棚なども(この本、たしかにたしかに)とにんまりしていました。
読了日:01月18日 著者:米澤 穂信
図書館島 (海外文学セレクション)図書館島 (海外文学セレクション)感想
冒頭からしばらく流麗な文章と緻密な(過ぎる?)描写力に圧倒され読み始めました。タイトルから図書館や本が前面に出てくると勝手に思ったのでそこは違いました。思い切り惹きつけられるところがある一方で、あまりに新しい場所名、人物名、事柄が多くここを頭に入れるのにとても手間取りました。暴君とでもいえる父から離れて新しい世界に飛び込んでいく青年ジェヴィックが船である女性に会ったことから始まる世界、後半は二つの勢力がぶつかり合います。文字と声、二つのことを考えさせられました。(この訳者さんの訳そのものは大好きです)
読了日:01月18日 著者:ソフィア・サマター

読書メーター



評価 4.5

私の好みの海外の本と被る部分がとてもある本たち、というので連載当初からずうっと追っていた。
今回一冊の本になるというので読んでみた。
そしてやはり好みはかぶっている、取り上げられている本が読んでいる本が多いのだ。
ブエノスアイレス食堂、本泥棒、料理人・・・
日本の本は読んでいないのがあるので、そこは興味をひかれて読んでみたいと思ったものだった。

あるテーマに向けて書かれている。
ある時には、事件のその後、であり、ある時には辞書を編む人々、であり。
たまに、本当の偏愛本もあるけれど、そのテーマくくりというのが基本になっている。
読んでいて、感想が違う本もあるし、全く同じ本もあるしそれはそれで面白い。

ただ・・・
いかがなものだろう・・・ペットロスはおおいにわかるものの・・・
それの部分を収めるために他の部分を削ったのだろうか?(読み違いだったら申し訳ない、あとがきでそういう風に読み取れた)
あと・・・この悲しみは著者個人の悲しみであるので、そこを書評集に書くと言うのはいかがなものか。
これは書評集であってエッセイ集ではないのだから。

私は冷たいんだろうか。


評価 4.8

古典部ファンなので楽しく読んだ。
書き下ろしの短編を含めて(この小説をこういう取り上げ方をするとは!)

もう15年になるのか・・・と最初の著者インタビューを読んでいて感慨深かった。
著者と北村薫との日常の謎をめぐる対談も面白いし、また恩田陸との対談ではそれぞれの作品の元ネタ(海外のものが多い)でインスパイアされたものというのが興味深かった。そこにプラスして作家論(泡坂妻夫とか連城三紀彦とか)の話もまた読んでいて、ああ・・・この人たちはこういう傾向のものが好きなんだなあ・・・と改めて思ったりしたのだった。
後半に綾辻行人と大崎梢との対談もありそこもまた充実している。

主人公たちの本棚も作られていてここも見どころ満載。
折木奉太郎の本棚はいかにも彼らしいし(破獄がある!あと山田風太郎も!)、千反田えるの本棚にモモとか九年目の魔法があるのに、にんまりしたり、ここはもう見ていてただただ面白かった。
2018.01.09 図書館島



評価 4.7

評価をつけるのに逡巡した。
ある箇所は飛び抜けて良くて思い切り話に惹きつけられる、いかに私がファンタジーが苦手であっても。
流麗な文章と精密な描写で全てが目の前に立ち上がってくるような気持ちにさせられる。
ああ・・なんて美しい文章なんだろう・・・と何度もはっとさせられた。
(訳者の方のご苦労がしのばれる・・・)
幼い頃に読んだ物語、そのものを味わうという気持ちにさせられた。
一方で、
勝手なこちらの予断であるけれど、タイトルから想像される図書館が前面に出て、という箇所はあまり見当たらない。
(幽閉された島が巨大な王立図書館はあるのだが・・・)
書物が非常に重要な何かでごっそり書物の名前が出てくるかといえばそうでもない。
後半、一種活劇のようになってくるのも意外と言えば意外だ。
そして何よりも次から次へと新しい言葉、新しい用語、新しい場所の名前がぼんぼん絶え間なく出てくるので、最初読んだ時にこれを把握するのに手間がかかった。否、手間がかかるといういい方は失礼にあたるだろう、そここそがこの話の真骨頂なのだから。微に入り細に入りの描写が。
けれど、まだ前の何かの言葉が把握しきれていないうちに次の言葉がどんどん出てくるというのは読み手にとっては嬉しいような、難儀なような、そういう複雑な気持ちなのだ。

冒頭の地図も折あるごとに見ていたのだが、私の見方が悪いのか、どこがどうなのかよくわからない。
何しろ国の名前も海の名前もすべて架空なので、恐ろしくテキスト(物語)と突合せに手間がかかるのだ(また手間がかかる・・・)


紅茶諸島の中の小さな辺境の島ティニマヴェト島。
そこで胡椒によって財を成した一族がいた。
長は独裁的な趣のある男だったが、二人の息子のうちの見込みのある次男に全てを託そうとする。
そして彼は異国から来た師によって、別の国の言語を教わり、外の世界に目を向ける。
父親の死後、胡椒の買い付けはあるのだがそれよりも何よりも外の世界が見たくて、船で憧れの帝都オロンドリアに旅立っていく・・・従者とともに。


とはいえ、前半は非常に読みやすい(たとえ次々と知らない言葉ができたとしても)。
一種横暴の極みにいる父親が亡くなって、ようやく外の世界に胡椒の買い付けという名目で出ていくことができるジェヴィックという青年が主人公だ。
彼の生い立ちも詳しく書いてあってここは、どろどろとした王様の一族の家族模様を描くように描かれている、また一種王様のようなのだ、父親は。
発達の遅れている兄にがっかりする父親に見込まれた唯一まともと思われた次男は、父の計らいによって異国の師にあらゆることを教わる、皮肉なことに父親が必要のないことまでこの師から賢い息子は学ぶのだった。
このあたりは、風景描写と合わせてとても面白い。
そして船で旅立つのだが、この船の中で決定的な出会いをする・・・一人の難病に取りつかれていた少女ジサヴェトと出会うのだ。
これが運命の大きな転機となる・・・・

中盤から、ジサヴェトの幽霊に翻弄される主人公がいる。そして一人になってしまったジサヴェトも(ああ・・・なんで帰ってしまったんだ、従者は・・・・)
彼の行動を狂気とみられ、彼は異国の地で幽閉されてしまうのだった・・・
ジサヴェトの幽霊がいるとして(本人の精神疾患ではないとして・・・まあファンタジーだから幽霊なんだろう・・・)そうするとジサヴェトの幽霊とは何か?
ここからまた話が展開していく。
幽霊を見るという事自体禁忌と思っている一団がいるのだ。


オロンドリア帝国は実は二つに分裂していた。
書かれた言葉、つまり『文字』を信奉しそれこそが真実と主張する石の教団と、
口伝えによる教育、つまり『声』を大切にして文字に重きを置かない女神信仰の人たち、
との対立構造だ。
この中に投げ込まれたのが主人公の青年だ。
彼はまさしく死者の幻影を見て、幻聴を聞いている。


死者の声を聞くことを罪としている石の教団。
死者の魂を天使と呼び、文字ではなく〈声〉を信仰し、ジサヴェトは天使との交霊者であり、彼自身を聖人として認める女神信仰の人たち。
ここに巻き込まれていくのだ、否応もなく。
そして死者になった少女ジサヴェトが切望して最初からずっと青年が拒絶していることは、『自分についての本を書いて』ということなのだ・・・・

翻弄される主人公の姿が心に焼き付く。
2017年の読書メーター
読んだ本の数:142
読んだページ数:45828
ナイス数:3667



TOKYO海月通信
TOKYO海月通信感想
今回出るのがちょっと早かった?(というような気が)ぎりぎりで買いますが、今回は余裕で買って読めました。これを読まないと一年が終わった気がしないので。一年の中で、小池人気から凋落まであっという間というのがよくわかったなあ。映画の趣味はいつも全く違うと思っていたのですが今年は比較的シンクロしていて・(ベイビードライバーとかとか・・・)嬉しかったです。ラ・ラ・ランドの試写会のスマホ注意の話も天晴れと思いました、注意した女性に。中野さんのイラストページも大好きでそこはかとなく似てるのが笑えます、毎月の俳句も一興。
読了日:12月30日 著者:中野 翠
ソラリス (ハヤカワ文庫SF)ソラリス (ハヤカワ文庫SF)感想
以前の訳で読んでいたのですがどこまでわかっていたのか・・・そして今回も全部把握しているか?と聞かれたらそうではないとは思うのです。でもです、把握しきれていなくても非常に感動しました。最後まで謎は私の中でたくさん残っています、ソラリスの海が見せたものは人間の中のあるものなのですが、それは友好だったのか反発だったのか、無作為なのか。そもそもコンタクトの概念があるのか。また、ケルヴィンの恋愛話も勿論読ませますが、今回改めて読むとソラリスの海の造形が鮮烈でこちらに迫ってくるようで心に残りました。ラスト一行も秀逸。
読了日:12月30日 著者:スタニスワフ・レム
蝶のいた庭 (創元推理文庫)蝶のいた庭 (創元推理文庫)感想
堪能しました。ぎゃあ!読みたくない、でも先が気になる、止められない一冊でした。若い女性の事情聴取から始まり、最初の内はこの女性が一体誰なのか名前も年齢もわからず、ばかりか、被害者なのか加害者なのかも不明です。女性の語りがはぐらかしが多くそこが面白いです。滝も川もある『ガーデン』という場所で『庭師』が何を行っていたかが徐々に紐解かれていくところがおぞましくまた幻想的でした。内容的にジョン・ファウルズのコレクターをどうしても思いますが、この作品の方の庭師の方が愛などは全く求めないので、より怖いと思いました。
読了日:12月30日 著者:ドット・ハチソン
きっとあの人は眠っているんだよ: 穂村弘の読書日記きっとあの人は眠っているんだよ: 穂村弘の読書日記感想
穂村弘の読書日記って、特別な感じがします。彼の独特の視点、独特の言い回しによって(しかもわかりやすい)、自分が読了した本については(こういう見方があったのか!自分も考えていた?もしかして?)と思わせてくれる一文があるし、また知らない本では(ああ・・・読んでみたい!)と思わせる一文が必ずありました。知らない本、読んでいない有名な本をさくっと普通に読んだよ今、と語っているところにも好感を持ったし、古本屋さんで高い本に買うか買わざるか逡巡する姿にも微笑みました。ほむほむ万歳!
読了日:12月28日 著者:穂村弘
狩人の悪夢狩人の悪夢感想
このシリーズの中では好きな方でした。ホラー作家とミステリ作家の対談から始まるのですが、二人とも作家なので、そのスタンスの違い、売れている売れていないの違い、作家としての矜持、とそのあたりも非常に面白く読みました。また有栖川有栖と火村との会話もいつも通りに楽しんでいましたが、火村の夢は・・・一体?このミステリ、夢と弓矢が重要なアイテムとなってきます。犯人がなぜこういう行動をとったのか、というのを追い詰めていく姿は読ませました。
読了日:12月28日 著者:有栖川 有栖
東の果て、夜へ (ハヤカワ・ミステリ文庫)東の果て、夜へ (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
15歳の黒人少年イーストが、組織のボス(叔父)の指令を受け、三人の少年たちと一緒に長い長い旅に出るのです、それもある重要な証人を殺す旅に。ミステリであるけれどロードノヴェルでもありました。足がつくので、車の移動手段なのですが、ここで4人が軋轢を生み、葛藤し、それぞれの個性の主張をしてぶつかりあう青春物でもあります。特にイーストの弟の一種壊れたタイが暴力的であり、手がつけられない人間なのです。最後の驚きとともに一気に読みはしたのですが・・・ともかくもこの小説に必要なのは地図、だと思いました。
読了日:12月28日 著者:ビル ビバリー
粘土の犬 - 仁木悦子傑作短篇集 (中公文庫)粘土の犬 - 仁木悦子傑作短篇集 (中公文庫)感想
仁木兄妹物はぼちぼち既読なのですが、一冊に仁木悦子がまとまるということが嬉しいです。短編集ですが、「おたね」に衝撃を受けました、犯人が誰ということはすぐにわかりますがそれよりも犯人が取った行動にある種の『選択』がある、その描き方が巧いなあと思いました。「罪なきもの~」はシリーズ化してほしかった、特に転がり込んでくる男のキャラが最高でした。「弾丸~」もあれ?という謎から引っ張ってくる楽しさがあります、映像と実際が連動するなんて!と。表題作は目の見えない子を軸に据えた殺人事件の謎解きが光ります。
読了日:12月28日 著者:仁木 悦子
怖い絵のひみつ。 「怖い絵」スペシャルブック怖い絵のひみつ。 「怖い絵」スペシャルブック感想
大盛況(混みすぎ!)の展覧会の前に熟読した本でした。今までの怖い絵シリーズも楽しめましたが、ピンポイントで展覧会出品の絵を語ってくれているので読み込みました。そのあと実際の展覧会へGO!(夜だったので待ち時間がほぼなかったのが嬉しかった、でも中は大混雑)このスペシャルブックは、最後に宮部みゆきとの対談(宮部みゆきもこのシリーズの大ファンだそうです)も良かったです。中野さんの絵の見方というのは、背景を読み解いてくれるので大好きです、ぼんやりと眺めるのも一興、全てを知って見るのもまた一興。
読了日:12月28日 著者:中野 京子

13・6713・67感想
香港ミステリというので非常に敷居が高かったのですが。最初の話から意外性の連続で驚きまくりました。最初の話にこのミステリの良さが集約されているかも。現在から過去に至る遡りの方式で描かれているので、主人公達の現在の姿を知りながら過去を徐々に知っていくという面白さがあり、(ここが分水嶺だったんだなあ・・・)とか(ここでもし別の道を歩んでいたら・・・)とか(推理部分も面白いのですが)人間的なところで多々思うことがありました。同時に香港の歴史も遡っているのでそこも非常に読みごたえがありました。そしてラストが!!
読了日:12月23日 著者:陳 浩基

エル ELLE (ハヤカワ文庫NV)エル ELLE (ハヤカワ文庫NV)感想
映画は見損ねたのですが。驚きました、この話、レイプから始まるという話というのは知っていたので、勝手に『そこから立ち直っていく女性の話』だと思っていました。ところが、このレイプされた女性の過去がすさまじく、レイプそのものも異常な状態なのに、あまりに過去が異常でそれが薄れるような、ぞっとする人生だったのです。更に!後半女性が取った行動が思いもよらない行動で、更にその行動をとったことによって、思いもよらない展開が待ち受けている。すさまじい話です。全員が狂気の中、唯一女性の元夫のみが普通の人、に見えました。
読了日:12月23日 著者:フィリップ ジャン,Philippe Djian
雪と毒杯 (創元推理文庫)雪と毒杯 (創元推理文庫)感想
仰々しくないけれど良いミステリを読んだなあというのが印象。雪山に閉じ込められてしまう人達、しかも遺産相続が目の前にある状況の人達なのです。クローズドサークルものでもあるのですが、大雪の中、この村の中だけは行き来できるクローズド具合というのもまたオツです。最後まで読むと最初の死にゆく人の場面をもう一度読み直したくなるし、言葉の伏線もきちんとしています。犯人はこの人だというのが何度も飛びかいますが、真犯人の動機がとてもわかったのと、事件が全て終わってからの真実の開き具合が好きでした。にしても、『彼』可哀想!
読了日:12月23日 著者:エリス・ピーターズ
ダーク・マター (ハヤカワ文庫 NV ク 22-4)ダーク・マター (ハヤカワ文庫 NV ク 22-4)感想
妻と一人息子との幸せなな家庭生活を送っているが学問的にはもうちょい上に行きたかったかも、の物理学の教授が、ある夜突然殴られ目覚めると誰も自分を認識してくれない世界が・・・。もうこのあたりで、どういう展開か、というのは読める気がしたし、その方向に確かに行くのですが。一種のバカSFっぽいところもあります。途中で大いに笑いましたし。が!!!話はここからで後半、私には思いもよらない動きがありました。SF展開でもあるので、好みは分かれるかも。私は最後の顛末のところでとてもとても感動しましたが!
読了日:12月23日 著者:ブレイク・クラウチ
花嫁のさけび (河出文庫)花嫁のさけび (河出文庫)感想
初々しい花嫁と人気映画俳優のロマンスから幕を開け豪華なお屋敷での暮らしが始まる。恩田陸のネタバレ解説にもあるように、某小説(または映画)を見ているかどうかでこのミステリの読み方が違ってくると思います。ある種のバイアスがかかるから、です。そこが非常に巧みなところ。読み終わった後、(あ、真相が私にはわかっていた!)と一瞬思うのですが、それはわかっていたのではなく、違和感を色々なところで感じていただけであって、語りに翻弄されわかっていた気になっていただけでした。時代的にやや古いところもありますが、読ませます。
読了日:11月12日 著者:泡坂 妻夫
屍人荘の殺人屍人荘の殺人感想
読み終わりました・・・
読了日:11月12日 著者:今村 昌弘
ナチの子どもたち:第三帝国指導者の父のもとに生まれてナチの子どもたち:第三帝国指導者の父のもとに生まれて感想
副題からわかるように、名前を言えばあの人!と思うナチの重鎮の子どもたちの物語。いわばその後、なのです。私の勝手な思いで、(きっと自分がナチの娘息子だったことはひた隠しに隠し、名前すらも変えて生きているのだろう、ひっそりと)とぼんやり思っていました。が、実際は、名前を買えずに生きている人の多いこと!その名前のためにたとえ迫害されても拒絶されても生きていく子供たち・・・裕福な暮らしから一転犯罪者の子供たちになる時にその受け止め方が人それぞれ大きく異なるのだなあと思いました。衝撃だった本。
読了日:11月12日 著者:タニア クラスニアンスキ
月明かりの男 (創元推理文庫)月明かりの男 (創元推理文庫)感想
相変わらず掴み抜群であり、大学内に入った警視正が殺人計画の紙を拾うあたりから、奇妙な実験をしているマッドサイエンティストまで、読ませてくれます。ただどうしても古き良き時代のテイストであり、使われる器具なども昔~という感じがするし、月明かりの中で見た全く違った犯人像の真相というのも、頷くというよりほお、ぐらいで。のんびり楽しむミステリだと思いました。それよりなにより(謎ではないのですが)日本の出版が刊行順ではないので、あの人が!んまあ!こういう!という同作者別作品を読んでいたら絶対に驚くことがありました。
読了日:11月12日 著者:ヘレン・マクロイ
金木犀と彼女の時間 (ミステリ・フロンティア)金木犀と彼女の時間 (ミステリ・フロンティア)感想
タイムリープ物。女子高生の菜月がタイムリープできる(でも5回限りで最後の5回目で決定)体質であるという設定で、クラスの中のある人間が死ぬのを何度もタイムリープで阻止しようとするお話でした。誰が犯人なのかというのも興味ありましたが、それとは別に学園生活のあれこれ、友達との摩擦などのエピソードの方が生き生きしていてそこは面白く読みました。ただ・・・タイムリープが自分の意志ではなくいつ起こるかわからないところ、ラストに至る箇所の展開、タイムリープした後の他の時間軸はどこにいったのか、とか色々疑問は残りましたが。
読了日:10月26日 著者:彩坂 美月
日の名残り (ハヤカワepi文庫)日の名残り (ハヤカワepi文庫)感想
ノーベル賞おめでとうで再読。特にラストの海岸場面、忘れ難くその場にいるかのような気持ちになりました。ドラマダウントン・アビーを見た後だと、この感じが更に良くわかるようになった気がします。古き良き時代のイギリスのお屋敷で執事として采配を振るっていたスティーブンスの身の程をわきまえた、今の目で見るとへりくだりすぎている姿が印象的です。でもこれが彼にとっては喜びであり、ダーリントン卿という尊敬できる主人に仕えるというのが彼の矜持であったのだと思いました。そして気づかなかった愛の行方。静謐で素晴らしい話です。
読了日:10月26日 著者:カズオ イシグロ
小川洋子の陶酔短篇箱 (河出文庫)小川洋子の陶酔短篇箱 (河出文庫)感想
楽しいっ。小川洋子がセレクトした短篇がずらっと並んでいるだけでも豪華なのに、それぞれの作品に対しての小川洋子のエッセイとも短篇ともつかぬ一文がプラスされているところまでずずーいと楽しめました。他の本で既読の作品でもこうして新しく読んでみるとまた違った切り口で読むことができました。私は、中井英夫の牧神の春を動物園で必ず思い出すし、梶井基次郎の愛撫の猫話も日和聡子の行方も忘れられないのですが。今回小池真理子の流山寺がめちゃくちゃ怖かったです!木山捷平の逢引きのそこはかとないエロス、葛西善蔵の遊動円木もお見事。
読了日:10月26日 著者:小川 洋子
デンジャラスデンジャラス感想
大変面白く読みました。細雪の雪子のモデルになった谷崎の妻松子の妹の重子の視点から語られていきます。ぼんやりと知識としてあった細君譲渡事件、姉妹への拘泥、老人になってからの嫁への偏愛ぶり、膨大な書簡などが重子の語りで鮮やかに描き出されこちらに伝わってきました。谷崎王国とでもいえる彼の『輪』の中に文字通り取り込まれた人の多いこと多いこと!虚実入り混じった小説が、皮の中に違う中身があることもある、と言い放つ谷崎とか、重子の嫁千萬子への反感とか、最後の最後での谷崎からの言葉の驚きとか。谷崎作品を再読したくなり。
読了日:10月05日 著者:桐野 夏生
Y駅発深夜バス (ミステリ・フロンティア)Y駅発深夜バス (ミステリ・フロンティア)感想
短編が5編入っていました。この中でやはり表題作のY駅~は起承転結が素晴らしく、また謎の提示の仕方が冒頭から何とも魅力的でした。特にパーキングエリアの休憩所の灯が消えて、そこにいる人達全員が同じ方向をじいっと見つめていた謎、というのは内情がわかるとああ!と膝を打つ面白さでした。九人病は鄙びた温泉で偶然同じ部屋になった人からの語り、という土着のホラーのような話でこれまた気味が悪く皮膚感覚で嫌さがわかり、好感が持てました。猫矢来、主人公がいい感じで学校内部の話も読ませるので、シリーズで読んでみたいかも。
読了日:09月10日 著者:青木 知己
湖畔荘〈下〉湖畔荘〈下〉感想
二転三転する真相、しかもミステリ部分だけではなく深い人物造形に魅了されました。『同じ出来事を見ても違う人、違う見方、だと全く違った真実がそこにある』という何度も出てくるテーマにも驚愕させられました。偶然と必然についても考えさせられます。また母と子供の絆ということについても思いを馳せています、セイディの現在の事件もセイディの私生活も含めて。ラスト、私はこのラストで非常に満足しました。全てはこの輝くようなお祭りの日に始まったのだなあ・・・と2章を読むとますます感慨深いです。(一点、登場人物表は欲しかったかも)
読了日:09月07日 著者:ケイト・モートン
湖畔荘〈上〉湖畔荘〈上〉感想
傑作。70年前の湖畔荘で起こった迷宮入りの赤ちゃん失踪事件が語られていきます。謎が謎を呼び、時制も現在と過去を行ったり来たりしながら、多視点で語られていきます。同じような母子の話が、謎を追うセイディ女性刑事の私生活と彼女が扱ってる事件と70年前の事件で重層的に語られて行きました。何しろ読ませる、ページをめくる手が止まりません。そして上巻のラストで、ええっという驚きの声が。アリスも驚きましたが、私も驚きました。最後まで読んで1章を読むとなるほど、と思い、2章はこの話の総てを物語っていることに気づきます。
読了日:09月07日 著者:ケイト・モートン
わたしの本当の子どもたち (創元SF文庫)わたしの本当の子どもたち (創元SF文庫)感想
大好きです。ジョー・ウォルトンにはずれなし、と改めて思いました。読み応えがあり、冒頭から惹きつけられ、混沌としている目次を見て(なんだろう?)と思い、そして大団円へ。ラスト数ページの畳みかけるような言葉の数々がまた素晴らしく胸に刺さりまだ考え続けています。いわゆる歴史改変(その側面もありますが)SFではなく、いわゆるタイムスリップSFでもなく、一見普通小説のようなのですが、実に味わい深い一冊だと思いました。文学好きへの喜ぶ話も沢山入っています。主人公のパトリシアの人生に思いを馳せながら読み耽りました。
読了日:09月04日 著者:ジョー・ウォルトン
花のようなひと (岩波現代文庫)花のようなひと (岩波現代文庫)感想
色付きの挿絵と佐藤正午の文章を楽しみました。短編が続いた後、最後に中編が。どちらも短いのであっという間に読めますが、滋味深いです。日常のさりげないことから花を絡めての短編は、何かの予兆に満ち満ちているのです。ちょっとした人の心の揺らめきが光ります。どれも長編の書き出しになりそうで、(このあとこの二人はどうなるのだろう?)とか(このあとこの人はどういう行動をするだろう?)と思いを巡らしました。語り口も、手紙、メール、普通の文章、独白、と多様でした。中編の幼なじみは秘密めいていて美しく切なくて心に残りました。
読了日:08月27日 著者:佐藤 正午
晩夏の墜落 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)晩夏の墜落 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)感想
好きな本でした。プライベートジェットに複数の人がいて墜落、そしてその一人のみが助かって子供を海の中で救うヒーローとなる、という話なのですが。ジェットに乗っていた富豪たちが一癖二癖ある人たちなので、陰謀説、テロ説、と噂が飛び交い・・・。この本、『なぜそれが起こったか、誰か事故を起こした人がいたのか』だけに焦点を当てると真相はそれほどでもと私は思います。ただ、その過程でジェットに乗り込んでいく人たちの人生がどうだったのか、のところが読ませます。ばらばらの人生が一点に集約していく面白さ、があると思いました。
読了日:08月27日 著者:ノア・ホーリー
大雪 (大型絵本 (2))大雪 (大型絵本 (2))感想
多分、ですが、同作者のウルスリのすずをおおいに気に入った私に、両親が買ってくれた本だったと思います、これまた小さい頃の愛読本。今度のウルスリ君はお兄さんで、妹愛に満ちていて、妹を助けるのですが。大雪の場面とカラフルなそり行進場面との対比が素晴らしくて。素朴な感じの絵なんですが、今でもひきつけられます。
読了日:08月27日 著者:ゼリーナ・ヘンツ
ウルスリのすず (大型絵本 (15))ウルスリのすず (大型絵本 (15))感想
小さい頃の愛読本。懐かしくて懐かしくて!すず、が日本のすずと違う形でどういう音色がするんだろうなあ・・・と想像したのも遠い思い出。パレードの先頭を歩くためにちょっとでも大きなすずを持ちたいウルスリ君の気持ち、そして今となると一晩いなかった息子を案じる両親の姿、にも心打たれます。パレードの晴れやかな顔と言ったら!!
読了日:08月27日 著者:ゼリーナ・ヘンツ
ミツハの一族 (創元推理文庫)ミツハの一族 (創元推理文庫)感想
一章の終わりでええっと驚き、そのあと、(もしかしてこれってあれ?あれ?あれ?)とずうっと心で呟きながら読んでいました。(あれは、解説でも伏字で触れられているので、そうでしたやっぱり)。大正時代の北海道、未練がこのようにあると鬼になって生活圏の水を濁してしまう人の、未練が何かを探るという話。探る人が水守と鳥目役。両方ともいわゆる目の障害があるのですが、この描写が美しく思わず読みふけりました。ラストの章、いやあ・・・驚きよりも、あたたた・・・
読了日:07月10日 著者:乾 ルカ
プリズン・ガール (ハーパーBOOKS)プリズン・ガール (ハーパーBOOKS)感想
『実の父親に監禁され半死半生の目にあっている少女がそこから脱出する話』と勝手に私は思っていましたが、全く違います。まず監禁の話、ではなく、どちらかというとロードムービー的な話。一緒に彼女と旅する羽目になるデッカーが魅力的、普通過ぎて魅力的という稀有な存在の青年でした。ベティは彼のおかげで成長できたんじゃないかな。腑に落ちないところは数か所あるのですが、さくさくっと読めました。
読了日:07月10日 著者:LS ホーカー
ささやかな頼み (ハヤカワ・ミステリ文庫)ささやかな頼み (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
多分、だけど、作者はハイスミス大ファンらしく(何度もハイスミス作品の話が本文でも出てくるし、解説にもあった)、そういう心理サスペンスを目指していたのでしょうが・・・うむ。ママ友の話、と思っていたらそうではなく(そうなんだけどそうではない)、どちらかというと、本当のその人の姿とは、みたいな話。シングルマザーのステファニーの隠れた過去の開き方、大親友になったとステファニーが思ったママ友エミリーへの憧れ、とかこのあたり非常にわかります。二転三転があと一歩かなあ。最後の一ひねりがもうちょっとあったらよかったかも。
読了日:07月10日 著者:ダーシー・ベル
映画にまつわるXについて2映画にまつわるXについて2感想
大好きな監督さんのエッセイ集。映画永い言い訳を見ていると、ますます楽しめると思います。もっくん・・・思ってたのと違う人というミーハーな気持ちも出てきて全体に堪能しました。子役の男の子の大ファンだったので裏でこのようなことが・・・。映画って一人だけじゃないというのはわかっていたけど、こんなに多くの人の手を通しているのだなあ・・・。どこまでを妥協点にするか、っていう判断をするのも監督なので大変だなあと思いました。
読了日:07月10日 著者:西川 美和
ご本、出しときますね?ご本、出しときますね?感想
テレビ番組を楽しみに見ていたので、本になるのを心待ちにしていました。全体に楽しく読みましたが、やっぱり特に面白いのは本になっても同じで、加藤知恵と村田沙耶香のところと、西加奈子と角田光代の部分でした。角田光代が何でも引き受けてしまうというのは放映でも笑いましたが、本でも笑いました。作家の人となりは作品に出ている場合もあるし出ていない場合もあるけれど、若林の自然体と人となりが彼らの隠された面を外側に出してきて読ませます。ただ・・・やっぱり映像で面白かった微妙な表情とか話し方とかの部分は消えてるかなあ・・・
読了日:06月13日 著者: 
素敵な日本人 東野圭吾短編集素敵な日本人 東野圭吾短編集感想
趣向の違った9編の短編ミステリ。
読了日:06月12日 著者:東野 圭吾
女心についての十篇 - 耳瓔珞 (中公文庫)女心についての十篇 - 耳瓔珞 (中公文庫)感想
表紙の絵、そして挿絵、好みはあると思います、小説から喚起される映像って人それぞれだから。けれど、ここに取り上げられている短編群、チョイスが良いので(そしてマイナーなのが多い)、画が好みであろうとなかろうと、これを機会に手に取るというのは非常に重要なことでした、私にとって。岡本かの子はやっぱりすごいなあ・・・とか、円地文子のおはるさんはいかにも彼女らしいなあ!とか。有吉佐和子の地唄が非常に心に残りました、これまた有吉佐和子らしい芸事の話。芥川龍之介のこれって、今の時代でもあるあるネタ、すっごいわかりました!
読了日:06月12日 著者:安野モヨコ 編
少年時代 (ハルキ文庫)少年時代 (ハルキ文庫)感想
ほこっとした昭和の話、で終わると思いきや、そこはこの作者、最後でああっというものは持ってきてくれます。最初のチンドン屋さんについていった男の子の事件目撃者になった顛末、2番目の笑いが充満している東北のある子どもの物語(ご両親の方言に笑った笑った)、3番目の学生時代のしごきのある柔道部の話、とそれぞれも読ませました。
読了日:06月12日 著者:深水 黎一郎
村上春樹「騎士団長殺し」メッタ斬り!村上春樹「騎士団長殺し」メッタ斬り!感想
騎士団長殺しだけではなく、多崎つくる~とか1Q84とか、他の本への言及もありました。騎士団長殺しの時系列は軽く私も作ったのですが、細かくここで作られているのでそこは面白く見ました。そうなのかなあ?という感想(説明しすぎと言われてもそこが読みたいところと思う読者が多いのでは?)と、そうなのよ!!(多埼つくるがなぜはぶかれたかという謎への答え)という感想が私の中で入り乱れた本。似たようなモチーフ、似たような主人公が出てくることに対して、50ページで大森望さんが言っていることは非常に正論だと思いましたが。
読了日:05月11日 著者:大森望,豊崎由美
愚者の毒 (祥伝社文庫)愚者の毒 (祥伝社文庫)感想
最後のある一点(私はこれはわからなかった)を除けば、すれた読者ならこの構造は見抜けると思います。でもわかっていてもなお読ませるし、吸引する力があるミステリだと思いました。幸せそうな老後を送っている老人ホームの女性の述懐と、職安で偶然出会った二人の不幸な女性の友情と恋との物語が鮮やかに描かれていました。この中でタイトルにもなる愚者の毒を言葉にする元中学校教師難波先生の気高さと言ったら!この人の存在がある意味かなり暗いこの話の一条の光となります。2章は一転して過去の話。ここから全てが始まるのです・・・
読了日:05月11日 著者:宇佐美 まこと
象と耳鳴り―推理小説 (祥伝社文庫)象と耳鳴り―推理小説 (祥伝社文庫)感想
とてもとても久しぶりに再読。やっぱりいいなあと思いました。恩田陸不思議ワールドがぎゅっと入っている連作集です。元判事の関根多佳雄が出てきて、この人が古典ミステリ好きという設定なので、過去のミステリ作品もよく引き合いに出されています、いわく乱歩のD坂~とか、いわくケメルマンの9マイルでは遠すぎるとか。その使い方も絶妙で、ここにこういう具合に物語として入れ込むのかというのが改めて目を見張りました。関根一族も出てきて息子の春、娘の夏とそこも楽しく、更に他作品に出てくる関根一族を思うと、とても感慨深いです。
読了日:05月11日 著者:恩田 陸
時間のないホテル (創元海外SF叢書)時間のないホテル (創元海外SF叢書)感想
とても面白く読みました。ある特殊な仕事をするためにホテルに泊まるビジネスマンのホテルでの話なのですが、読んでいて冒頭の謎の赤毛の女から引き込まれくらくらしました。ハイ・ライズより好みでした。シャイニングは必ず思いますが、怖さの質が違うような気がしました。謎の壁の絵、何度もきかなくなる219号室のカードキー、行けども行けども着かないコンベンションセンター(カフカ的)、壁の絵、そして後半のホテル内での走り回り方、どれをとっても質の高いエンタメ作品。偶然私はこの作品を旅先のホテルの219号室で読んでいました(怖
読了日:05月11日 著者:ウィル・ワイルズ
処刑の丘処刑の丘感想
まず、このミステリの重要なポイントになるこの時代のフィンランドの内戦状況を知りませんでした。最初のところに日本人向けに赤衛隊白衛隊(いきなりロシアドイツと言われても)の簡単な説明と、この町がどういう状況下にあったかという説明がほしいと強烈に思いました。上司に阻まれながらも正義を貫こうとするケッキ、でもヴェーラに強烈に惹かれてしまう人間らしい部分も持っているケッキ、そしてあらゆる人が来るサウナでマッサージ係として働くヒルダの逞しさなど、読むべきところもありました。ヒルダの夫の心の傷もまた痛々しかったです。
読了日:04月14日 著者:ティモ・サンドベリ
魂でもいいから、そばにいて ─3・11後の霊体験を聞く─魂でもいいから、そばにいて ─3・11後の霊体験を聞く─感想
泣けました、大切なご家族を亡くした方々の絶望の姿に。311の東北地方の津波で肉親を亡くした遺族の方たちに現れた「死者からのしるし」。科学で割り切れないことを扱っているのできっとその部分でフィクションノンフィクションの論議もあるのでしょうが、確実にこれが遺族の救いになっていると思いました。ただ死者からの現象だけではなく家族がどうかつてあったのか、これからどうあるのかというところまで踏み込んで丹念に描かれていてそこに胸打たれました。いつも傍にいるよという気持ちが救ってくれるのですね。そして私は信じます。
読了日:04月07日 著者:奥野 修司
堆塵館 (アイアマンガー三部作1) (アイアマンガー三部作 1)堆塵館 (アイアマンガー三部作1) (アイアマンガー三部作 1)感想
楽しい!!奇妙なモノクロの挿絵も魅力の一つだし、両表紙の裏にある上の階下の階の断面図もまた楽しくて!話は、ごみの館に暮らしているアイアマンガー一族のクロッドという男の子と外からやってきた元気のいい女の子ルーシーという女の子の、ボーイミーツガールの話でもありますが、『物』の物語でもあるのです。全てのアイアマンガーには生まれた時に物が与えられていてそれはいっしょにいることが必須であり、なぜかその物の声が聞こえるのが体の弱いクロッド。後半凄まじい勢いで話が展開していくところが次巻への期待を膨らませます。
読了日:04月05日 著者:エドワード・ケアリー
痛みかたみ妬み - 小泉喜美子傑作短篇集 (中公文庫)痛みかたみ妬み - 小泉喜美子傑作短篇集 (中公文庫)感想
昭和、をあらゆるところに意識させられますが、古さは感じずそこがまた味になっていました。どの最後も予想範囲内ではあるものの、語り口が巧みなので思わず引き込まれます。幻影譚と思えるかたみ、の皮肉なラストがとても良かったと思いました(これまたヴェトナム戦争とか時代を感じさせます、重要なキーになってるし)。兄は復讐するは、大切にしていた妹が都会の地である出来事に巻き込まれ・・・というのに兄が復讐する文字通りの物語ですが。これまた語りが巧妙で兄の妹への執着のようなところまで描かれているところに好感を持ちました。
読了日:04月05日 著者:小泉 喜美子
青鉛筆の女 (創元推理文庫)青鉛筆の女 (創元推理文庫)感想
青鉛筆の女!(彼我の違いを再認識)話は3つの分野にくっきり分かれています、パルプフィクションと編集者からの手紙と改訂版と称する小説の3つに。編集者からの手紙で、どんどん書き替えさせられるフィクション。3つの中で改訂版の自分がいわゆるタイムスリップ&自分の存在自体が危うい世界に行くという部分が非常に面白く読ませました。それとパルプフィクション部分が重なり合い最後の方で思わぬ展開がありました。史実を知らないと面白くないと思うので、ウィキペディアを横に日付と用語を読むと更になるほど!と思う部分があると思います。
読了日:03月15日 著者:ゴードン・マカルパイン
最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常感想
藝大の中が音楽系と美術系がまったく違っているというのになるほどなあ・・・と思いました。音楽系の話では、ちょっと前に読んだ小説恩田陸の蜜蜂と遠雷を強く思い出しました。やっぱりコンテストとの戦いなのですね、あと先生とは師匠と弟子の関係。これが美術になると、自分よりもその作品だし、一過性のものでもないし、全く違う藝術なんだと改めて思いました。面白く読んだのですが・・・・続編を出してほしいです、掘り下げるために。藝大の数名の人たちだけではなく、先生とか両親とか(出ていましたが間接的が多い)へのインタビューとか。
読了日:03月10日 著者:二宮 敦人
騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編感想
騎士団長が出てくるところは言葉遣いにユーモラスさを感じました。一方で禍々しい鈴の音が鳴っていた土の中、これが最後になってまたきいてきます、ここは村上春樹の某小説の井戸の底に行く感じでした。免色さんの娘への思いの形がギャツビーの行動と同じだなあというのも強く思いました。父と子のモチーフが形を変えて現れています。夢での交わり、一人称、おしゃれな料理、音楽、文学への造詣とそこも楽しめました。一方で私には謎が残っています、免色さんの心の奥の闇とは何か。なぜ彼は最初の段階で穴を強烈に掘ったのかなど。エピローグは?
読了日:03月10日 著者:村上 春樹
騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編感想
楽しめました。今までの村上春樹を読んでいるとそこに使われていることがたくさん出てきますが、私は焼き直し、ではないと思います。一人称で書かれていて、今回は主人公は画家で、肖像画で糊口をしのいでいたのですが、妻との別居を機にある画家の別荘に住むことになるのです。最初にプロローグがあり、そこに顔なしが出てくるので、これはいったい?と思っているとラストまで読むとこの話だったのか!と膝を打ちました。広義のミステリでもあり、肖像画依頼してくる免色さんは一体何の意図が?とか、鈴の音は?とか引っ張っていってくれました。
読了日:03月10日 著者:村上 春樹
文庫解説ワンダーランド (岩波新書)文庫解説ワンダーランド (岩波新書)感想
時に大爆笑しながら読み進めました。こばひでって!(最大級に笑ったところ。重鎮小林秀雄)。いわゆる文庫の解説の解説、のような本です(過去の名作が多い)。文庫についている解説がこれほどまで出版社によって違っているとは!坊ちゃん一つにしても悲劇喜劇とこれだけあるとは!個人的には伊豆の踊子のラストがどうにも昔から解せなかったのですがすっきりしました。実は生真面目に分析しています。またわけのわからない解説をわからないと言ってしまうあたり、男気があると思いました(女性ですが)。切り口が非常に斬新でありました。
読了日:02月05日 著者:斎藤 美奈子
映画と本の意外な関係! (インターナショナル新書)映画と本の意外な関係! (インターナショナル新書)感想
大変面白く読みました。映画好き本好きだったら楽しめる本。最初のベルリン天使の詩のくだりも驚きました。インセプションのキルケゴールとの関係もそそられたし、leap of faithというのはこういうことなのか!!! という驚きもありました。ここからマトリックス続いてポセイドンアドベンチャーに行くところもお見事。20章のキャロルからハイスミスへの言及の中で、かたつむり小説はこういうことだったのか・・・というようにそうだったのか!という驚きが多かったです。見た映画も見ていない映画ももう一度見てみたくなりました。
読了日:02月05日 著者:町山 智浩
三人目のわたし (ハヤカワ・ミステリ文庫)三人目のわたし (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
全てを捨てて新しい人生を歩もうとしている主婦エミリー。過去からの思いを断ち切って名前まで変えて新生活に飛び込むエミリー。でも断ち切ろうとしても断ち切れない過去がずうっと彼女に付きまとっています。詳細な生い立ちから現在に至るまでが視点を変え、細かな心理描写を交えて描かれています。それにしてもなぜ出奔?それが大きな大きな謎になっています。ラストで確かに驚きはあるのですが・・・ちょっと私には腑に落ちないことが色々とありました、すみません。
読了日:02月05日 著者:ティナ セスキス
聖エセルドレダ女学院の殺人 (創元推理文庫)聖エセルドレダ女学院の殺人 (創元推理文庫)感想
極上のミステリ!犯人が誰かというのはもう最後どうでもよくなっていました、すみません。それよりも寮にいる7人の少女の生き生きしていることと言ったら!それぞれが得意分野があり持ち味があるのです、共通項は、「家で疎んじられているので家に帰りたくない少女たち」なのです。彼女たちの性格が実に鮮やかに描かれていて、読んでいて何度笑ったことやら。絶妙なのは、どんどん人がやってきて少女たちを混乱させその混乱が新たなる才能を開花させる(演技だったり、メイク技術だったり)ところでした。あり得ない箇所というのもまたご愛敬。
読了日:02月02日 著者:ジュリー・ベリー
幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)感想
新訳が出たので読んでみました。前のが読みにくいというわけではないけれど、圧倒的な読みやすさ。哲学小説とも言われますが、話そのものもどきどきするくらいに超絶に面白いです、今の時代でも尚且つ。巨大な宇宙船がある日やってきてオーヴァーロードと言われる異星人は決して姿を見せない。なぜ?何の目的で?こういうミステリでもあるのです、壮大なSFでもちろんありますが。第二部で、異星人の姿が出る時、うわーーーっとのけぞります。また真の目的が第三部で語られますが、そこでまたまたうわーーーー。一度読んだら忘れ難い話です。
読了日:01月24日 著者:クラーク
とりつくしま (ちくま文庫)とりつくしま (ちくま文庫)感想
単行本で既読だけど再読。この話の肝は、死んだ人が何らかの思いを持って、人にとりつく、のではなく、物にしかとりつけない、ということだと思います。だから勢い、未練のある人もしくは傍にいたい人の傍らにある何か、にとりつく。それは、愛する息子の野球の時に使う粉であったり( この話泣けた)、家族で使っていたマッサージチェアだったり、日記帳だったり。そこにとりつくことによって、自分がいない世界で皆がどうやって暮らしているだろう、というのを死んだ自分がまざまざと突きつけられるのです。自分だったら?と考えさせられました。
読了日:01月24日 著者:東 直子
楽天道 (文春文庫)楽天道 (文春文庫)感想
年代別っぽくなってるので、若い時の佐藤愛子が懐かしすぎて!まだお嬢さんの響子さんが結婚していなくて、遠藤周作の息子と結婚させよう話、は有名ですがここのくだり、何度読んでも笑えました。しかしぶれてない、佐藤愛子。ずうっとずうっと愛読者ですがぶれてない姿が素晴らしすぎます!
読了日:01月24日 著者:佐藤 愛子
本バスめぐりん。本バスめぐりん。感想
私自身、リアルな移動図書館利用者でした。過去形なのは、もうやっていないから。だからこの感じと雰囲気がとても分かりました。近所の人たちとの濃密な付き合い、図書館では巡り合えないような人たちとの出会いが。それに加えてこの物語ちょっとした謎、が入ってほのぼのとしています。が。私の違和感は、図書館員が借りた人の本をこういう傾向だと話し合っていること・・・あり?なんでしょうか、これは。借りる側にとってみれば嫌だな~~。主人公二人があともう一歩魅力的だったらもっともっと惹かれる話だと思いました。
読了日:01月24日 著者:大崎 梢

読書メーター
12月の読書メーター
読んだ本の数:12
読んだページ数:4422
ナイス数:224

TOKYO海月通信TOKYO海月通信感想
今回出るのがちょっと早かった?(というような気が)ぎりぎりで買いますが、今回は余裕で買って読めました。これを読まないと一年が終わった気がしないので。一年の中で、小池人気から凋落まであっという間というのがよくわかったなあ。映画の趣味はいつも全く違うと思っていたのですが今年は比較的シンクロしていて・(ベイビードライバーとかとか・・・)嬉しかったです。ラ・ラ・ランドの試写会のスマホ注意の話も天晴れと思いました、注意した女性に。中野さんのイラストページも大好きでそこはかとなく似てるのが笑えます、毎月の俳句も一興。
読了日:12月30日 著者:中野 翠
ソラリス (ハヤカワ文庫SF)ソラリス (ハヤカワ文庫SF)感想
以前の訳で読んでいたのですがどこまでわかっていたのか・・・そして今回も全部把握しているか?と聞かれたらそうではないとは思うのです。でもです、把握しきれていなくても非常に感動しました。最後まで謎は私の中でたくさん残っています、ソラリスの海が見せたものは人間の中のあるものなのですが、それは友好だったのか反発だったのか、無作為なのか。そもそもコンタクトの概念があるのか。また、ケルヴィンの恋愛話も勿論読ませますが、今回改めて読むとソラリスの海の造形が鮮烈でこちらに迫ってくるようで心に残りました。ラスト一行も秀逸。
読了日:12月30日 著者:スタニスワフ・レム
蝶のいた庭 (創元推理文庫)蝶のいた庭 (創元推理文庫)感想
堪能しました。ぎゃあ!読みたくない、でも先が気になる、止められない一冊でした。若い女性の事情聴取から始まり、最初の内はこの女性が一体誰なのか名前も年齢もわからず、ばかりか、被害者なのか加害者なのかも不明です。女性の語りがはぐらかしが多くそこが面白いです。滝も川もある『ガーデン』という場所で『庭師』が何を行っていたかが徐々に紐解かれていくところがおぞましくまた幻想的でした。内容的にジョン・ファウルズのコレクターをどうしても思いますが、この作品の方の庭師の方が愛などは全く求めないので、より怖いと思いました。
読了日:12月30日 著者:ドット・ハチソン
きっとあの人は眠っているんだよ: 穂村弘の読書日記きっとあの人は眠っているんだよ: 穂村弘の読書日記感想
穂村弘の読書日記って、特別な感じがします。彼の独特の視点、独特の言い回しによって(しかもわかりやすい)、自分が読了した本については(こういう見方があったのか!自分も考えていた?もしかして?)と思わせてくれる一文があるし、また知らない本では(ああ・・・読んでみたい!)と思わせる一文が必ずありました。知らない本、読んでいない有名な本をさくっと普通に読んだよ今、と語っているところにも好感を持ったし、古本屋さんで高い本に買うか買わざるか逡巡する姿にも微笑みました。ほむほむ万歳!
読了日:12月28日 著者:穂村弘
狩人の悪夢狩人の悪夢感想
このシリーズの中では好きな方でした。ホラー作家とミステリ作家の対談から始まるのですが、二人とも作家なので、そのスタンスの違い、売れている売れていないの違い、作家としての矜持、とそのあたりも非常に面白く読みました。また有栖川有栖と火村との会話もいつも通りに楽しんでいましたが、火村の夢は・・・一体?このミステリ、夢と弓矢が重要なアイテムとなってきます。犯人がなぜこういう行動をとったのか、というのを追い詰めていく姿は読ませました。
読了日:12月28日 著者:有栖川 有栖
東の果て、夜へ (ハヤカワ・ミステリ文庫)東の果て、夜へ (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
15歳の黒人少年イーストが、組織のボス(叔父)の指令を受け、三人の少年たちと一緒に長い長い旅に出るのです、それもある重要な証人を殺す旅に。ミステリであるけれどロードノヴェルでもありました。足がつくので、車の移動手段なのですが、ここで4人が軋轢を生み、葛藤し、それぞれの個性の主張をしてぶつかりあう青春物でもあります。特にイーストの弟の一種壊れたタイが暴力的であり、手がつけられない人間なのです。最後の驚きとともに一気に読みはしたのですが・・・ともかくもこの小説に必要なのは地図、だと思いました。
読了日:12月28日 著者:ビル ビバリー
粘土の犬 - 仁木悦子傑作短篇集 (中公文庫)粘土の犬 - 仁木悦子傑作短篇集 (中公文庫)感想
仁木兄妹物はぼちぼち既読なのですが、一冊に仁木悦子がまとまるということが嬉しいです。短編集ですが、「おたね」に衝撃を受けました、犯人が誰ということはすぐにわかりますがそれよりも犯人が取った行動にある種の『選択』がある、その描き方が巧いなあと思いました。「罪なきもの~」はシリーズ化してほしかった、特に転がり込んでくる男のキャラが最高でした。「弾丸~」もあれ?という謎から引っ張ってくる楽しさがあります、映像と実際が連動するなんて!と。表題作は目の見えない子を軸に据えた殺人事件の謎解きが光ります。
読了日:12月28日 著者:仁木 悦子
怖い絵のひみつ。 「怖い絵」スペシャルブック怖い絵のひみつ。 「怖い絵」スペシャルブック感想
大盛況(混みすぎ!)の展覧会の前に熟読した本でした。今までの怖い絵シリーズも楽しめましたが、ピンポイントで展覧会出品の絵を語ってくれているので読み込みました。そのあと実際の展覧会へGO!(夜だったので待ち時間がほぼなかったのが嬉しかった、でも中は大混雑)このスペシャルブックは、最後に宮部みゆきとの対談(宮部みゆきもこのシリーズの大ファンだそうです)も良かったです。中野さんの絵の見方というのは、背景を読み解いてくれるので大好きです、ぼんやりと眺めるのも一興、全てを知って見るのもまた一興。
読了日:12月28日 著者:中野 京子
13・6713・67感想
香港ミステリというので非常に敷居が高かったのですが。最初の話から意外性の連続で驚きまくりました。最初の話にこのミステリの良さが集約されているかも。現在から過去に至る遡りの方式で描かれているので、主人公達の現在の姿を知りながら過去を徐々に知っていくという面白さがあり、(ここが分水嶺だったんだなあ・・・)とか(ここでもし別の道を歩んでいたら・・・)とか(推理部分も面白いのですが)人間的なところで多々思うことがありました。同時に香港の歴史も遡っているのでそこも非常に読みごたえがありました。そしてラストが!!
読了日:12月23日 著者:陳 浩基
エル ELLE (ハヤカワ文庫NV)エル ELLE (ハヤカワ文庫NV)感想
映画は見損ねたのですが。驚きました、この話、レイプから始まるという話というのは知っていたので、勝手に『そこから立ち直っていく女性の話』だと思っていました。ところが、このレイプされた女性の過去がすさまじく、レイプそのものも異常な状態なのに、あまりに過去が異常でそれが薄れるような、ぞっとする人生だったのです。更に!後半女性が取った行動が思いもよらない行動で、更にその行動をとったことによって、思いもよらない展開が待ち受けている。すさまじい話です。全員が狂気の中、唯一女性の元夫のみが普通の人、に見えました。
読了日:12月23日 著者:フィリップ ジャン,Philippe Djian
雪と毒杯 (創元推理文庫)雪と毒杯 (創元推理文庫)感想
仰々しくないけれど良いミステリを読んだなあというのが印象。雪山に閉じ込められてしまう人達、しかも遺産相続が目の前にある状況の人達なのです。クローズドサークルものでもあるのですが、大雪の中、この村の中だけは行き来できるクローズド具合というのもまたオツです。最後まで読むと最初の死にゆく人の場面をもう一度読み直したくなるし、言葉の伏線もきちんとしています。犯人はこの人だというのが何度も飛びかいますが、真犯人の動機がとてもわかったのと、事件が全て終わってからの真実の開き具合が好きでした。にしても、『彼』可哀想!
読了日:12月23日 著者:エリス・ピーターズ
ダーク・マター (ハヤカワ文庫 NV ク 22-4)ダーク・マター (ハヤカワ文庫 NV ク 22-4)感想
妻と一人息子との幸せなな家庭生活を送っているが学問的にはもうちょい上に行きたかったかも、の物理学の教授が、ある夜突然殴られ目覚めると誰も自分を認識してくれない世界が・・・。もうこのあたりで、どういう展開か、というのは読める気がしたし、その方向に確かに行くのですが。一種のバカSFっぽいところもあります。途中で大いに笑いましたし。が!!!話はここからで後半、私には思いもよらない動きがありました。SF展開でもあるので、好みは分かれるかも。私は最後の顛末のところでとてもとても感動しましたが!
読了日:12月23日 著者:ブレイク・クラウチ

読書メーター
2017.12.30 海月通信



評価 5

毎年買っているシリーズなのだが・・・今回出版がちょっと早い?というような気がした。
年末押し迫ってからだと、確かに見落とすしなあ・・・
これを読まないと一年が終わらない・・・

今回も一年振り返って、あれこれあれこれ世間であったなあ、映画ではこういうのがあったなあ・・・という中野翠さんの視点で語られていく。
今回ちょっと思ったのは、いつも映画の趣味が違うなあ・・・と思っていたのだが、意外に今年は合っていた(ベイビードライバーとか、ララランドとか)
ラ・ラ・ランドの試写の時の話は笑える。
スマホをそんなにやりたかったら・・・本当に本当に映画館でスマホをつける人って何だろう?と毎回思っていたので、抗議した女性素晴らしい。
しかも試写会って映画ファンが集まるのじゃないのか?そこでスマホって・・・

小池人気の都議選が今年だったのね、と改めて思った、もう昔の事のような気が・・・いわば一周回ったのがこんなに早いんだ、小池さん・・・と思ったのだった。

・・・
中野翠さんのイラストがちょっとついていてそのページも案外楽しい。
似ている、俳優さんとかその人に。
そこはかとないイラストなのに似ているところがおかしみがある。
また、俳句が毎月ついたというのも嬉しいところだった。

サンデー毎日の連載をまとめた本なので、(ああ・・・これが出た直後に読んでいたら!)と思うことが多々あった。
(終わってしまった運慶展覧会など彼女の口を借りるとなんて楽しそうなんだろう!行けば良かった。)
2017.12.29 ソラリス



評価 5(飛び抜け)

前のソラリスの陽のもとには読んでいてけれど、本当に私はわかっていたんだろうか?
恋愛部分にしか目がいってなかったんじゃないだろうか?
いや今回も完全に把握しているんだろうか?
しかも最後までわからないところはわからない、一体ソラリスの海とは?知性とは?
それにもかかわらず、とても面白く読んだし、どこもかしこも何度も読み返したいような言葉の連続だった。
いかしてる、と言っていいのかもしれない。
今回新訳、しかもあとがきを読むとプラスのページがあり(削除されていたらしい)、ポーランド語からの直訳ということで、おおいにおおいに期待して読んで、その期待通りの本だった。

SF小説としてもう様々な読み方が自由自在にできるというところが既に名作たる所以だろう。
途中ソラリス学が入って生みの濃密な描写があって、そこが前の本で苦戦したところだったのだが、今回そこすら面白く読めた、時間はかかったが。
惑星ソラリスがどのような形状なのか、がまず語られる。
海で覆われた惑星ソラリス・・・
どのように表面が動いているのか。
彼ら(彼ら、かどうかもわからないが)は意思の疎通ができるのか。
そもそも、人間の考える意思の疎通という概念を持っているのか。
言葉のようなものを有しているのか。
それとも敵対した心を持っているのか。
心のようなものがあるのか。
非常に高度な生命体のように見えるけれど、自らの軌道を修正しているのはソラリスそのものなのか。
赤と青の二つの太陽がある宇宙空間で回っている惑星ソラリスの存在意義は何か。

ソラリスに対しては昔から多くの科学者が研究してその過程で多くの人が亡くなってもいる。
そういうことが読んでいくと文献とか主人公のケルヴィンの言葉からわかってくるのだ。

しかもこの導入部分の素晴らしさと言ったらどうだろう!

心理学者ケルヴィンはソラリスの上空にある宇宙ステーションにソラリス研究のため派遣される。
そこで歓待されると思いきや、ケルヴィンが見たのは荒れ果てたステーションの内部だった。
知り合いのギバリャンの姿はどこにも見えないし、疲れ果てているように見えるスナウトの話すこともはっきりしない。
しかももう一人いるサルトリウスは部屋にこもっていて出てこない。
中で働いているはずのロボットたちも見えない。
一体どうしたのだろう?
何が起こったのだろう?


<以下話に触れます>


折角宇宙の果てまで行ったケルヴィンが最初の方でお気の毒、としか思いようがない状況に置かれいる。
これは、ミステリ小説の導入部分のようだ。
唯一不満足ながら話せるスナウトの指をよく見ると血がついていた・・・(ますますミステリ)

しかも!
上半身裸で下に黄色いスカートをはいたかなり巨大な黒人女性がどすどすと廊下を歩いているのをケルヴィンは見かけるのだ。
一体誰?
ケルヴィンならずとも度肝抜かれる展開だろう。
ここでもスナウトに全てを聞こうとするのだが、スナウトがはっきり答えない、出てくるのは曖昧模糊とした答えばかりだ。
何が起こっているんだ!!
このあとスナウトが話すことが本当とすれば
・ギバリャンは死んだ
・ロボットたちは倉庫に入れた
ということだけははっきりした。
そしてもう一人のサルトリウスの所に行くが、彼は彼でドアを開けてくれない。

・・・・・
ここまででも非常に引き込まれる導入部分だ。
ケルヴィンは知力は高いがごくごく普通の人間なのでここまでのことが全く理解できない。
外を見るとソラリスの海が不気味にうねっているだけだ。

ところが、ここからの展開で、ケルヴィンはある種巻き込まれるのだ、この全体に。
なぜなら、ケルヴィンの愛した女性ハリーが何故か部屋の中に座っている。
ケルヴィンは驚愕する、なぜならハリーはちょっとした言い争いの末10年前に自殺してしまった人間だったからだ。
このハリーはそっくりのハリーであり、ケルヴィンの心を大いにかき乱す。
が、このあとこのハリー1をケルヴィンは偽者と考え宇宙空間にロケットで飛ばしてしまうのだ。つまり抹殺してしまう。

やれやれ終わったと思ったら、再びハリー2が訪れるという事象が起こる。
え!ハリーはいなくなったんじゃないのか???
そして徐々にこの幻影ともいうべきハリーは、『ソラリスの海が見せている』ということがわかってくる。
人間の一番奥に潜んでいるトラウマを現実に呼び起こすのがソラリスなのだ。
でもなぜ?
この答えは最後までわからない。
途中で、子供が何のために?という質問する場面が出てくるけれど、まさにこの何のために?というのは読んでいる間中頭の中をよぎっているのだ。
人知を超えたおおいなる考えがあるというのは神でもあると思うが、この場合ソラリスの海は神のような存在になっているのか。

ケルヴィンがハリー2の血液を調べる場面も印象深い。
ずうっと顕微鏡で探っていくと、形成されているのがニュートリノということがわかってくる。
完全に人間ではないハリー2がそこにいた。

ハリー2が段々学習していって、最初はただの(最初のかハリー1の)ハリー模造品だったのにケルヴィンの心を推し量るハリー2に成長していく。
そしてケルヴィンはこのハリー2に恋をするようになるのだ。
この部分もとても切ない、なぜならハリー2は最初の人間ハリーに似ているからこそケルヴィンは心惹かれたのだし、尚且つ、ハリー1に対しては宇宙空間に飛ばしてしまうという措置をとっている。ハリー1とハリー2の違いって何だったのだろう?と考えた。
ハリー2とここから飛び立ち普通に地球で二人で暮らす生活を夢見るケルヴィンもまたいる。

・・・・・
一方で、スナウトとかサルトリウスのトラウマが何だったのか、というのはぼんやりとしかわからない。
子供?黒人?
ではなぜそれが?というのは最後まで読んでもこれまたわからない。

一方でソラリスの海はうねっている、ずうっとそこにある。
高度な知性を持っているけれど、それは人間の考える知性とはおそらく全く違う種類の知性だった。
何年もの間、ソラリスとコンタクトを取ろうとしているソラリス学の権威達がいるけれど、異質、としか言いようがない行動なのだ。
そもそもなぜトラウマを探ってその擬態を宇宙ステーション内に出したのか、それすらわからない。
悪意というものがあるとすれば、これは混乱させようとする意図なのだろうがそうでもなさそうだ。

とまれ、ケルヴィンの起きているときの脳波を照射してからは、海は異常な動きをする。
その挙句に擬態を送ってこなくなるのだ、これは偶然のヒットなのか。
それともこちらが嫌だと思うことを向こうが察知したのか。

生きている海。
思考しているだろう海。
人間が予想しえる範囲のコンタクトというのが何だったんだろう?という疑問にも再びぶち当たる。
何らかの目的を持っていた、とケルヴィンは考えるけれど、目的そのものがあったのだろうか。

・・・・
ラストが非常に感動的だ。
ハリー2が自ら自分のみを滅ぼしてから、ケルヴィンは海の中に降り立つ。
(この時点でケルヴィンは三回ハリーを失っている。
一度目は人間のハリーの自殺。
二度目は幽体ハリー1を自ら宇宙空間に飛ばすことによって殺す。
三度目は幽体ハリー2が彼女なりの方法で自殺)

海で、古代遺跡のようなものを見たり、島を見たり、さまざまな擬態を見るのだった。
そして彼は、最後に思うのだった。

『それでも、残酷な奇跡の時代が過ぎ去ったわけではないという信念を、私は揺るぎなく持ち続けていたのだ。』
2017.12.27 蝶のいた庭


評価 5

監禁の物語だ。
おぞましくどうしようもない悪夢の迷宮に紛れ込んだような話なのに、読むのを文字通りやめられなくなるのはなぜだろう。
この閉ざされた世界がもし現実にあれば吐き気のするような世界なのに、文章で読むとちらっと(とんでもない悪夢だがひょっとして倒錯的な美しさがある?)と思えてしまうのはなぜだろう。
一種幻想的であり、この幻想的部分を全く感じずに現実であったら・・・ばかり考えたら、ただの薄気味悪い後味悪い話、で終わるだろう。
一人の少女の口から、閉ざされた『ガーデン』が描かれ広がっている。

滝があり小川があり外界から全く遮断されている場所、ガーデン。
そこに10人以上の美し少女たちが集められ身ぎれいにされ、『庭師』の思うがままにされていた。
彼女達はどこからか時期をずらして連れてこられ、ある一定の年齢になると剥製にされる。
背中に蝶の羽の刺青の刻印を刻まれそこで過ごす少女達の前途は・・・


しかしこれを語るのは、彼女が犯人側か全くの被害者側かわからない、年齢不詳でしかも本当の名前すらわからない少女マヤの供述からだ。
全体は、取調室だ。事情聴取を行なっているのは 、FBI特別捜査官のハノヴェリアンとエディソンだ。
ある事件で十数人の若い女性が救出 され、保護されるが、誰も口を閉ざしていて語らないので、この中のリーダー格の若い女性に様子を語らせているのだ。
彼女はいったい何者なのだろう?
彼女は真実を語っているのだろうか?
彼女のどこに真実があるのだろうか?
この取調室と、彼女の供述が交互に描かれていく。
物語のこの『よく素性のわからない少女が語っていく』作り方がとても巧みであり、こちらをぐいぐい惹きつける。
マヤの語りに翻弄されるのは、聞き手の刑事達だけではなく、読者の我々もだ。

<以下内容に触れます>

次々とわかってくるガーデンの様子がある。
取調室にいるマヤが語るたびに、悲惨な少女たちの状況が広がってくる。
しかし肝心な場面になると、マヤのはぐらかしが始まって、茫漠として全体像がなかなかつかめないもどかしさがある。
監禁された少女達は互いに助け合っていくのだが、中には精神を病む者もある。
どうしても元の世界に戻りたい者もいる。
21歳になると自動的に殺されるという事もわかってくる、そこまでの命を何とか繋いでいる少女達の姿があり、連れてこられて混乱している少女を元からいる少女が納得させようと言葉をかける場面もある。
少女によって家の状況が違うので、帰りたい家がある恵まれた少女とそうではない少女に分かれるところもまた興味深い。

監禁、性暴力、部屋の中の盗聴器、完全に隔離されているガーデンという場所。
完全に『庭師』に把握され肉体のみならず精神の自由すら奪われている少女達がいる。
庭師の作ったこの世界に少女たちはピンナップされた蝶のようにとめられてしまっている。

この話、中盤になってやや動いてくる。
なぜなら、庭師には息子が二人いて、兄は父親の庭師同様(それ以上?)不遜でありやりたい放題である酷い人間なのだが、弟デズモンドはガーデンそのものの仕組がよくわかっていない、が、ある日全ての真実を否が応でも知ることになるのだ。
大学生の彼は、父親を信じたい気持ちとこれを通報したら自分たち家族が滅びるという気持ちと、少女たちの悲惨な様子を実際に見ている現実とで揺れている。
しかし彼もまたマヤと関係を持ってしまうところから、彼自身のモラルというのがなくなってしまったのかと思っていた。
が・・・

・・・・・・・・・・・・

この話、どうしてもジョン・ファウルズのコレクターを思う。
監禁、ということもそうだが、コレクターでは監禁する側の人間が元々『蝶』の収集家でもあったところから蝶繋がりもある。
が、大きく違うと思ったのは、(集めたのが一人と複数とか、地下室ではないとか、性的暴力が行われないとかの外部的なことは別にして)蝶のいた庭では、全く相手の少女たちの心情とか心の動きとかを庭師は考えていないのだ。
愛されたいとも思っていないし、自分が愛しているとも思っていない。
ただただ純粋に(という言葉は語弊があるが)自分の欲望のために収集して加工した美しい少女達、なのだ。
それに対して、コレクターの男は、相手が自分を愛してくれるかもしれない、自分のことを気にかけてくれるかもしれないという精神的な欲望を持っている。
どちらも歪んでいるが、蝶のいた庭の方がドライな男なのだ、ウェットなコレクターの主人公とは違って。
しかも庭師はあろうことか日常生活も普通に送っていて妻も子供二人もいることが徐々に判明してくる。
何の躊躇いもなく、陶器のように精神がつるっとしている庭師がいて、なぜいけないのか?とそこすらわからない男なのだ、おそらくは。

・・・・・
彼女たちが一致団結して立ち上がったのは、ほんの幼い少女を頭の狂った長男がさらってきた、という事実だ。
まだ子供ともいうべき少女になんとか蝶の羽のタトゥーを入れさせまいと皆思う。
なんとかこの少女にこれ以上の凌辱を与えまいと思う。
そこから脱出が企てられるのだが・・・

・・・・
ここでは名前という事も大きなこととして浮かび上がっている。
マヤは、イナーラであった。
けれどこれすら本名ではない、偽名である。
庭師がつける名前と偽名、この二つをマヤは同時に持つ。
そして、マヤがガーデンの生活を語っている中には、彼女自身の離婚した両親、そこからとんでもない祖母に引き取られ・・・というようにほぼネグレクトされていた彼女の生い立ちもまた浮かび上がってくる。
このあたりが非常に重層的な部分だと思った。

ラスト、あることがわかる。
けれど、このあることは、ここまでに行きつくまでのあまりの大きなガーデンの話に圧倒され、なんだか小さく見えたのだった。